グラハム・シェルビー

Graham Shelby with Japanese students in 1996
20年前、私は福島県中部の山間部にある小さな町の中学校で「語学指導等を行う外国青年招致事業」(Japan Exchange and Teaching Program)、通称JETプログラムの外国語指導助手として教壇に立っていた。外国語指導助手1年目の私にとって一番の驚きは、今までにない経験と懐かしい気持ちを同時に味わえたことだ。

まず最初に気づいたのは生徒たちの制服だ。男子は詰め襟の黒い学生服、女子はセーラー服を着ていた。生徒たちの忙しいスケジュールにも驚いた。授業は土曜日もあり、放課後の部活動も一年中ある。高校、大学受験に向け、勉強もたくさんする。

日本には3年いたが、福島での学校生活から日本文化について非常に多くのことを学んだ。同時に、そこでの経験を通じて、生徒たちに英語だけでなくアメリカ文化についても教えた。写真を見せたり、アメリカの学校との文通プログラムを企画したり、自分の中学校、高校の卒業アルバムを見せたりもした。私が生徒たちと話したいくつかの事柄をここで紹介したい。

制服

私はアメリカで育ったが、自分が通った学校はどこも制服がなかった。また着用する服について厳しいルールもなかったと記憶している。下品な言葉が書いてあるTシャツの着用を禁止するといったような、明文化されていない、ゆるいガイドラインがあったぐらいだ。中学時代の私は、好きなチームやアイドルがプリントされたシャツを好んで着ていて、まるで歩く広告塔みたいだった。

しかし今では、アメリカでも制服を採用する学校が増えているようだ。その理由の1つが、服装を制限することで生徒間の経済格差がはっきりしなくなるということがある。しかし服装に関するルールは日本に比べると圧倒的にゆるい。多くの学校では、着用するポロシャツやズボンの色が決められているぐらいで、スクールカラーやスクールロゴがついたTシャツも着用できる。

課外活動

アメリカの学校では、スポーツチームなどの部活動に入ることは強制ではない。実は、学校のスポーツクラブには入部テストがある。つまり、スポーツによっては上手な選手だけが入部を許可される。各スポーツはシーズンが決まっている。私の高校では8月から11月下旬までがフットボール、10月から3月までがバスケットボールとなっていた。それ以外の期間はオフシーズンで、選手たちの公式練習はない。

日本では高校野球が人気だが、全米が地域ごとに熱中する金曜夜の高校生の一大イベントといえば、フットボールかバスケットボールの試合だ。

私はケンタッキー州のレキシントンで育った。中規模の都市で、公立高校が4校あった。私の学校のバスケットボールチームが学校対抗戦に出るときには、体育館はチケットを購入した2000人以上の観客で埋まり、歓声や応援、時には審判へのブーイングで会場中が盛り上がった。

ほとんどの学校にはチアリーダーや、試合と試合の休憩時間やハーフタイムに演奏するバンドがいて、観客を盛り上げたり、楽しませたりする。チアリーダーやバンドの部員たちは一年中練習し、州大会などの試合に参加する。

アメリカの学校のほとんどのスポーツチームには、ニックネームがついていたり、チームマスコットがいたりする。少数だが、試合のときに生徒がマスコットの着ぐるみを着る学校もある。私の学校は開拓時代の要塞跡地の近くにあったことから、ニックネームは「ディフェンダー」。マスコットは、アライグマの毛皮の帽子をかぶった開拓者だった。

©AP Images

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お祭り、ダンス

秋になるとほとんどの学校では「ホームカミング」と呼ばれるイベントを開催する。日本で言えば、私が大好きで、よく参加した文化祭がそれに近い。文化祭が各学校によって違うように、アメリカでも各校がそれぞれ趣向を凝らしてホームカミングを企画する。ホームカミングは通常、初秋に開催され、学校のフットボールチームが地元で試合を行う日の前後に集中している。卒業生たちを母校に招待し、生徒会は最上級学年から男女1人ずつをホームカミング式典の象徴である「王」と「女王」に選ぶ。

学校によっては、地域ぐるみでホームカミングのパレードを実施する。ホームカミングまでの数日間は「スピリットウィーク」と呼ばれ、学校では地域との連帯感を生徒が育むさまざまなイベントを開催する。例えば、生徒と教師がおもしろい帽子をかぶる「クレイジー・ハット・デー」というイベントもある。この日に、巨大な帽子をかぶってきたスペイン語の先生とすごく真面目な話をしなければならなかったことがある。私の忘れられない思い出だ。

ホームカミングのフットボールの試合の後は、たいていダンスがある。春に開かれる「プロム」と呼ばれる正式な卒業ダンスパーティーとは反対に、ホームカミングのダンスは、よりカジュアルなもので、学校の体育館で開催されることが多い。薄暗い照明の中、DJが音楽を流したり、バンドが演奏したりする。教師や親はお目付け役として出席する。男の子から女の子をダンスに誘うのが恒例だが、女の子から誘うケースもある。特にスローテンポの曲になると、男の子も女の子も会場のフロアに立って声が掛かるのを待つ。もちろん、友達同士で踊っても、1人で踊っても大丈夫だ。

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アメリカの学校は高校入試がなく、夏休みも長いなど多くの点で日本の学校と異なる。

福島では、英語と日本語を駆使して、生徒たちにこのような違いを頑張って説明した。授業が終わると生徒たちは一礼をして私に感謝を示してくれた。しかし、その後はふざけあったり、教室を走ったり、廊下に飛び出したり、おしゃべりしたり、笑いあったりする。教師にとって、この心温まる光景は万国共通だ。


グラハム・シェルビー

Graham Shelby

ケンタッキーを拠点に作家および講師として活動。1990年代に「語学指導等を行う外国青年招致事業」(JET)プログラムを通じて3年間福島県で英語を教えた。以来、日本での体験をもとに数多くのエッセーを執筆。日本語を教えたり、企業のワークショップで異文化コミュニケーションを指導するほか、全米各地の学校で多くの生徒たちに日本の昔話や怪談を英語で披露している。ウェブサイトは grahamshelby.com