子どもの頃のことや、どのような教育を受けたかを聞かせてください。

小枝絵麻(こえだ えま)

小枝絵麻(こえだ えま)

小枝 父の転勤が多く、実は私はイランで生まれました。4歳の時にアメリカに引っ越し、それ以来、高校まで普通のアメリカの学校に通っていました。その後、大学入学のために日本に帰国。大学3年の時に交換留学生としてボストン・カレッジに行きました。日本で就職しましたが、料理についてもっと学びたかったので、子どもの頃から行きたかったカリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ(CIA)を選びました。

 料理学校は大学の学位取得プログラムですか。それとも1年だけのプログラムですか。

小枝 両方のプログラムがあります。CIAには、大学の学位と料理学の修了証明書を同時に取得できるプログラムがあります。日本には、大学の学位と料理学の修了証明書を両方取得できる学校はないと思います。アメリカにはそのようなプログラムが多数あり、それが大変有利な点です。アメリカではあらゆる種類の料理が提供されており、世界中のさまざまな人々と一緒に学べるので、アメリカは料理を学ぶには絶好の場所だと思います。

 料理に興味を持ったきっかけを教えてください。

小枝 おそらく私の家族環境によるものだと思います。私の家ではほぼ毎週末お客さまを迎え、母や姉と一緒に料理したものです。私は人をもてなすことが大好きだったので、これを仕事にできたら最高だと思いました。ボストン・カレッジには交換留学生がたくさんいましたが、その多くは英語があまり話せませんでした。週末にはパーティーや集まりがあったので、それぞれ自国の料理を作ったものです。そうしてみんな友達になるのです。私は、料理が言葉の通じない人同士のコミュニケーション手段になるのではないかと思いました。それで私の仕事はビジネスやマーケティングではなく、世界中で通用するコミュニケーション手段として料理を利用することだと考えたわけです。

 ヨーロッパや日本には人気のある料理学校がたくさんあります。なぜアメリカの料理学校を選んだのですか。

小枝 日本で料理を勉強するとおそらく4~5年かかると考えました。一方、アメリカには1年間の短期プログラムがあり、内容もきめ細かでした。それでアメリカを選んだのだと思います。またアメリカの学校には、世界中からたくさんの人々が集まります。日本の料理学校に行っていたら、接するのは日本人だけだったでしょう。私が行った学校は国際色豊かで、イタリア人などヨーロッパの人たちや、アジアの人々も大勢いました。

 CIAはカリフォルニア北部のナパバレーにある料理学校ですね。第一印象を聞かせてください。

小枝 とても穏やかで景色が大変美しいところだと思いました。CIAに行く前、私は単に料理を学ぶつもりでしたが、最終的には食とワインの組み合わせについてもっと学びたいと思うようになりました。どこに行ってもワインがあるナパにいたからでしょう。簡単なディナーの席であっても、必ずワインが添えられていました。ですからワインと食の組み合わせ方を学ぶ絶好の機会になりました。私はワインの作り手や、ごく普通の日常的な状況で、ワインと食を組み合わせるシェフから学ぶことができました。

ナパバレー(AP Photo/Eric Risberg)

ナパバレー(AP Photo/Eric Risberg)

 アメリカ留学中に仕事をしたり、インターンシップに参加しましたか。

小枝 はい。CIAにいたとき、チョークヒルというワイナリーでエクスターン(英語ワンポイント・レッスンを参照)をしました。ワイナリーにはキッチンがあり、そこでワイナリーに来たお客さまをもてなしたり、食事とワインの組み合わせを試したりしました。ワインを試飲し、そのワインに地元で採れた農産物を合わせてみました。毎朝天候をチェックして、お客さまに喜んでもらえるようなメニューを開発したものです。

 CIAでの勉強を終え、日本に帰国して、今の仕事を選んだ経緯を教えてください。

小枝 CIA在籍中はアメリカ料理を専門にするつもりはなかったのですが、ここ10年、特に私がアメリカを離れていた2年間に、アメリカ料理の質が高まっていたことに大変驚きました。農産物の質が驚くほど高くなっていましたし、アメリカ料理は進化していました。アメリカに15年以上住んでいましたが、アメリカ料理がこれほどおいしいとは知りませんでした。それで、今のアメリカの農産物や料理がいかにおいしいかを日本の人々に伝えたいと思ったのです。日本帰国後に食とワインに精通したカリフォルニア料理の専門家になることにしたのは、そのような理由からです。日本にいるときにはほとんど日本食を食べ、そばやおすしが大好きでした。でもカリフォルニアでは、なぜか日本食が恋しくなることは全くありませんでした。それはおそらく、カリフォルニア産のヘルシーな野菜などの質の良い農産物をいつも食べていたからだと思います。

 アメリカ大使館の農産物貿易事務所と大使公邸でのお仕事について聞かせてください。

小枝 大使公邸では何回かイベントを催しました。公邸付のシェフと一緒にアメリカ料理のメニューを紹介しました。東日本大震災の津波の被害者を支援するチャリティー活動もしました。スージー(ジョン・ルース駐日米国大使夫人)の発案で、日本とアメリカの食材を使ったイベントを行い、両国の食材を使ったレシピ本を作りました。収益は全て被災地のひとつ女川町の支援に使われます。日本にいながら何もできなかったので、このプロジェクトに参加でき、とてもうれしく感じました。自分でも何かしたいと思ったのですが、何をすれば良いのかわかりませんでした。ですから、私にとっては、人を助けるために自分にできることをする、とても良い機会でした。私たちは「トモダチ」なのだから、レシピ本では日本とアメリカの食材を使うべき、というのはスージーの考えでした。私たちは日米の食材を使ったレシピ本を作り、アメリカ独立記念日のパーティーやその他のイベントで紹介しました。

CIAグレーストーン校の刺繍入りシェフコート

CIAグレーストーン校の刺繍入りシェフコート

 アメリカの食材の話が出ましたが、日本で購入できて毎日の料理に使えるもので、お勧めのアメリカ食材はありますか。

小枝 私は毎日の料理にレモンを使います。レモンが大好きです。カリフォルニア料理はレモンを多く使うと思います。レモンの酸っぱさが好きですが、フルーティーなところも好きです。家ではレモンが欠かせません。日本では濃縮ジュースに慣れていますが、生のレモンを使うと風味や香りが増すので、日々の料理にレモンを使うことをお勧めします。米酢の代わりにレモンを使ってもいいです。私は少量のレモンをお浸しに使ったり、時にはカルパッチョのように刺身に使うこともあります。

他には、ナッツを使うとカリッとした歯ごたえが生まれますし、栄養価もとても高い食品です。私の子どもには他の食品の代わりにナッツを与えていますし、フルーツも与えます。例えば、ごまあえはとても日本的な料理ですが、私は時々ごまの代わりに砕いたクルミを使います。同じようなカリカリ感がありますが、含まれるビタミンの種類が異なります。そのように毎日の食べ物をアレンジできます。

 日本には食べ物に関するテレビ番組が多数ありますが、アメリカで放送されている食べ物関連の番組について教えていただけますか。

小枝 そうですね。日本には日本料理やイタリア料理や家庭料理の作り方を教えるテレビ番組はたくさんありますが、お客様を招いての「おもてなし」についてのテレビ番組はないと思います。アメリカには「おもてなし」についてのテレビ番組がたくさんあります。それに日本にはアメリカ料理についてのテレビ番組がありません。いつも中国料理、イタリア料理、フランス料理で、アメリカ料理に関するものは全くありません。私にはそれが少しさみしいですね。アメリカ料理は日本人においしく味わってもらえるし、好まれると思うからです。でも、ほとんどの日本人は、アメリカ料理がどのようなものか知りません。知っているのはハンバーガーだけです。私の目標のひとつは、テレビなど日本のマスコミを通じてアメリカ料理を紹介することです。

英語ワンポイント・レッスン

 インタビューで小枝さんは、CIAで勉強中にワイナリーで「エクスターン」をしたと言っています。「エクスターンシップ」って聞いたことがありますか? インターンシップと似ているようですが、どんな違いがあるのでしょう?

エクスターンシップとは、大学生が関心を持つ分野の企業や組織で、日常の業務を体験できる短期プログラムです。一般的には、専門家に付いて日々の業務活動に携わるのですが、時には仕事についてのインタビュー、施設の見学などのほか、実際のプロジェクトに参加する場合もあります。通常は数日で終わり、大学の単位にもならない点でインターンシップとは異なります。エクスターンシップは、今後のキャリアの選択肢になりうる仕事を実際に体験するチャンスですし、将来の雇用につながる場合もあります。

食べ物に関するアメリカのテレビ番組で私が好きなのは、マーサ・スチュワート・ショーです。日々の料理についての番組ですが、人をもてなしたり、少し家を飾ったり、スタイリッシュな雰囲気を出すといった、夢を与えてくれるからです。それはとても大切なことだと思います。日本人が失いつつあるのは、家の中で過ごす時間だと思います。皆さんには家に帰って、自宅で友人や家族と夕食を楽しんでもらいたいと思います。マーサ・スチュワートは、お客さまのもてなしが上手だと思います。日本には時間をかけずに安く、簡単にできる料理の番組はたくさんありますが、夢がありません。その日限りのことでしかありません。

それから「ジュリー&ジュリア」という料理研究家ジュリア・チャイルドについての映画があります。この映画の中でジュリアがフライパンを焦がす場面があるのですが、そこで彼女は「誰も見ていないから大丈夫」と言うのです。この言葉を聞けば、気軽に家庭で料理ができるようになると思います。日本では完璧さが求められ、さいの目に切るといったら正確に5ミリ角に切らなければなりません。でもアメリカのテレビ番組では、プロのシェフでさえも全く同じ大きさのさいの目に切ることはありません。それで大丈夫なのです。家庭料理ですから。家庭料理はもっと気軽で楽しいものなのです。とても面白い番組がいくつかありますよ。英語を学びたければ、テレビの料理番組は耳と目から英語を学ぶ上で役立ちますし、見ていて楽しいです。

 留学を考えている日本の若者へのメッセージや助言はありますか。

小枝 海外に行くのが不安な人は怖いと思うかもしれませんが、最初の一歩を踏み出せば、ひとつの国にしか住んでいない人よりも、視野を広げることができると思います。若い時にはさまざまな文化的背景を持つ人々と一緒に過ごし、いろいろなことに触れるべきです。そうすれば将来、そうした多様な人々と働き、協力する時の準備になりますから。できるなら、日本と外国の2つの国で学ぶといいと思います。

(この記事は、実際のインタビューからの抜粋です)


小枝絵麻(こえだ えま)
テヘランで生まれ、ニューヨークで育つ。上智大学に進学し、ボストン・カレッジに1年間留学。卒業後、飲食店のコンサルティング会社、株式会社ミュープランニングアンドオペレーターズに入社し、国内外でのレストラン企画に携わる。食に対する強い情熱を追求し、カリフォルニア州のカリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ(CIA)グレイストーン校に入学。その後独立し、フード&ワインスペシャリストとして国際的に活躍している。現在、在日米国大使館農産物貿易事務所の専任シェフ。