アンドリュー・ラム

人気の韓国焼肉サンドイッチ「コギ」は、米国におけるアジアの大きな影響を示す一例にすぎない(© AP Images)

人気の韓国焼肉サンドイッチ「コギ」は、米国におけるアジアの大きな影響を示す一例にすぎない(© AP Images)

もし「コギ」という名前で親しまれている、韓国焼肉のカルビを挟んだタコスをまだ食べたことがないなら、ぜひお試しあれ。チリサルサ、キムチ、すったゴマを添えたコギは全く新しい発想の食べ物なので、売っているのは南カリフォルニアを移動する2台のトラックだけだ。トラックの運転手がツィッターで販売スケジュールをつぶやくと、オレンジ郡やロサンゼルスの通りでは人々が列を作って待つ。時には待ち時間が2時間になることもある。米国中のおいしいもの好きが、このトラックの全米進出を心待ちにしている。次の停留所はニューヨーク市だ。

カリフォルニアで始まったものが、カリフォルニアの中にとどまることはほとんどない。全米そして国外にまで野火のように広がっていく。こうした創意に富む新しい芸術や文化の多くは、アジア的なものに触発されたり、これを特徴としている。

19 世紀半ば、カリフォルニアのゴールドラッシュの時代に、中国人が漢方薬や他のさまざまな植物を持ち込んで以来、アジアは米国に文化的影響を与え続けている。しかしアジア系米国人の人口増加に伴い、アジアの影響が大きな規模で広がり始め、尊敬に値するもの、さらには望ましいものになったのは、1980 年代以降にすぎない。その結果、かつては民族固有のもの、あるいは難解とさえ考えられていたものが、文化の主流に流れ込み、そこにとどまり、主流の習慣と混じり合って、文化的風景を一変させている。

米国の大都市の公園に行けば、肌の色も民族もさまざまな米国人が、中国に古くから伝わる太極拳をしているのを目にする。魚醤(ぎょしょう)やわさびはスーパーで簡単に見つかる。テレビをつければ、子ども向けチャンネルを日本のアニメが席巻している。2009 年のアカデミー賞の各部門では、クイズ番組で優勝したスラム街の住人を描いたインドの映画作品「スラムドッグ$ミリオネア」が最も数多く賞を獲得した。

アジア文化の人気や影響の大きさは、米国ではもはや目新しくない、と本稿の著者アンドリュー・ラムは語る(写真 Courtesy photo)

はり療法や、古来の精神修行法であるヨガの人気、そして米国文学の著者の多くが南アジア系や中国系の姓を持っているという事実は、もはや目新しいことではない。新しいのは、アジア文化が徐々に発展し、21 世紀になると完全に溶け込み、アジア文化を実践・推進しているのが非アジア系米国人であるという状況が多く見られるようになったことである。

例えば、スティーブン・スピルバーグの映画「カンフー・パンダ」は、2008 年に中国で興行的に大成功を収めた。映画がとても人気があったため、多くの中国人思想家や作家たちは、なぜ中国で同じ映画を制作できなかったのか不思議に思った。ある中国人批評家は「パンダとカンフーは中国の宝だが、外国人にそれを思い出させてもらう必要がある」と語った。

「カンフー・パンダ」が中国に旋風を巻き起こしたように、米国中をあっと言わせたのが、ジャバウォーキーズというダンスグループだ。このグループのヒップホップ・ダンスのレベルの高さは、見る人をゾクゾクさせるほどで、音楽テレビチャンネルMTVの「アメリカズ・ベスト・ダンス・クルー」賞に輝いた。10 人のメンバー中、7人がアジア系だった。私のジャーナリストの友人は「長い道のりを経てようやく、金髪の人間がヨガや、はり療法を教え、黒人がカンフーの試合で勝利し、アジア系がヒップホップダンスでチャンピオンになるに至ったのです」と感想を述べた。 それでいいではないか。「アメリカ2.0(米国再生)」にテーマがあるとすれば、それは混成とリミックス(再度混ぜること)、そして多様な伝統である。ミスマッチ(不釣合い)な組み合わせがおしゃれになった。現大統領バラク・オバマの経歴ほどこれを体現しているものはほかにない。次のように例えてみてはどうだろう。ここサンフランシスコで開催されるチャイナタウンの正月パレードで舞う龍の下で、ラテン系・ロシア系移民やサモア人が中国人と一緒に踊っている。これは、新しい米国にふさわしい詩的イメージだ。

西洋は東洋を変えたことは確かだ。しかし海外に出店するマクドナルドに対し、米国の主要都市にはタイやベトナムのレストランが建ち並んでいる点も考慮すべきだ。東洋も西洋を大きく変えている。つまるところ、風水・はり療法の効果を信じれば、誰もが最終的には、古代の道教の僧が見た、宇宙を流れる不思議な力「気」を認めることになる。古代のヨガ行者のように、ある程度の悟りに触れることなく、ヨガや瞑想(めいそう)をする人はいない。

ハーバード大学の儒教研究者、杜維明教授は21 世紀を「第2の基軸の時代」と呼ぶ。「今はさまざまな伝統が共存し、そこから選択できる初めての時代だ」と同教授は語る。つまり、今や東洋に住む人々も、西洋に住む人々も、単に自分が育ってきた伝統を受け入れるだけでなく、もっと多くの選択肢が与えられている。

米国の歴史は、(西洋の人間が)東洋を思い描くことから始まった。コロンブスを西方への航海に駆り立てたのは、中国とインド諸国、そしてその豊かな土地を探し求める気持ちだったが、コロンブスが発見したのは中国やインド諸国ではなく新大陸だった。西洋が思い描く東洋は今も魅力的である。そして、この叙事詩のような壮大な出会いはまだ終わっておらず、21 世紀の始まりに劇的な転換期へ近づいているにすぎない。コギのトラックが未来だと想像してみよう。ラテンアメリカと東アジアがロサンゼルスで出会って、おいしい軽食が生まれた。コギのトラック運転手が新しい販売場所をツイッターでつぶやくと、米国の国際化の最前線の場所が変わるかもしれない。

 

アンドリュー・ラム 特派員
ベトナム生まれの米国人ライター、アンドリュー・ラムは、エスニック・メディア(訳注 特定の民族・言語集団などを対象とする報道機関)の連携・支援に携わる非営利組織「ニュー・アメリカ・メディア」の編集者である。最近の著書に「Perfume Dreams: Reflections on the VietnameseDiaspora」 がある。