「ゴマで見たもの」

私は11日間にわたるアフリカ訪問で、人間性の最悪の、そして最高の姿を見た。先週訪れたゴマでは、その両方を目の当たりにした。

ムグンガ国内避難民キャンプは、コンゴ民主共和国東部の州都ゴマのはずれの、火山と大きな湖が点在する地域にある。現在キャンプには1万8000人の避難民が生活している。彼らは、1998年以降540万人の犠牲者を出した一連の紛争から逃れてきた。武装した反乱軍や民兵によって自分の家や村から追い立てられ、男性、女性、子供を問わず、この比較的安全な避難場所にたどり着くまで、食料や水をほとんど取ることなく、何マイルも歩き続けた。

今、彼らは、ぎっしりと並んだテントで暮らしている。生きることに必死の人もいれば、何年も残虐行為が続いた地域にまだ残る、かすかな希望の光にすがりついている人もいる。彼らの多くは、家や財産、家族、そして何より悪いことに、人間としての尊厳を奪われた。

特に女性や少女の場合は、性暴力とジェンダーに基づく暴力が戦争の手段となり、まん延したため、被害者は想像を絶する数に上る。毎月約1100件の性的暴行が報告されている。1日に換算すると平均36人が性的暴行を受けている。

非政府組織(NGO)「ヒール・アフリカ」が運営する病院を訪問した際、妊娠8カ月で暴行された女性に会った。彼女が自宅にいると男たちが家に押し入ってきて、夫と2人の子供を外に連れ出して前庭で射殺した。家に戻ってきた彼らは、残っていた2人の子供も撃ち殺し、彼女を殴って集団で暴行した後、死んだと思って放置した。しかし彼女は死んでおらず、生き残るために力を振り絞った。そして近所の人たちが85キロ離れた病院へ彼女を運び込んだ。

私がゴマにやってきたのは、「米国は、こうした暴行や、暴行した者、そして暴行をけしかけた者全員を非難する。これらは、人間性に対する犯罪である」という明確なメッセージを伝えるためだ。

これらの行為は、単に個人、またはひとつの家族、ひとつの村、ひとつの集団だけを傷つけるものではない。人間としての私たちをつなぐ1枚の布を引き裂くものである。このような残虐行為は、いかなる社会でも許されるものではない。これは本当に、人間性の最悪の姿である。

それでも、まだ希望がある。生き残った人々が勇気を振り絞って、生活や地域社会を再建する姿や、市民の指導者や団体が協力して、この恐ろしい災難と闘うのを見てきたからだ。そして、医療従事者が快適なキャリアを犠牲にして、傷ついた人たちを治療するのを見てきたからだ。

私はゴマで、レイプされた女性たちの傷ついた心と体を回復させるため、日々奮闘する医者や活動家に会った。多くの場合、集団暴行で、あまりに残虐なやり方だったため、こうした女性たちは妊娠できなくなったり、歩くことや働くことができなくなっていた。ゴマでヒール・アフリカを設立したリン・ルシ氏や、ブカブでパンジ病院を設立したデニス・ムクウェジ博士のように傷ついた人たちの治療に力を尽くす人々は、人間性の最高の姿を体現している。

米国はこれらの勇気ある人々と共にある。私は今週、1700万ドルを超える新たな資金拠出を発表した。これは、コンゴ民主共和国における性的暴力およびジェンダーに基づく暴力の防止・対策を目的としており、医療、カウンセリング、経済援助、そして法的支援を提供する。300万ドルを投じて、女性と少女の保護と性的暴力の捜査のために警官を募集・訓練する。女性と最前線で働く人たちが、写真や映像を使って虐待を報告したり、治療や法的選択肢についての情報を共有できるよう、専門家を派遣する。また、性的暴力の被害者へのさらなる支援の形を決定するために、民間の専門家や医療スタッフ、軍のエンジニアから成るチームを派遣する。

私は、コンゴ民主共和国に滞在中、カビラ大統領と性的暴力について率直な意見を交わし、性的暴力の罪を犯した者は、誰であれ、裁判にかけて罰しなければならない、と強く主張した。この罪を犯しても罰を受けなかったコンゴ軍の兵士など、犯罪者が権力ある立場にいる場合、これは特に重要な点である。

性的暴力およびジェンダーに基づく暴力の被害者を支援する強い姿勢は、私のゴマ訪問で始まったわけでもなければ、私がここを去る時に終わるものでもない。

私たちは、この暴力の根本的な原因である、コンゴ東部での長期の紛争に対処すべく一層努力している。この紛争の終結に向け、国連や他国と協力して、さらなる対策を取るつもりである。

コンゴには、「いくら長い夜でも朝は必ずやって来る」という古くからのことわざがある。コンゴ東部で女性たちが自由に出歩き、畑で作物を育て、子供たちと遊び、恐怖を感じることなく薪や水を集めることができる日は必ず来る。彼女たちは、このうえなく美しい自然と、豊かな資源のある地域に住んでいる。彼女たちは強く、立ち直る力を持っている。機会さえあれば、彼女たちは、自分たちの国を平和と繁栄に導く経済・社会的発展をけん引できる。

私たちは手を携えて、性的暴力を暗い過去の話とし、コンゴ国民が新しい時代の機会をつかむ手助けをしていく。

*本稿は、2009年8月21日にPeople.comに掲載されたクリントン国務長官の寄稿を翻訳したものです。


「女性は好ましい変化のけん引役」

私がケープタウンのビクトリア・ムセンゲ協同組合を初めて訪問したのは、1997年のことだった。この時出会ったのが、何もない土地を新しい共同体に変えようとするホームレスの女性たちだった。彼女たちは貯金やマイクロローン(超小口融資)で得た資金を出し合い、シャベルを購入し、コンクリートを流し込み、自分と子供のために新しい家を建てた。1997年にはわずか18軒だった家が、1年後の再訪時には104軒になっていた。そして昨日訪問した時には、かつて砂ぼこりと絶望しかなかった土地に、多数の家が建ち並ぶ村ができていた。

ビクトリア・ムセンゲの女性たちの決断力と起業家精神は、基本的な事実を明らかにしている。それは、世界の進歩と繁栄の鍵となるのは女性のエンパワーメントである、ということだ。女性のエンパワーメントは倫理的責務であるだけでなく、経済的要請でもある。女性が権利を認められ、教育・医療・雇用面で平等な機会を与えられれば、社会・経済的進歩をけん引する存在となる。アフリカの非常に多くの地域で今日見られるように、女性が社会の隅に追いやられ、不当な扱いを受けていては、繁栄は不可能である。

私は今週、アフリカの有望さと可能性を明らかにするために、この大陸の各地を訪問している。この新しい世紀の経済的なチャンスをとらえるためには、女性のエンパワーメントが不可欠である。いかなる国も、人口の半分以上を占める女性を放置あるいは置き去りにしたまま、繁栄を行き渡らせ、治安を向上させることはできない。

進歩と経済成長の実現に向けての幅広い課題には、貿易の拡大、能力開発と機会創出のための開発戦略の実施のほか、腐敗を受け入れず、法の支配を実施し、国民のために成果を挙げる、責任ある統治の推進も含まれている。こうした政治課題をアフリカ全土で進展させるには、南アフリカの指導力が不可欠である。

南アフリカの人々には、この「女性の日」に、自らを誇りに思う理由が数多くある(訳注:8月9日は南アフリカの「女性の日」で祝日)。ジェイコブ・ズマ大統領は先ごろ、ジル・マーカス氏を南アフリカ準備銀行の総裁に任命した。南アフリカの各地で、経済発展の基礎である中小企業を経営しているのは女性である。さらに南アフリカは、サリー・マレンゴ氏やリリアン・マセベンザ氏のような活力に満ちた女性起業家たちの母国でもある。マレンゴ氏は、現在ベッドフォードビューで自動車部品を製造しているKPLアルミニウム・アンド・ジンク・ダイキャスティング社の創業者であり、マセベンザ氏は、伝統的な貯蓄組合を、恵まれない女性たちが収入を得て起業できるよう支援する共同体に変えるためにマニ・ギンギ社会起業家ネットワークを設立した。

南アフリカの女性は、この国をアフリカ経済の支えとするために貢献してきた。彼女たちは、市民としての責任、法の支配の順守、そしてすべての人が参加する多様な経済を通じて何が実現可能かを示している。

女性たちは、アフリカ全土で、好ましい変化を起こす推進力となっている。ケニヤのワンガリ・マータイ氏は、環境管理の国際運動に着手した。リベリアのエレン・ジョンソン・サーリーフ氏は、かつて内戦に苦しんだ国の元首となり、女性が国の最高指導者になることができると証明した。

しかしアフリカ、そして世界中に、希望の持てる状況にない地域が多数存在する。こうした地域では、女性に資産の所有権、融資を受ける権利、結婚生活において自分で選択する権利が法律で認められていない。世界の貧困層、飢餓に苦しむ人々、教育を受けられない人々の大多数が女性である。戦争の手段としてのレイプや、いわゆる「名誉の」殺人(訳注:婚前・婚外性交渉を経験した女性を「家族全員の名誉を汚す者」として父親や男兄弟が殺す風習のこと)、傷害行為、人身売買、児童結婚、女性性器切除など、暴力的で人間をおとしめる慣習の対象となりやすい。

コンゴ東部では、紛争の手段としての性暴力およびジェンダーに基づく暴力により、想像を絶する数の女性が犠牲になっており、私は今週その被害者たちを訪問する。毎月約1100件の性的暴行が報告され、1日に平均36人の女性・少女が性的暴行を受けている。

世界は、こうした悪行に対し、声を合わせてはっきりと「このような暴力行為をやめろ」と言わなければならない。

米国は、女性の権利が確実に守られ、尊重されること、女性が教育を受け、よい仕事に就き、安全に暮らし、自分の可能性を発揮する機会を得られることを目指し、アフリカ各国とのパートナーシップを発展させるべく努力している。

バラク・オバマ大統領と私は、アフリカの可能性を信じている。世界の人々は、貧困や病気、そして紛争のイメージだけでアフリカを見ることがあまりにも多い。しかし私たちには、さまざまなものを築き、創造し、繁栄する、チャンスにあふれた大陸が見える。そこは8億もの人々の故郷であり、その半数以上が女性である。

「女性の日」は、1956年8月9日に正義を主張し行進した2万人の南アフリカの女性を記念する日である。恐れを知らぬ彼女たちが歌っていた賛歌「女性を殴ることは岩を殴ること」は、運動のスローガンになった。

女性たちは、より自由で安全で、より繁栄するアフリカを築くための礎となり得る。彼女たちに必要なのは機会だけである。

*本稿は、2009年8月9日に南アフリカのシティプレス紙に掲載されたクリントン国務長官の寄稿を翻訳したものです。