マシュー・ライト

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2013年6月27日、「アメリカンシェフ部隊」の3人の精鋭シェフが、東京・お台場のフジテレビ湾岸スタジオに到着した。アメリカを代表し、世界で最も有名な料理番組のひとつ「アイアンシェフ」の第1回「料理ワールドカップ」に出演し、日本チームと4回戦を闘うためだ。「ワールドカップ」をうたうだけあり、審査する5人も国際色豊か。ジョン・ルース駐日米国大使も審査員として参加した。テーマ食材はビーフ。両チームに公平になるように、さまざまな部位のアメリカ産と日本産の牛肉がそろえられた。

在日米国大使館のインターンである僕は、スタジオでの番組収録に観客として参加する機会を得た。高いところからアメリカ・チームのキッチンを見渡せる絶好の場所に座っていたので、対戦ごとに状況を全て把握することができた。

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以前の「アイアンシェフ」と大きく違う点は、アシスタントがいないこと。そのため、本当の意味で2人のシェフの技と技のぶつかり合いになり、それぞれが1人で料理の全てを準備し、真の実力を見せつけた。アメリカ・チームのキャプテン、エリック・ジーボルト氏が高温になったフライパンに触れて手をやけどしたときは、そのドラマチックな展開に、思わず身を乗り出してしまった。3回戦を終わりアメリカは2対1でリード。最終ラウンドを迎えた。しかし、最後に日本チームが作った料理―富士山の形に成形した塩釜の中でローストした牛肉を使った、さまざまな種類のすし―は、見た目、独創性、味のどれをとっても素晴らしく、審査員をうならせて日本チームを勝利に導いた。敗れたとはいえ、アメリカ・チームも大健闘し、ジーボルト氏は誇らしげにこう言った。「私たちはアメリカの代表として立派に闘った」

アメリカンシェフ部隊とは、アメリカ料理をもっと知ってもらうために米国の内外で幅広く活動する有名シェフのグループである。国務省とジェームズ・ベアード財団が2012年9月に設立した組織「料理を通じた外交パートナーシップ」(DCP)により結成された。DCPはアメリカの食、文化、歴史を利用して、栄養、農業、持続可能性、起業についての対話を促す一方で、現代のアメリカ料理を広く世界に知らしめようとしている。

「アイアンシェフ」の収録翌日、エリック・ジーボルト氏は東京・千駄ヶ谷の服部栄養専門学校を訪れ、100人の生徒を前にアメリカの食の発展と現在のトレンドについて講義した。彼はアメリカの食文化の歴史を総合的に紹介し、自らがエグゼクティブシェフを務めるレストラン「シティーゼン」のメニューから、おいしそうな現代アメリカ料理の例をいくつか挙げた。またアメリカ料理の伝統について語り、日本料理の伝統とどのように違うかを詳しく説明した。彼の講義に料理学校の生徒たちは魅了され、大きな影響を受けた。そして「常に自分とつながりを感じられる料理を作りなさい。たとえ君たちが何を料理しているのか、君たちが何をしたいのかを他の人が理解してくれなくても、情熱を持って料理をしなさい。そうすれば、最後には世界が君たちに追いついて、君たちの料理を受け入れてくれるでしょう」というジーボルト氏からのアドバイスから大きな刺激を受けた。

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イベント終了後、ジーボルト氏の講義の印象について何人かの生徒から話を聞くことができた。そのうちの1人、島 朗馬君はこのように言っていた。「アメリカ料理というのは正直、なじみがなくて、ファストフードばかりという考えがありました。でもシェフの話を聞いて、アメリカ料理には伝統もあり、その中で変化しつつ、発展していくということを知りました。ここを卒業してからは自分も海外に出たいという思いが強くあり、イタリアかフランスと考えていたのですけど、その(候補の)中にアメリカも入りました」。話を聞いた10人のうち、8人が、アメリカの食文化といえば、これまではハンバーガーとジャンクフードしか思いつかなかったが、ジーボルト氏の講義を聴いて、本物のアメリカの食文化の発展のことがわかったと話していた。

アメリカンシェフ部隊の3人が日本を訪れたのは、アメリカ料理を知ってもらい、そのイメージを向上させる一方で、人と人との交流を通じて日本との2国間関係を強化するためであった。服部栄養専門学校での講義は、向上心に燃える未来のシェフたちにとって、有名なアメリカ人シェフに直接会う機会となった。また「アイアンシェフ」は、何百万という日本の視聴者にアメリカの料理と文化を紹介する良い機会になった。食はほとんど誰もが自分の考えを持っているテーマであり、特に、日本とアメリカの場合は、それぞれの地域においしい食材が豊富にあり、調理方法もたくさんあることを考えると、その傾向が強い。「アイアンシェフ」の収録後に中華の鉄人、脇屋友詞シェフのレストランを訪問したときのことについてジーボルト氏はこう言った。「私たちみんなにとって自然な『食べる』という行為をしていたので、日本人のシェフたちと楽しい交流ができたのだと思います。これこそ食を通じた外交が目指すものだと思いますが、食卓で食事をすること以上に国際交流にふさわしい環境が他にあるでしょうか」


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2013年夏、在日米国大使館報道室でインターンとして勤務。バンダービルト大学大学院2年生で、教育学修士号(高等教育行政学)を取得予定。2009年に行政学およびアジア研究の学位を取得してコーネル大学を卒業。その後「語学指導等を行う外国青年招致事業」(JET)に参加し、和歌山県で3年間、英語教師を務めた。