ディラン・エドワーズさんはコロラド州デンバーを拠点に活躍する漫画家で、「Transposes」や「Politically InQueerect: Old Ghosts and Other Stories」の作者です。彼の作品は数々のコミック短編集にも掲載されています。2Dアートや彫刻の創作活動も行い、最近ではウェブ上で、若者向けサイエンス・フィクション漫画「Valley of the Silk Sky」を執筆しています。イラストレーターやグラフィックデザイナーとして活躍の幅を広げるほか、パネリストや司会者として漫画や出版関係のイベントにも登場しています。

アメリカン・ビューは、アメリカ大使館が主催するインディーズ系マンガのビジネスモデルの新たな展開に関するイベントのために来日したエドワーズさんにインタビューし、漫画やアート分野での仕事に関心を寄せる日本の若者に、自らの経験を語っていただきました。

Dylan Edwards

2016年11月16日、アメリカ大使館が主催するプログラムで講演するディラン・エドワーズさん

クリエーティブな仕事をしたいと考える日本の若者が何よりも知りたいのは、エドワーズさんのようにアメリカで成功した漫画家がこの仕事を始めたきっかけです。この質問に、エドワーズさんは次のように答えてくれました。

「子どものころ、新聞に連載されているコミックを読み、興味を持つようになりました。新聞の漫画は簡単に読むことができましたから。大学ではアートを勉強し、漫画専門店で働きました。これが漫画の世界に入ったきっかけです」

アメリカで漫画と言えば、ほとんどの人が「スーパーマン」や「バットマン」といったヒーロー漫画を思い浮かべます。最近では、このような主流派の漫画は、ヒーローもの映画のヒットのおかげで売り上げが急増しています。その一方で、インディーズ系作家や小規模の出版社が手掛ける漫画も、かつてないほど人気が高まっています。インディーズ系作家は、作品の宣伝や資金調達の面で多様なビジネスモデルを試しています。こうした漫画の復活をけん引しているのが、女性、LGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィア)、民族的マイノリティーの作家や、このような人たちを題材にした作品で、大手出版社が従来軽視してきた読者層をターゲットにしています。

アメリカでは多くの人が、漫画は子どもや10代の若者の読み物であり、主にファンタジーやサイエンスフィクションを扱っていると考えています。しかし、今ではインディーズ系書店の棚には、日常生活や真面目なテーマを扱う漫画が並んでいます。多くの作品は自伝的な内容です。

コメディー漫画を読んで育ったエドワーズさんの作品には、ユーモアがちりばめられています。その一方、真面目なテーマも取り上げています。「漫画は面白おかしくなくていいのです」とエドワーズさんは言います。「私が伝えたいのは個人の経験です。人間を1つの集合体として描かず、一人ひとりを唯一無二の存在にする特徴を描くよう常に努力しています」

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エドワーズさんはまた、特定の読者層に合わせた作品作りもしています。

「私は、作品ごとにターゲットにする読者層を考えるので、素材の扱い方も変えています。その年齢層の人たちが何に興味を持っているかを考え、それに基づいて作品を描きます」

書店やオンラインで購入できる紙媒体の漫画に加え、ウェブ漫画も人気が高まっています。ウェブ漫画の利点は、作家が作品をオンラインに自由に投稿し、世界中の人がそれを読めることです。ウェブ漫画をきっかけに、作家たちが作品を掲載する独特の方法を編み出すようになった、とエドワーズさんは説明します。例えば、ウェブページのトップから始まり、画面を下へスクロールしながら読む漫画や、一部のコマがアニメーションになっている漫画が、その例です。大多数の漫画家は、ウェブ漫画を新たな媒体としてとらえ、作品を発表し、読者層を広げるため、TumblrやTapasticなどのプラットフォームに作品を投稿しています。

一方、紙媒体の漫画の利点は、作家が実際に作品を売ることができる点にあります。「ウェブ漫画はお金になりませんが、紙媒体は実際に売ることができます」とエドワーズさんは言います。「紙媒体の作品があれば、本格的にこの仕事に取り組んでいるアーティストであるという印象を与えられますし、普段漫画を敬遠している人に、実際の作品を見せることもできます」

無名の作家でも、自費出版という形をとれば、紙媒体で作品を発表することができます。自宅で「ミニコミ誌」を印刷し、展示会や地元の書店で販売する作家も多くいます。また、創作活動資金を募る、クラウドファンディング・サイト「キックスターター」(Kickstarter)を活用して、自費出版することも可能です。

しかし、厳しいスケジュールや出版契約がないインディーズ系作家が、創作活動や宣伝活動を続けられるのはなぜでしょうか。エドワーズさんに、その原動力を聞いたところ、次のような答えが返ってきました。

「創作活動を行なっている、自分と同年齢の他のアーティストに会うことが原動力になっていると思います。デンバーでは、毎週火曜日の夜、地元のアーティストたちがカフェに集まるイベントがあり、私も参加しています。そこでは、参加者同士がおしゃべりをしながら、漫画を描いています。この集まりは、刺激を与えてくれるだけでなく、ネットワークづくりの場にもなっています」

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創作活動を仕事にしたいと考えている日本の若者へのアドバイスをお願いしたところ、次のように答えてくれました。

「他の人が面白いと思うものでなく、自分が面白いと思うことをしてください。これは、他の分野にも当てはまります。もしあなたが漫画家を目指しているのなら、自分は何を書きたいのか、どんな話やアートから刺激を受けるのか、自分自身に問いかけてください。そうすれば、自分がしていることにもっと満足するようになりますよ」