2015年4月5日、日本各地でクリーンエネルギーの問題に取り組む、地方自治体、民間企業、非政府機関の代表10人が、羽田空港に集合した。4月15日までの10日間、アメリカ西部の3都市(サンフランシスコ、サクラメント、デンバー)を訪問する研修プログラムに参加するためだ。このプログラムは、日米の次世代リーダーの育成を目指す官民パートナーシップ「TOMODACHIイニシアチブ」の支援を受け、在日米国大使館と米国国務省が企画・実施したもので、エネルギー分野での日米政府間の連携を補完する形で、地方レベルでのクリーンエネルギーの取り組みを促進することを目的としている。一行は訪問した3都市でクリーンエネルギーの研究や政策立案に携わる専門家と対話し、地方レベルでのエネルギー政策の実施について学んだ。

アメリカン・ビューは研修終了直後の4月17日、帰国した参加者のうち8名にインタビューする機会を得た。

住民の環境意識の高さ―ジャズミュージシャンも再生可能エネルギーの研究に“いいね!”

2015年4月10日、カリフォルニア州の環境部局を訪問したプログラム参加者。

2015年4月10日、カリフォルニア州の環境部局を訪問したプログラム参加者たち。意見交換の場では、同州の担当者から「カリフォルニア州の住民は、環境意識が高いということがアイデンティティの1つ」などの話があった

まず一番印象に残ったことを聞いた。多くの参加者が挙げたのは、環境に対する住民の意識の高さだ。環境政策の決定に関しても、行政任せにするのではなく住民が決定に関わる仕組みがあるし、住民側にも自分たちが決定するという意識がある。東日本大震災の被災地、石巻市から参加した末永英久氏は、カリフォルニア州の環境分野の担当者に住民の環境意識を高める施策について尋ねたときに、「何もしていない」という答えが返ってきて驚いたと語った。環境意識の高さがすでに住民のアイデンティティーとして定着しているため、行政があらためて意識向上を推進する必要がないということだった。

さらに環境やエネルギーの専門家ではない一般の人たちとの交流で、環境意識の高さを感じた参加者もいた。東北大学の三ケ田伸也氏が夜、ジャズを聴きに行ったときのこと。その場にいたミュージシャンや客からアメリカに来た目的を尋ねられた三ケ田氏が「再生可能エネルギーの勉強」と答えると、必ず「それはいいことだね」という反応が返ってきたそうだ。日本では「なんだか難しそうなことをしている人」と言われる場面だ。専門家でなくても再生可能エネルギーに対する関心が高いことがうかがえ、日本との違いを感じたそうだ。また環境意識の高いオーナーが経営するイタリアン・レストランでは、窓、屋根、LED照明など環境に配慮した設備を導入したり、他の店と共同で残飯をバイオマス資源として用い、エネルギーを取り出すこともしている。こうした民間の取り組みに対する支援の仕方も、行政にとっての課題と感じたようだ。

地方行政の役割―インフラ整備は国任せではいけない

宮古島市役所の三上暁氏

行政からの情報発信のあり方について語る宮古島市役所の三上暁氏

今回の研修は参加者にとって、行政の役割についてあらためて考えるきっかけにもなったようだ。アメリカでは州レベルで環境保護を目的とする税や、事業者に省エネを義務付ける規制を設けることができる。日本ではほぼ不可能といえるこのような地域主導の措置が可能な一因として、研修に参加した宮古島市役所の三上暁氏が挙げていたのが、行政からの情報発信のあり方だ。省エネ意識が高まることで電力供給が安定し、ひいては住民の生活が向上する。あるいは素晴らしい環境に恵まれていることが観光客の増加につながり、地元に経済的豊かさをもたらす。こうした情報が行政から発信され、住民に浸透しているため、州レベルでの課税や規制についても住民の理解を得やすいのではないかという。

三上氏はまた、国と地方のあり方も考えなくてはならないということも感じたそうだ。日本では電力も含め、インフラの整備は国が主導する。しかし国が全て対応してしまうと地方が何も考えなくなり、他人事になってしまう。もっと地方がエネルギーの供給法や利用するエネルギー資源を選ぶ仕組みをつくっていく必要があるというのが三上氏の考えだった。

実際に体験することの素晴らしさ

デンバー市郡のサステナビティ事務所を訪問したプログラム参加者

2015年4月13日、デンバー市郡のサステナビリティ事務所を訪問したプログラム参加者たち。石巻市復興政策部の末永英久氏は「この地域では政府が積極的に関与しないことにより、サステナビリティを向上させる住民の行動が促進される」というサステナビリティ部門のトップであるティティアノウ氏の発言が印象に残ったと語っていた

プログラム参加者は10日間の研修を通じ、ベジタリアンの食事にも気軽に対応してくれたこと、スーパーのレジで“How are you?”と聞かれることといった日常的なことから、環境問題に対する住民の意識の高さといったことまで、日米の違いを肌で感じることができた。実際に現地を訪問したからこそ得られた経験である。アメリカで各自の業務に関連するさまざまなヒントを得て地元に戻っていった参加者の皆さんが、研修で学んだことを今後の地域での取り組みに生かしてくれることを願う。