ジェイソン・ハイランド 在日米国大使館 首席公使

放送中のNHKの朝ドラ「とと姉ちゃん」に夢中です。とりわけ、物語に登場する3人の女性のリーダーシップには興味をそそられます。材木問屋「青柳商店」の威風堂々たる女将・青柳滝子、ユニークな教師の東堂チヨ、そしてわれらがヒロイン、小橋常子。

女性がビジネス、政府、学問などあらゆる分野で指導的な立場に就く機会が増えていますが、そんななかでよく耳にする質問があります。それは「女性にとって最も効果的なリーダーシップのスタイルとは何か」というものです。世の中には模範となる女性が大勢います。そのことから考えると、この質問に対する答えは1つではないと思います。朝ドラのなかだけでも、とと姉ちゃんには彼女流のやり方で人間関係を構築し、いつも厳しい滝子さん (優しい心の持ち主だが) は、昔ながらの経営手法を取り、必ず結果を出す。さらに常子に決して諦めるなと教えた、あの風変わりな教師、東堂チヨと、三者三様のリーダーシップスタイルがあります。そしてこの番組を見るうちに、私は、これまでに出会った非凡な女性リーダーたちを思い出しました。彼女たちはそれぞれ、独特の手法で自らの目標を達成しています。

ジニー・ロメッティ: 結束して成し遂げる

IBM CEO Ginni Rometty responds to a question during a news conference at IBM Watson headquarters, in New York, Thursday, April 30, 2015. Apple, IBM and Japanese insurance and bank holding company Japan Post have formed a partnership to improve the lives of elderly people in the country. The program will provide iPads with apps designed to help seniors manage day-to-day lives and keep in touch with family members. (AP Photo/Richard Drew)

2015年4月30日、ニューヨーク州のIBMワトソン研究所で記者の質問に答えるIBMのジニー・ロメッティCEO (AP Photo/Richard Drew)

今年6月、IBMが主催する女性ビジネスリーダーに関する会議が東京で開催されました。会議には自らの力で起業した安倍昭恵首相夫人も出席し、感動的なスピーチをしました。そこで会ったのが、全世界で40万人以上の従業員を率いるIBMの会長兼CEO、ジニー・ロメッティ氏です。彼女のスピーチは、示唆に富むものでした。

何年も前、IBMがロメッティ氏に大きな昇進話を打診したとき、彼女は上司に考える時間が欲しいと言いました。そして夫のマークに相談し、自分には時期尚早で、もう2~3年あれば自信を持って引き受けられると話しました。するとマークはこう言ったのです。「男だったらそんなことを言うと思う?」その一言で決まりました。ロメッティ氏は即座に昇任を受け入れ、後はIBMの歴史が示す通り。彼女は、IBM従業員用のオンライン教育プログラムであるシンク・アカデミー (Think Academy) を導入した決断力のあるリーダーとして知られています。「結束して今、成し遂げる」―彼女の信念のひとつです。

シャーリー・ジャクソン: 星を目指して

Sen. Hillary Rodham Clinton, D-New York, right, shakes hands with Rensselaer Polytechnic Institute President Shirley Ann Jackson during commencement excercises in Troy, N.Y. Saturday, May, 21, 2005. (AP Photo/Tim Roske)

2005年5月21日、ニューヨーク州トロイのレンセラー工科大学卒業式でヒラリー・クリントン上院議員(当時)と握手するシャーリー・ジャクソン学長 (AP Photo/Tim Roske)

ニューヨークの有名大学レンセラー工科大学の学長で、マサチューセッツ工科大学で博士号を取得した初のアフリカ系アメリカ人女性であるシャーリー・ジャクソン氏も、私が感銘を受けた女性の一人です。並外れた経歴を持つ彼女は、女性そしてアフリカ系アメリカ人で初めて米国原子力規制委員会の委員長に就任しました。数多くの「女性初」を達成した人物であり、科学分野における第一人者でもあります。ジャクソン氏は、人生に旅立つ若者に対し、まず方向を定め、次に「目標と定めたそれぞれの“北極星”から目をそらさない」ようアドバイスしています。彼女は父親からこのように教わりました。「星を目指せ、そうすれば木の頂に到達できる」。彼女はまた人の話に耳を傾けること、人の気持ちに寄り添うこと、一貫したメッセージを伝えることの重要性も説いています。なぜなら「言葉には意味がある」からです。

3人の国務長官: 冷静さと意志

2005年5月21日、ニューヨーク州トロイのレンセラー工科大学卒業式でヒラリー・クリントン 上院議員と握手するシャーリー・ジャクソン学長

ヒラリー・クリントン、コンドリーザ・ライス、マデレーン・オルブライト(AP Photos)

私はこれまでに、3人の女性国務長官の下で働いてきました。マデレーン・オルブライト、コンドリーザ・ライス、そしてヒラリー・クリントンです。3人の手法は異なりますが、それぞれ効果的で大きな業績を残しました。これら3人の長官の下で働き、そして今、日米の友好と共通の目標に向けて大きな貢献をしているキャロライン・ケネディ大使と働いていることは、非常に光栄です。

3人の長官を身近で見た経験から、それぞれのエピソードを簡潔に紹介しましょう(高尚な政策についてではありません)。2000年代初め、ライス氏が国家安全保障問題担当大統領補佐官としてキエフを訪れたとき、私は在ウクライナ米国大使館の政務担当参事官でした。ウクライナ指導部とのミーティングの準備のためにブリーフィングをしている間、彼女は重責を担っていたにもかかわらず、とても落ち着いていて、礼儀正しく、非常にビジネスライクでした。

オルブライト氏が国務長官のとき、私は国務省東アジア・太平洋局で特別補佐官をしており、中国、インドネシア、タイなどに何度か同行しました。思い出すのは、彼女がその日の仕事の内容に合わせて、身に付けるブローチを選んでいたことです。ドラゴンのブローチを選んだ日は、重大な交渉を目前に控えているのが分かりました。

最後に、私がオーストラリアで首席公使を務めていたときのこと。クリントン氏が国務長官として何度か訪れました。彼女は、どんな状況であれ常に冷静でユーモアを欠かしませんでした。あるとき、少々型破りなオーストラリアの人気番組が、彼女にライブインタビューをしました。インタビュアーたちはタキシード姿で現れ、彼女の自宅でオーストラリア式のバーベキュー・パーティを開き、そこに招待してくれないかと言い出したのです。クリントン氏はうまく受け流し、同じようにやり返しました。ここに挙げた3人の女性リーダーが皆、私がこれまでに見たどの高官にも負けず劣らず精力的に仕事をこなしたのは間違いありません。どうすればあれほどのペースを維持できるのか、正直なところ私には分かりません。

男性であれ女性であれ、異なる指導者、経営者にはそれぞれのスタイルがあり、それは良いことです。領事館を運営し、イラクのモスルで地域復興チームのリーダーを務め、首席公使を3回務めた私自身の経験から学んだことは、リーダーシップは体系化された訓練に基づく技術ではないということ。他人を理解し指導するためには、まず自分自身を知らなければなりません。ありのままでいればいいのです。

直面する問題を解決し、我々が望む未来を築くには、誰もがさまざまな支援を必要とします。とと姉ちゃんは、弁当配達用の箱を使って練り歯磨き粉を売るという、彼女の計画にうまいこと皆を引き入れました。熱意が伝わったのです。もし青柳滝子さんが現在の日本の一流会社を経営していたらと想像してみました。おそらく何の問題もなかったでしょう。