1つの贈り物が人の心に触れ、人生を変えるきっかけにもなりえます ―
キャロライン・ケネディ

ケネディ大統領一家が住んでいたホワイトハウスに、日本から一揃いのひな人形が届いたのは1962年のことでした。送り主は北海道北見市に住む松本艶子さん。ケネディ家の誰も松本さんと面識はありませんでしたが、このひな人形は当時まだ幼かったケネディ大使の心に深く刻まれました。「ひな人形のことはずっと覚えていました。日本に着任してひな祭りに人形が飾ってあるのを見て、あの人形の里帰りを思いつきました」

ケネディ大使と1962年にホワイトハウスに送られたひな人形

ケネディ大使と1962年にホワイトハウスに送られたひな人形

ケネディ大使の中で「日本はすてきな国」というイメージが出来上がった背景には、松本さんからの心温まる贈り物がありました。あれから50年以上たった今も、このひな人形は日本の「贈り物文化」の象徴であり、友好の手を差し伸べることが、文化の違いを超えて人々の理解を促すひとつの方法であることを教えてくれます。

ケネディ大使はこのひな人形のことを懐かしんでこう言いました。「幼いころ、世界中からたくさんの人形が送られてきました。父を訪ねてきたお客さまからも人形をもらいました。その中でもこのひな人形はとてもきれいで、特別なものでした」。そして駐日米国大使になり、この人形を日本に里帰りさせ、日米友好のシンボルとして大使公邸に飾りたいと強く願うようになりました。

ホワイトハウスで過ごすケネディ大統領(当時)とキャロラインと弟ジョン(1962年10月)(©AP Images)

ホワイトハウスで過ごすケネディ大統領(当時)とキャロラインと弟ジョン(1962年10月)(©AP Images)

ケネディ家に贈られたこのひな人形は、長年にわたり米国国立公文書記録管理局が保管してきました。2003年にジョン・F・ケネディ大統領博物館で、世界各地からケネディ家に贈られた人形75体を集めた特別展が開催された際には、このひな人形も展示されました。今回、日本のひな祭りに合わせて人形を東京の大使公邸に飾るに当たっては、大使が公文書記録管理局に梱包と発送を依頼しました。

一方でケネディ大使は、ひな人形の贈り主を見つけてお礼を言いたいと考えており、2月に北海道を訪問したとき、メディアとのインタビューで贈り主を探していることに触れました。贈り主が松本さんという名前で当時北海道に住んでいたことは、記録に残っていました。松本さんが見つかったと知ったケネディ大使は、喜びもひとしおでした。

ケネディ駐日米国大使から送られたパネルを手にする松本艶子さん

ケネディ駐日米国大使から送られたパネルを手にする松本艶子さん

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松本さんがたくさんの手紙や贈り物を送っていたのは、ホワイトハウスだけではありませんでした。在札幌米国領事館や東京の大使館にも送っており、その中にはスズランの球根も含まれています。今大使公邸の庭で咲くスズランは、ひょっとしたら松本さんからいただいたものかもしれません。そうした贈り物に対する感謝の手紙をホワイトハウスから受け取った松本さんはいたく感激し、ひな人形一式をケネディ家に贈ることにしたそうです。

日米の深い絆と、世界中の女の子の明るい未来を願う私たちの共通の思いを象徴するひな人形――。日本でこの特別な人形を飾ってひな祭りを祝うことができ、ケネディ大使はとても喜んでいます。

「女の子の成長を祝うのはすてきなことです。そして女の子が自分は特別な存在で、大きくなったら夢はかなうと信じられることもすてきです」