日本ルイ・アームストロング協会  外山喜雄・恵子

「ニューオーリンズの皆さん、ありがとうございました!!」テレビカメラの向ってニューオリンズへの感謝の言葉を叫ぶメンバーの笑顔。全員の手にはピカピカの楽器が!

そんな映像がテレビを通じて全国に流れたのは2011年3月の東日本大震災の悲劇から1カ月後のことだった。大津波で楽器や家を失った気仙沼の子どもジャズバンド、スウィング・ドルフィンズが、ジャズの故郷ニューオーリンズから全バンドの楽器を贈られ、復活したのだ。地震と大津波…悲惨なニュースの中、このジャズ交流は温かい話題としてテレビ各局、新聞各紙で大きく報道され、暗く落ちこんでいた被災地や日本各地に希望と元気を与えた。

そして2年後の今年2013年8月、夢のジャズ交流が、アメリカ大使館とTOMODACHIイニシアチブのおかげで再び実現した。ドルフィンズはこの夏休みニューオリンズを訪問。このジャズの聖地を代表するジャズフェス、サッチモ・サマーフェストに出演し、大喝采を浴びたのだ。それは、津波の悲劇から復活した子どもたちのキュートなスウィングが、ジャズの故郷に響いた夢のような瞬間だった。

カトリーナと津波

Swing Dolphins at Satchmo Summer Fest

(写真提供 圓子博子)

カトリーナ、そして大津波…。共に悲しい体験をした日本とアメリカの子どもたちがジャズで交流。そのきっかけは、若き日にニューオーリンズに移り住み、ジャズを修業させてもらった私たち夫婦のニューオリンズへの感謝の気持ちにあった。

ジャズの王様ルイ・アームストロングに憧れ、私たちがニューオーリンズに移り住んだのは1968年。現地の伝説的ジャズメンから原点のジャズを肌で学んだ。「お世話になったアメリカに恩返しがしたい。“アメリカからジャズという最高のプレゼント”をもらった、日本中、いや、世界中の人々もアメリカにお礼が言いたいのでは…」。そう思う一方で、子どもたちが銃や麻薬に囲まれ、殺人事件も多発しているニューオーリンズにショックを受けた。サッチモは銃を発砲して少年院に入れられ、そこで楽器と出会い素晴らしい一生を送った。このことをニューオリンズの若者、また銃社会アメリカの人々にも思い出してもらえれば。

こうして私たちの「銃に代えて楽器を」という、サッチモの孫のような子どもたちに楽器を贈る活動が始まった。2005年にはハリケーン・カトリーナがニューオーリンズを襲い、楽器をなくしたミュージシャンに楽器や義援金を贈った。1994年から19年間でニューオリンズの子供たちに贈った楽器は800点になった。

ニューオーリンズから恩返しの楽器が

2011年3月11日、思いもかけない大震災の悲劇が日本を襲った。直後から、ニューオーリンズの友人たちから安否を問うメールが入ってきた。津波で楽器をなくした子どもたちがいたら楽器をプレゼントしたい。あなたたちがニューオーリンズのためにしてくれたことに恩返ししたい。ニューオリンズのライブハウスが主宰する財団からのうれしいお申し出だった。壊滅的被害を受けた宮城県気仙沼市の子どもたちのバンド、スウィング・ドルフィンズが、楽器、譜面、衣装、家も津波で流されてしまったこと。また、当時避難所となっていた総合体育館前で4月24日に「被災地頑張ろう」のジャズコンサートが計画されたが、楽器が無くて出演できないことがわかった。ニューオーリンズと日本―海を越えた善意のリレーはあっという間にハートがつながり、大震災から1カ月後の4月12日には子どもたちの手に楽器が届き、子どもたちのかわいいスウィングが復活した。

ニューオーリンズを見せてあげたい

Yoshio and Keiko Toyama Perform Martin Behrman

(写真提供 小泉良夫)

保護者の皆さんが言うように、学校より早く復活したドルフィンズのバンド練習! 子どもたちの輝く瞳と明るい笑顔が胸を打った。手にした楽器はハリケーンの悲劇を体験したニューオーリンズからの贈り物。この子どもたちに、いつの日か、楽器を贈ってくれたニューオーリンズを見せてあげたい!

ドルフィンズの復活に感激されたルース駐日アメリカ大使(当時)がツイッターでつぶやいてくださったことから、TOMODACHIイニシアチブとのつながりを持たせていただき、今年夏、トヨタ自動車、三菱商事、日立製作所のご支援を受けたTOMODACHIの助成で、子どもたちのニューオリンズ訪問が魔法のように実現した! ティピティナス財団、国際交流基金、そして私たち日本ルイ・アームストロング協会主催の形で行われたこのジャズ・TOMODACHI交流。

Swing Dolphins arrive in New Orleans

(写真提供 圓子博子)

バンド到着前夜には地元テレビ局WWLテレビが、昨年ニューオーリンズの少年たちが訪日したときの交流の様子をドキュメンタリー番組にまとめ、「Tradgety to Triumph―悲劇から勝利へ」と題してドルフィンズ・スペシャルを放映。一夜にして日本の子どもたちは人気者となり、あちこちで「ドルフィンズでしょう?」と声をかけられていた。ジャズのメッカでジャズを鑑賞し、ミシシッピ川を行く蒸気船に乗り、ワニの生息する湿地帯スワンプを探検してかわいいワニに触ったり…。楽しいジャズ・ジャズ・ジャズの夏休みと、夢の旅を子どもたちにプレゼントすることができて、心よりうれしく思っている。関係者の皆さまに心から感謝したい。

私の大好きなサッチモも、天国からこのかわいいジャズ交流を見て、あのだみ声で「オー・イエス♪」…と言ってくれていることだろう。