エイドリアン・ミラー

「ソウルフード」とは、アフリカ系アメリカ人の伝統料理で、多くの人に親しまれています。フライドチキンやナマズ料理、コーンブレッド、葉物野菜の煮込み、黒目豆などボリュームのある料理が代表的です。この料理は数世紀にわたって進化してきましたが、奴隷制や不健康、貧困を連想させるため、アメリカでは今なお広く誤解され、肯定的に受け止められていません。しかし、実際のソウルフードは、西アフリカ、西ヨーロッパ、そしてアメリカ大陸の食材と料理法を融合した味わい深い料理で、ポジティブなイメージを持って称されるべきです。ソウルフードは、「食べる」黒人文化と言えるでしょう。

著者のエイドリアン・ミラー

大多数のアフリカ系アメリカ人は、アフリカの西海岸諸国にルーツを持ちます。1619年から1800年代初期にかけ、アフリカで捕らわれアメリカに奴隷として送られた人たちは40万人に上ります。南北戦争の頃になると、その数は400万人へと膨れ上がりました。ほとんどの奴隷たちは、遠い場所にある小さな農家で雇われ、住み込みで働いていましたが、大規模農園に雇われていた人も少なくありません。白人の奴隷所有者たちは、奴隷たちが毎週受け取る食料を管理することで、力を行使していました。

奴隷たちに一般的に配給されていた食料は、コーンミール、米、サツマイモなどのデンプン類が数百グラムから1キログラム程度と、干し肉、薫製肉、塩漬け肉(ほとんどの場合は豚肉)のいずれかと糖蜜(砂糖などの製造時の残液)でした。配給の中身は、その土地で採れるものが多く、地域ごとに異なっていました。奴隷たちは配給品を補うために、1日の仕事の後で、雇用主が許可した数時間の自由時間を使って、狩りや魚釣りに出かけました。また、野山で植物を集め、畑を耕し作物を育てました。風土が合った土地では、黒目豆、キビ、オクラ、ゴマ、モロコシ、スイカといった西アフリカ原産の懐かしい農作物を栽培していましたが、そうでない場合は、「ビターリーフ」と呼ばれる西アフリカの苦い葉野菜の代わりにコラードの葉を、アメリカホドイモの代わりにピーナッツ、ヤムの代わりにサツマイモといった食材を調達していました。

奴隷たちは、飼育が簡単だったことから、豚肉と鶏肉を多用していました。また、西アフリカの海岸地域の出身と言うことから、可能な場合は魚介類を好んで食べていました。しかし、奴隷という身分ゆえに、動物の肉をぜいたくに使うことはできませんでした。丸ごと一頭やステーキ、ぶつ切り肉を使うのでなく、保存しておいた肉を細かく刻み、大きな鍋で野菜と一緒に煮込み、赤トウガラシで味付けするなどの工夫をしていました。奴隷たちの典型的な食事は、煮込み野菜、コーンブレッド一切れと水という実に質素なものでした。小麦粉や精製された砂糖がもらえるのは、週末や特別な機会に限られ、その時にビスケットやちょっとしたぜいたくなデザートを作っていました。

ソウルフードはこの奴隷としての経験の中から生まれ、数世紀にわたって進化してきました。しかし、白人たちも食べるようになったこの料理は、この時期「南部料理」として知られるようになりました。

奴隷制度が終わると、多くのアフリカ系アメリカ人たちが南部からアメリカ各地へと移住する「大移動」が始まりました。新しい土地に慣れるにつれ、食べるものも変わりました。今まで使っていた食材が手に入らなくなったからです。その代わりに、世界各地からアメリカに移住してきた新たな隣人たちが使う食材を組み合わせるようになりました。この新しい料理は、1950年代になってようやく、「ソウルフード」として知られるようになりました。

「ソウルフード」が一般的な料理として確立されたのは、1960年代半ばのことです。メインは主に、フライドチキン、ナマズのフライ、または豚肉料理(腸、ハムあるいはポークチョップ)で、サイドディッシュとして、黒目豆のシチュー、サツマイモのシロップ煮、葉野菜の煮物(キャベツ、コラード、ケール、カラシナ、カブラ菜など)、チーズマカロニ、ライスなどが付きます。パンは通常コーンブレッドですが、小麦粉のパンが出される場合もあります。人気の調味料は、カイエンペッパーの辛いソース、香辛料、お酢です。また、アフリカ系アメリカ人が必ずと言っていいほど飲むのは、「レッドドリンク」と呼ばれる赤色の甘い飲み物(炭酸やパンチ、または粉末ジュースから作るタイプ)です。デザートの種類も豊富で、バナナプディング、ピーチコブラー(モモの焼き菓子)、パウンドケーキ、サツマイモのパイが圧倒的な人気です。

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「ソウルフード」と「南部料理」の違いを考えると頭が混乱するかもしれません。というのも、この2つの料理は、材料や料理法で多くの共通点があるからです。「南部料理」をさまざまな料理を生み出した郷土料理の「親」とするのが一番的を射た解釈でしょう。バーベキュー(牛の肩バラ肉や豚のスペアリブ)、ルイジアナ州のケイジャン料理やクレオール料理(ガンボやジャンバラヤ)、ノースカロライナ州やサウスカロライナ州の沿岸地域から生まれたローカントリー料理(シュリンプ・アンド・グリッツ)、アパラチア山脈地方に伝わる素朴な料理(鶏肉と団子が入ったシチュー)、そしてソウルフード。これらはみな、南部料理がルーツです。ソウルフードは南部料理とは対照的に、しっかりとした味付けで、辛さも甘さも味わえる料理です。また、七面鳥の首や豚足など、さまざまな部位の肉を味付けに使います。

伝統的なソウルフードに加え、新しいソウルフードも誕生しています。例えば、「家庭的で健康」をモットーにしたソウルフード。豚肉の代わりにスモークターキーなどの脂肪分の少ない肉を使って野菜を味付けし、揚げ物にはラードの代わりにベジタブルオイルを使うヘルシーなスタイルです。バターの代わりにマーガリンを使い、塩分や砂糖を控えめにしたりもします。「高級ソウルフード」では、伝播作物や伝統的な飼育法で生産された肉に加え、外国の香辛料などの高価な食材を使います。意外にも一番人気のソウルフードは、肉を使わないベジタリアンやビーガンスタイルです。中でもビーガンは、乳製品やハチミツといった動物性食品を一切使いません。ソウルフードを他の料理、特にアジア料理と融合させたフュージョンスタイルも人気です。例えば、パン粉を使ったフライドチキン、小豆入りご飯にスモークソーセージをのせたもの、コラードの葉を具にした中華風春巻きなどがあります。

ソウルフードは、アフリカ系アメリカ人の力強い食文化を伝え続け、今ではあらゆる文化的背景をもつアメリカ人に受け入れられています。次回アメリカを訪れる際には、ぜひソウルフードレストランに立ち寄ってください。自分でソウルフードを料理してみたい方は、こちらのレシピをお試しください。ソウルフードのおいしさに舌を巻くだけでなく、間違いなく心も満たされるでしょう。

 

エイドリアン・ミラー
コロラド州デンバー在住。著書「Soul Food: The Surprising Story of an American Cuisine, One Plate at a Time」がジェームズ・ビアード賞を受賞。インスタグラムツイッターは @soulfoodscholar。