ジェームズ・T・クロウ

米国と日本は共に、エネルギー安全保障と環境の質について、強い関心を持っている。日米両国の国民は、環境技術の開発と、クリーンコール、原子力、バイオ燃料、再生可能エネルギー源などのクリーンな代替エネルギーの利用拡大は、新興経済諸国を関与させることと同様に、エネルギー安全保障の確保と地球気候変動への対処のために不可欠と認識している。米国も日本も、技術の開発と商用化を非常に重視する政策を策定しており、この分野では特に2国間の協力が有益となり得る。日本では持続可能な開発の重要性に対する意識が高いこと、また環境にやさしい技術が進歩していることから、多くの米国企業は日本企業との共同事業を強く望んでいる。

本稿ではまず、政府間協力の概要を説明する。各政府間プロジェクトの詳細については、下記のリンクを参照されたい。次に、再生可能エネルギー、廃棄物管理、排出削減、および環境監視に関する民間部門のさまざまなパートナーシップを紹介する。最後に、新しい技術の開発における官民の協力についても触れたい。

政府間の協力

環境に関する日米協力は、日米環境保護協力協定が締結された1975年までさかのぼる。この協定で両国は、実務レベルの専門家会合、科学者・技術者・その他の専門家による相互の訪問や交流、合意した共同プロジェクトの実施、ならびに研究活動、政策、慣行、法規、および実施プログラムの分析に関する情報やデータの交換を通じて、環境保護の分野における協力関係を維持し促進することを誓約した。

2001年6月、ブッシュ大統領と小泉純一郎首相(当時)は、米国と日本が気候変動に関する幅広い科学技術の共同研究活動で協力するとともに共通の行動分野を検討することで合意し、環境保護の重要性を改めて強調した。両国は、気候変動とその影響の理解・監視・予測に役立つ共同研究活動を30件以上特定した。また、この研究は、温室効果ガスの純排出量を抑制する先進的な低炭素技術の開発にも貢献する。

さらに重要な点として、日米両首脳は、民間部門による気候変動科学技術の研究開発を促す、経済面その他の奨励策を強化することの重要性を認識した。現行の、および今後予想される共同研究活動には、原子力、クリーンコール、メタンハイドレート、および再生可能エネルギーの利用によるエネルギー源の多様化やエネルギー効率の向上などがある。

30年以上にわたり日米が環境に関する対話を定期的に行ってきた結果、数々のパートナーシップが発足している。これらに共通するテーマは、経済発展を妨げることなく、排出を削減し気候変動に対処することの必要性である。これは、特に開発途上国に対応する際に重要な点である。米国と日本が環境課題に対処するために協力している2国間および多国間のパートナーシップには、以下のようなものがある。

主要経済国プロセス
クリーンな開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)
全球地球観測システム(GEOSS)
国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)
気候変動対策と開発の副次的便益に関する日米ワークショップ
国際太平洋研究所
アジア太平洋地球変動研究ネットワーク (APN)

民間部門のパートナーシップ

米国政府は2001年以降、気候科学、技術開発、そして環境保全の奨励策と国際援助に370億ドル近くを費やしているが、このほかにも民間企業を対象に税額控除を実施している。この税制面の措置によって、環境技術の開発と導入に向け何十億ドルもの民間投資が促進される可能性がある。一方、民間企業は、深刻な環境課題に独自に取り組んでおり、日米両国の企業は、両者がパートナーシップを組んで活動すれば、ビジネスチャンスをより有効に活用できると感じている。

再生可能エネルギーを利用して温室効果ガスの排出量を抑制することが大切である (写真 FreeFoto.com)

再生可能エネルギーを利用して温室効果ガスの排出量を抑制することが大切である (写真 FreeFoto.com)

再生可能エネルギー

再生可能な資源を使ってエネルギーを生産する市場が成長している。この分野で進展を促しているのは、環境保護と経済性の両方の要因である。太陽エネルギー利用の普及は、環境保護主義者たちの長年の夢であったが、そのために必要な太陽(PV)電池の生産コストが比較的高いことが障害となってきた。しかし近年、画期的な技術の開発と、エネルギー・コストの上昇により、太陽エネルギーの費用対効果が向上している。日米の企業は最前線に立って協力し、この成長産業の育成に当たっている。

米国住友商事会社、住友商事株式会社、三洋電機株式会社、および三洋エナジー(U.S.A.)株式会社は、米国企業が太陽発電パネル開発において優位に立っていることを深く理解していたことから、全米第3位の規模を持つ太陽電池メーカーで、太陽エネルギー産業で有数の長い歴史を持つソレック・インターナショナル社を買収して、米国内に新会社を設立した。ソレック社は、ほとんどすべての高出力PV応用製品に使われている結晶シリコンPVエネルギー技術の大幅な改良に重要な役割を果たした。1997年に、三洋は結晶電池技術を採用し、効率20%を達成する電池を開発した。新会社は、ソレック・インターナショナルの社名で営業し、結晶シリコン太陽電池を製造・販売している。

カリフォルニア州の風力発電地帯(写真 FreeFoto.com)

カリフォルニア州の風力発電地帯(写真 FreeFoto.com)

また同じくこの分野で、2004年に、シャープ株式会社と、その米国販売・マーケティング子会社であるシャープ・エレクトロニクス・コーポレーションが、太陽光発電や燃料電池などの新エネルギー分野における共同開発に関する覚書を、ニューメキシコ州と交わした。この合意の下でシャープは、サンディア国立研究所、ロスアラモス国立研究所、ニューメキシコ州立大学など、ニューメキシコ州の技術センターと協力し、太陽光発電システム用の先進的な較正・試験技術、および電力網が整備されていない遠隔地の農村部に農業用電力を供給するための新たな太陽光発電の応用技術の開発を目指している。

バイオマスも有望な再生可能エネルギー源のひとつである。山形県では、木の枝など近隣の森林から持ってきた木質バイオマスを利用してGEエナジー社のイエンバッハ・ガスエンジン2基を駆動し、2メガワットの電力を得ている。

廃棄物管理

エネルギーの生産に加えて、各国は廃棄物を処理する手段も見つけなければならない。人口密度が高く、利用可能な土地が限られている日本にとっては、これが常に深刻な問題となってきた。日本では、この問題に対処する新しい革新的な手段が常に必要とされることから、日米の企業が協力する機会が多数生まれてきた。エネルギー生産のためにバイオマスを利用することは「一石二鳥」の方法である。先進的な産業システムの設計・製造を専門とし、フォーチュン・グローバル500に選ばれた株式会社荏原製作所(本社:東京)と、サンフランシスコ・ベイエリアに本社を持つエネルギー技術会社のエクサジー・インクは、福岡県に廃棄物焼却発電施設を建設した。この4メガワットの発電施設は、1日に200 トンの都市廃棄物を焼却することができ、同様の他の施設と比べて稼働効率が20%優れている。またもうひとつの例として、富士電機は2000年に、廃棄物を原料とする燃料を使った日本初の発電所で使われるボイラーの供給会社に、フォスター・ホイーラー・コーポレーションの日本子会社フォスター・ホイーラー株式会社を選んだ。

しかし、すべての廃棄物がエネルギー生産のために焼却できるわけではなく、廃棄物の形態によっては、その処理が難しい課題となり得る。2002年に、米国の企業ステリサイクル・インクと北海道の株式会社メディカル・セフティ・システムズは、北海道に医療廃棄物処理施設を新設した。日本は環境基準が厳しいので、医療廃棄物の焼却を続けることは極めて難しく、費用もかかる。そのため、ステリサイクル社が特許を持つ医療廃棄物処理技術は日本で大きな将来性がある。 同社の高周波滅菌(ETD)処理は、誘電炉内で比較的低周波のラジオ波を使って発生させた強力な電界で医療廃棄物を非常に急速に熱し、感染性を除去するものである。また、廃棄物を細かく切断することによって、その体積を最大89%減らすことができる。

廃棄物が捨てられる以前の段階で廃棄物管理に取り組もうとする試みとして、NECソリューションズ(アメリカ)インクは、2002年に初のエコ・パソコンを発表した。大手コンピューター・メーカーが、鉛やリサイクル不可能な素材を使った従来のデスクトップ・パソコンの処分に伴う環境問題の増大に対処することを目的にしたパソコンを開発したのは、これが初めてであった。NECソリューションズ社のパソコンは、通常コンピューターのモニターに使用されるホウ素を使わず、無鉛はんだとリサイクル可能なプラスチックを使い、所要電力量を抑えることによって、これらの環境課題に対応するものであった。

耕地用のバイオマス発電施設(写真 FreePhoto.com)

耕地用のバイオマス発電施設(写真 FreePhoto.com)

排出削減

日米両国では、大気を清浄に保つことにも関心が持たれており、日本は排出抑制技術の利用によって産業活動による大気汚染の克服に成功してきた。一例を挙げると、日立パワーシステムズ・アメリカ社は、2006年に、ミズーリ州およびイリノイ州にあるアメレン・コーポレーションの5カ所の発電施設に、工場の排気ガスから汚染物質を除去するスクラバーを設置する契約を受注した。この技術提携により、アメレン社は、日立が現在および将来的に持つ、環境に優しい排出抑制技術を利用することができる。

極めてクリーンで効率的な発電施設を製造するフュエルセル・エナジー・インクは、2006年に川崎重工業株式会社と発電施設建設に関する契約を結んだ。さらに同年、西部汚水処理場で稼動しているフュエルセル社製の発電施設が、電力効率、熱回収効率、および汚染物質の大気放出量に関して下水道新技術推進機構(JIWET)の基準を満たしているか、または超えているとして、JIWETから認証を受けた。この認証は、西部汚水処理場を運営する福岡市、フュエルセル社のアジア販売会社である丸紅株式会社、および日本の大手電力会社のひとつである九州電力の協力を受けて行われた。認証取得後間もなく、同社の発電施設が、仙台市の大学、福祉施設、高校、および浄水場への電力供給に採用された。

環境監視

言うまでもないことだが、企業や政府による環境保護は、具体的な状況を正確に把握することによって容易になる。その一例が、2005年にクロスボー・テクノロジー・インクが住友精密工業株式会社と提携して日本で設立した子会社である。クロスボー社のネットワーク製品は、気温、相対湿度、周辺光、全地球測位システム(GPS)の位置、太陽放射、大気圧、降水量、土壌水分・温度など、実用的な環境データを収集するよう設計されている。これらのデータは、農業の効率向上の支援、工場・建物の監視と安全確保、環境問題に敏感な地域の保全、国の名所の保護、地震や火事による被害の緩和、および国の天然資源の確保と保護などに利用することができる。

新技術開発における官民の協力

日本貿易振興会(JETRO)は2007年に、日本最大のエレクトロニクス・情報通信見本市であるCEATECジャパン2007で発表される有力な技術、サービス、製品を事前に検討し評価するために、独立した諮問委員会を設置した。米国の技術専門家らが主導するこの委員会のメンバーは、新しい技術、そしてそれが米国の技術トレンドに及ぼす影響についてさまざまな見解を示すことができた。

今年、米国エネルギー省のアルゴンヌ国立研究所と日本の戸田工業株式会社は、アルゴンヌ研究所が特許を取った素材を、戸田工業が全世界で商用生産および販売することを許可するライセンス契約を結んだ。この素材を使って、ハイブリッド電気自動車、携帯電話、ノートパソコンなどの製品に使われる、より寿命が長く安全性の高いバッテリーを製造することができる。

結論

これらは、エネルギーおよび環境の分野における日米企業の協力例のごく一部である。技術水準の高い日米の企業は、両者が協力することによって、利益を上げると同時に、社会に影響を及ぼすことができることに気付き始めている。政府間の協力と共に、そうしたパートナーシップの重要性は今後増大していくであろう。

ジェームズ・T・クロウの写真

ジェームズ・T・クロウ
在福岡米国領事館経済・商務担当官。米国海軍およびペイン・ウェバー社での勤務を経て、2000年に国務省入省。在韓国米国大使館、国務省情報調査局での経験を持つ。