スコット・ハンセン

はじめに

私はかつて高知市で3年間、JETプログラム(地方自治体が総務省、外務省および文部科学省の協力の下に実施している「語学指導等を行う外国青年 招致事業」)の英語教師として働いていました。その間に何度か高知市と大阪の間をフェリーで往復しましたが、同じ船にはいつもたくさんのフィリピン人女性 のグループが乗り合わせてい ました。特に彼女たちのことを深く考えたことはありませんでした。彼女たちはいつも若くてきれいで、普通は男性が1人か2人付き添っていました。私は彼女 たちがクラブでホステスとして働いているか、ひょっとしたら売春婦かもしれないと想像していましたが、いずれにしても、自分の意思で仕事に就き、高給をも らっているのだろうと思っていました。

スコット・ハンセン 在日米国大使館政治部で人身売買、宗教、難民、人権等の問題を担当。前任地はタイの在チェンマイ領事館。2003 年の国務省入省前にJETプログラムに参加し、高知市で英語教員を務めた。ミシガン大学アナーバー校で経済学士号取得。

スコット・ハンセン 在日米国大使館政治部で人身売買、宗教、難民、人権等の問題を担当。前任地はタイの在チェンマイ領事館。2003 年の国務省入省前にJETプログラムに参加し、高知市で英語教員を務めた。ミシガン大学アナーバー校で経済学士号取得。

ある日、自分の推測が間違っていることが分かりました。大阪に到着するなり、女性たちと付添いの男が大声で言い争いを始めたのです。港から市内に 向かうバスは込んでおり、グループの女性の1人が私の横に座りました。彼女にどうしたのか尋ねると、男が彼女たちのパスポートを持ってくるのを忘れたのだ と言います。「なぜあの男が彼女たちのパスポートを持っているのだろう」と不思議に思い、日本で何をしているのかと彼女に尋ねたところ、彼女はそれからバ スを降りるまでずっと、だまされて日本にやって来たこと、雇用主から暴力による虐待を受けたこと、客から性的暴力を繰り返し受けたことなど、恐ろしい話を 聞かせてくれました。

バスが空港に入ると、彼女は「さようなら日本、こんにちはフィリピン!」と大声で叫びました。日本の文化にそぐわないこの行為に、バスの日本人乗 客の多くが、振り返って顔をしかめました。私は、自分の日本での生活がこの女性と大きく違うことに衝撃を受けました。この国にすっかり魅了され、日本人に いつも丁重に扱われ、給料を払ってもらえないことや、傷付けられたりレイプされることを心配する必要のない私は、なんと幸運なことか、と思ったのです。

あのバスに乗ったことで、日本にやって来る外国人女性に対する私の思い込みと、彼女たちの現実の生活との間に非常に大きな差があることに気づきま した。こうして私は、人間に対する最も凶悪な犯罪のひとつであり、不幸にも世界中で拡大しつつある人身売買という犯罪を初めて知りました。

日本での人身売買の実態を監視する米国大使館政治部の担当官として、私はこの記事の中でこの問題を簡単に説明し、日本に有益な政策の改善策をいく つか提案したいと思います。日本での人身売買について語る前に、この問題が米国でも深刻化していることを認めることが大切です。人身売買問題の被害を受け ずにすむ国はありません。米国は、「ベストプラクティス(最優良事例)」の人身売買防止政策として広く知られている政策を掲げ、それを積極的に実施してい ますが、人身売買は深刻化する国内犯罪のひとつとなっているようです。米国は国土の面積が広く、簡単に越えることができる国境が長く続いていることから、 被害者になる可能性がある人々の米国内への流入を防止することが極めて難しくなっています。米国の国土の大きさと国民の多様性が相まって、人身売買業者が 当局の目を逃れて活動することが容易になっているのです。

インドのムンバイで、人身売買の被害者になった娘を探すネパール 人の母親(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

インドのムンバイで、人身売買の被害者になった娘を探すネパール 人の母親(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

人身売買とは何か

人身売買とは、簡単に言うと、経済的利益のために人間の自由を奪うことです。「売買」と和訳される英語の「trafficking」は、人をある 場所から別の場所に移動させることを意味するため、誤解を招く恐れがあります。移動させられなくても人身売買の被害者となる場合があると理解することが重 要です。例えば、自分の住む村、あるいは自分の家の中でさえも、女性が売買される(trafficked)ことがありえます。ある男が自分の娘に売春を強 要し、その稼ぎを自分の手元に留めるなら、自分の家から離れることがなくても、その娘は人身売買の被害者です。また、ある男性が工場で3カ月間妥当な条件 で働いていたとしても、彼のパスポートが突然取り上げられ、彼自身でお金を引き出すことができない、雇用主が管理する銀行口座に給料が振り込まれるなら、 彼は人身売買の被害者になったということができます。

人身売買についてよく知らない人たちは、密入国のあっせんと人身売買を混同することがよくあります。この2つにはいくつかの大きな違いがありま す。最大の違いは「自由」です。密入国者は、輸送段階では過酷で危険な状況に置かれるかもしれませんが、目的地に到着すれば自由の身となります。密入国者 は、自ら選んで密入国したのです。人身売買される人々には選択の余地はありません。もうひとつの違いとして、密入国という犯罪は目的地に着いた時点で終了 します。人身売買の場合、被害者は、自分の置かれた状況から逃れて自由になるまで搾取され続けるのです。つまり、密入国のあっせんは「国家」に対する犯罪 ですが、人身売買は「被害者」に対する犯罪なのです。

密入国と人身売買は同じではありませんが、共存する場合が多くあります。こうした共通性を示す重要な事例として、米国とメキシコの国境がありま す。これまでに何十万という人々がこの国境を越えて密入国してきました。彼らは米国到着するやいなや非常に弱い立場に立たされる人々です。人身売買業者、 場合によっては密入国あっせん業者自身が、密入国あっせんの代金を払った人間を誘拐し、工場での労働や、家政婦や売春婦として働くことを強制することがあ ります。この場合、自分の意思で密入国した者が、自分の意思に反して人身売買の被害者になります。

人身売買業者が被害者を閉じ込め、囚人のように監禁することは想像に難くありません。このような事例は、特に開発途上国で実際に起きています。売 春宿が全焼し、ベッドに鎖でつながれた被害者が逃げることができずに焼死すると、大ニュースになります。しかし、縄や鎖を用いずとも人間がほかの人間を意 のままにする方法はいくらでもあるのです。

売春を強要される人身売買の被害者たち(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

売春を強要される人身売買の被害者たち(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

人身売買業者が被害者を意のままにするために使う手段のひとつは、言うまでもなく暴力です。単に被害者への暴力だけでなく、被害者の家族に暴力を 振るうと脅すことも含まれます。グロバール化された今日の社会では、目的国にいる人身売買業者は、被害者の本国のブローカーや勧誘業者に直接連絡すること が可能です。つまり、被害者の家族に対する脅威は現実に起こり得るというわけです。よく使われるもうひとつの手段は、渡航書類を取り上げることです。人身 売買業者は通常、被害者からパスポートや身分証明書を取り上げます。本国の大使館や領事館から新しいパスポートを取得できることを知らない被害者は、帰国 したければ雇用主の意思に従わなければならないと信じ込んでいます。人身売買業者は、借金で被害者を拘束するという手段も用います。多くの場合、被害者は 仕事場に到着するとすぐに、自分が多額の借金を背負っていることを突然知らされます。そして、世界中どこに行ってもその借金がつきまとうと言われます。理 論的には、彼らの稼ぎによって借金は減っていくはずですが、家賃、医療費、コンドーム、食費などの費用が借金に加算され、被害者はいつまでたっても借金苦 から抜け出すことができません。被害者には、借金の返済が公正に計算されているかどうかを確認する術がありません。彼らの返済に対して領収書が発行される ことはありません。人身売買業者は、領収書が法廷で証拠として使われる可能性があることを知っています。女性の中には何年もかけてブローカーに借金を返済 する人もいます。一生借金から解放されない被害者もいます。

また、人身売買業者は、被害者を無理やり従わせるために、巧妙な心理的手段を用います。最もあくどい例は、ブローカーが被害者に、警察に行けば逮 捕され、殴打され、強制送還されるなどと言うことです。現地に不案内な被害者は、それが作り話だということを知る由もありません。現地の言葉も話せず、渡 航書類も取り上げられた被害者たちは、人身売買人の元を離れることを恐れるようになります。日本では、被害者を支援する人身売買問題の活動家が、雇用を継 続するには売春をしなければならないことを3カ月たつまで被害者女性に伝えないクラブがある、とも報告しています。彼女たちは6カ月たつまで給料をもらえ ないため、その多くは3カ月間の投資を失うより、むしろ売春して「最後までがんばる」ことを選びます。性的サービスを提供しないクラブであっても、ノルマ を果たさない女性を罰することで彼女たちを心理的に追い詰め、常連客を得るためにセックスすることを余儀なくさせます。

人身売買の被害者は暴行、強要、レイプ、搾取の対象となります。性的人身売買の被害者は、極めて悲惨な心理的影響を受ける上に、大けがを負った り、HIVに感染する場合がよくあります。「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」によると、「東南アジアの売春宿から救出された子どもの50%か ら90%はHIVに感染している」とのことです。労働目的の人身売買被害者も無傷で逃れられるわけでなく、心的外傷後ストレス障害、うつ病、胃腸障害、腰 痛、神経系統の病気などで苦しむ場合が多くあります。人身売買は単に被害者に対する犯罪ではなく、人道に対する犯罪でもあります。

人身売買は非常に実入りの良い犯罪です。利益を生むのが1回限りの薬物販売や窃盗に比べ、人身売買の被害者は使い物にならなくなるまで何度も搾取 し続けることができます。そのために人身売買被害者は、麻薬の何倍もの価値があるわけです。犯罪組織が国際的な人身売買ネットワークにどの程度関与してい るかについて盛んに議論されています。一般化することはできませんが、人身売買被害者の搾取が行われている施設の不動産が、犯罪組織によって所有されてい る場合が多いことに気付かされます。犯罪組織が直接関与していなくても、風俗店の経営者がほぼ必ず「みかじめ料」を彼らに支払わなければならないことが、 売春宿の経営者が警察に尋問されると明るみに出る場合が多くなっています。

2006年に完了した米国政府の委託調査によると、毎年およそ80万人が国境を超えて売買されていると推定されていますが、人身売買の規模の把握 が難しいことは広く知られています。国際労働機関は、常時1230万人が何らかの形で強制労働させられていると推定しています。推定される人身売買の規模 と、警察当局によって確認された被害者数との間に大きな差があることについて、大きな論争が起きています。明らかなことは、さらに調査が必要だということ です。その規模がどれほどであろうと、人身売買は極めて残酷かつ非情で非人道的な犯罪であるため、世界中のすべての国が団結してこれに反対することは道徳 的義務です。

インドの極貧地域から家族とともにブロック工場に売られてきた9歳の少女。1週間に7日、朝から夜まで働かされる(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

インドの極貧地域から家族とともにブロック工場に売られてきた9歳の少女。1週間に7日、朝から夜まで働かされる(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

日本における人身売買

日本は、商業的な性的搾取を目的に人身売買される男女や子どもの目的国であるとともに通過国でもあります。被害者は、中国、韓国、東南アジア、東 欧、また頻度は少ないですが中南米の人たちです。性的搾取を目的に日本人の少女が国内で売買される事例についても、報告件数が増加しています。

本国のブローカーが女性たちを勧誘して仲介業者や雇用主に売りつけます。そして、こうした仲介業者や雇用主が、買った女性たちを借金で縛りつけ思 いのままにします。人身売買の犠牲となって日本の風俗産業で働くことになった女性のほとんどは、雇用主に渡航書類を取り上げられ、移動を厳しく制限されて います。逃亡を試みれば、本人または家族に報復の危険が及ぶと脅されています。多くの場合、雇用主は女性たちを孤立させ、絶えず監視し、反抗すれば暴力で 罰します。場合によっては、ブローカーが薬物を使って被害者を服従させることもあります。

人身売買で日本に来た女性は通常、商業的な性的サービスを提供する許可を取得した店で、強制的に売春婦として働かされています。日本の性風俗産業 には、ストリップクラブ、ポルノショップ、ホステスが接客するクラブ、ビデオボックスなどの「店舗型」営業と、ほかの場所での性的サービスを手配する、エ スコートサービスや通販ビデオなどの「非店舗型」営業があります。これまで、性的搾取を目的に人身売買されて日本に来た女性の大部分は、「スナック」バー でホステスとして雇われ、店以外の場所で性的サービスを提供することが要求されていました。「スナック」バーは今でも至る所にありますが、昔からの売春宿 の多くは閉鎖されました。警察による「風俗営業等の規制および業務の適正化に関する法律(風営法)」の執行強化に対応し、風俗店経営者の多くは、店舗型営 業から「派遣型」のデートサービスに移行しました。そのために、日本の巨大な性風俗産業の雇用主による人身売買被害者の搾取の程度を把握することが、さら に困難となりました。

借金による束縛は、日本で最も一般的な、被害者を支配する方法です。人身売買の被害者が日本到着前に、将来自分が負うことになる借金の金額、その 返済に要する期間、あるいは、到着と同時に課せられる雇用条件を理解していることはあまりありません。彼女たちは通常、契約が開始した時点で2万6000 ドルから4万3000ドル(300万円から500万円)の借金を負わされます。さらに生活費、医療費(雇用主が提供する場合)、その他の必要経費を雇用主 に支払わなければなりません。反抗的な態度を取ると「罰金」が科せられて時とともに借金の元本が膨らみますし、雇用主が借金を計算する方法は不透明です。 雇用主は、扱いにくい女性やHIV陽性と判明した女性を「転売」したり、転売すると脅しすこともありますが、それによって被害者の借金が増え、労働条件が さらに悪化することも多くなっています。

人身売買を防止するために日本は積極的に活動しています。過去数年間にビザ受給要件を変更したことで、「興行ビザ」で日本に入国する女性の数が大 幅に減少しました。日本政府が、ビザ申請者に対して、この業界で2年の経験があることを証明するよう要求し、ビザのスポンサー組織に給料の増額を義務付 け、日本のクラブにその合法性の証明というより重い負担を課したことで、興行ビザで日本に入国するフィリピン女性の数は、2004年の毎月7000人以上 から、現在は毎月1000人に減少しました。この人数でもまだ多い思われます。米国の「興行ビザ」発給数は、世界のすべての国民に対するものを合わせて年 間わずか1万3000件しかありません。

日本国内で人身売買に対する意識を高めるために、昨年、外務省と警察庁は、人身売買によるトラウマ(心的外傷)を説明し、人身売買との戦いにおけ る政府の取り組みを報告し、被害者の支援の受け方について説明した小冊子やパンフレットを何万部も作成しました。また日本は、国際的な協力関係を築くため に、フィリピン、インドネシア、タイなど人身売買被害者の出身国11カ国と、2カ国協議を実施しました。「人身取引対策に関する日タイ共同タスクフォー ス」の一環として、日本の入国審査官がバンコクに滞在し、タイの担当官に日本の偽造書類の見分け方を教えました。日本領事担当官によると、興行ビザで日本 に入国するタイ人はほとんどおらず、被害者の大部分は偽造書類を使って日本に入国しているとのことです。日本政府が言うように、バンコクの入国審査官向け の教育プログラムが、タイ女性を売春から守ることに役立っているというのは本当かもしれません。民間シェルターの運営者は、日本の売春宿やクラブで働くタ イ女性の数は、過去数年間に大幅に減少したようだと言っています。

警察官と入国審査官は、本国送還を待つ外国人の人身売買被害者が一時的に滞在する場所として、厚生労働省(厚労省)のシェルター(婦人相談所)の ネットワークを利用しています。政府が被害者の医療費を支払うほか、国際移民機関(IOM)への助成金を通じて本国送還費用を補助します。これらのシェル ターは、もともとは、売春防止法により日本人の売春婦を保護更生する施設として設立されたものであり、現在は主に配偶者による暴力の被害者の保護に使用さ れているため、人身売買被害者に十分なサービスを提供するために必要な資源が十分そろっていません。人身売買被害者への支援を専門に行う民間非政府機関 (NGO)のシェルターには、7カ国以上の言葉を話すことができる常勤職員がいますが、厚労省のシェルターは、通訳サービスを外部から調達しなければなり ませんん。政府のシェルターに滞在する外国人女性は、人身売買被害者の特別なニーズを十分理解する専門家による十分なカウンセリングを母国語で受けられな いため、できるだけ早く本国送還されることを選択しました。政府は、被害者が民間シェルターに滞在する費用を補助するための資金を確保していますが、これ らの人身売買専門のNGO施設に紹介される被害者はほとんどいません。

日本における人身売買にかかわる犯罪者の訴追状況は、過去1年間に大幅に改善されました。2006年には78人の人身売買容疑者が逮捕されまし た。起訴件数は17件で、2005年改正刑法の下で15人が有罪判決を受けました。2005年には起訴件数がわずか数件、有罪判決は1件だったことを考え ると、これは大幅な増加です。2006年に有罪判決を受けた15人のうち12人は1年から7年の実刑判決を受け、3人が執行猶予判決を受けました。

日本の人身売買問題は性目的の人身売買が中心ですが、労働力を目的とする人身売買も深刻さを増す問題かもしれません。労働者の権利を訴える活動家 やマスコミが、企業の不正な慣習を報告する事例が増えています。企業の中には、外国人にサービス残業や最低賃金以下での労働を強いているところもありま す。さらに、「強制預金」は違法であるにもかかわらず、彼らの賃金は企業が管理する銀行口座に自動的に振り込まれます。また、外国人労働者から渡航書類を 取り上げ、「逃避防止」のために行動を制限する場合もあります。

日本と人身売買報告書

2000年に米国連邦議会は、人身売買被害者保護法(TVPA)を可決しました。TVPAは、人身売買撲滅政策の3つの「P」を定義しています。 それは、人身売買の「防止(Prevention)」、被害者の「保護(Protection)」と更生、および積極的な捜査に続く人身売買業者の「訴追 (Prosecution)」です。米国内の人身売買と戦うためのプログラムを策定する以外にも、TVPAは米国国務省に対し、人身売買の根絶に向けた外 国政府の取り組みを毎年評価し、報告することを義務付けています。人身売買報告書の執筆者は毎年、各国の「防止・保護・訴追」政策とその実施状況を、 TVPAが定める「最低基準」と比較し、各国に「成績」をつけます。第1階層国は、政策と実施が最低基準を満たしている国です。第2階層国は、政策と実施 が最低基準には満たなくとも、政府が多大な改善努力を行っている国です。第3階層国は、TVPAが設定した最低基準を満たすために多大な努力をしていない 国です。第2階層監視リストとというもうひとつの区分があり、これには第3階層に転落する危険がある国が含まれます。

日本における人身売買に関する議論は、過去3年間に政府が実施した素晴らしい改善措置を認めることから始めなければなりません。2003年の報告 書で第2階層国と評価された後、日本は2004年の報告書で第2階層監視リストに入れられました。その後の2年間で、日本政府は、日本の総合的な人身売買 撲滅活動を向上させる数々の措置を講じました。同じ年、日本は人身取引対策に関する関係省庁連絡会議(タス クフォース)を設置し、人身売買と戦うための行動計画を策定しました。2005年に国会は刑法を改正して人身売買罪を新設しました。また風営法を改正し て、不法就労者の雇用主の取り締まりを強化しました。こうした努力のほか、先に述べた「興行ビザ」規則の改正やその他の数々のプログラムを実施したこと で、日本は2005年に第2階層に昇格しました。過去2年間こうした多大な努力が続けられてていますが、それでもまだ、米国の人身売買被害者保護法が設定 する最低基準を満たすまでに至っていません。次号では、人身売買報告書で第1階層国という評価を受けるために、日本が取り組まなければならない分野につい てお話しします。

(次の記事に続く)

MTV EXIT キャンペーン
MTV EXIT キャンペーンは、ドキュメンタリー、短 編映画、インターネットによる情報提供、特別なイ ベントを通して、人身売買に対する意識を高めよう とする活動です。米国国際開発庁(USAID) が一部費 用を負担しています。MTV EXIT キャンペーンの特別番組(Traffic: An MTV EXIT Special) では、知らない間に人身売買の連 鎖に巻き込まれてしまった現実の人々を紹介してい ます。例えば、フィリピン出身のアナは売春を強要 されました。インドネシア人女性のエカは人身売買 の被害者となり、家庭内強制労働に従事させられて 一生奴隷として過ごすことになるところでした。ミ ン・オングは母国のビルマからタイに連れて来られ、 2年間工場に監禁されて働かされました。このドキュ メンタリーは人身売買の実態を伝え、誰もがこの問 題に関与していることを強調しています。また、人 身売買の被害者にならないようにする方法や、搾取 や人身売買を阻止するために何ができるか、につい て情報を提供しています。日本のVERBAL(m-flo)、韓国のピ(RAIN)、タイのタタ・ ヤンなどアジアの著名人が、各国言語への翻訳版で ナビゲーターを務めています。シンガポールとマレー シアでは、女優ルーシー・リューが英語版のナビゲー ターを務めています。「人身売買は、アジア太平洋地域の各地で若者が直 面する重大な人権問題になっています。被害者はレ イプや拷問など、恐ろしい虐待にさらされ、特に女 性や少女が大きな影響を受けます」と、MTVネッ トワークスのビル・ローディー副会長は言っていま す。また、USAID アジア地域事務所長のオリビエ・カー デュナーは「一般市民がこの問題の深刻さを認識し ていないことが要因となり、法の執行と、人身売買 をやめさせる地域社会レベルでの活動が妨げられて きました。こうした認識を高めることによって、こ の非人道的な犯罪を阻止するために必要な法の執行 や被害者への支援を推進する地域社会の活動を促す ことになります」と語っています。  どの放送局・団体も、MTV EXIT のドキュメンタリー を無償で使用することができます。日本語の資料に ついては、www.mtvjapan.com/special/exit/ を参照してください。