スティーブン・ラデレット

米国の対外援助は、現金や物資、技術的専門知識など、さまざまな形で、公的、準公的、ならびに民間の機関やイニシアチブを活用して行われている。スティーブン・ラデレットは、世界開発センターの上級研究員であり、対外援助、開発途上国の債務、経済成長、富裕国と貧困国の間の貿易などの問題に取り組んでいる。同氏は2000年1月から2002年6月までの間、米国財務省のアフリカ・中東・アジア担当次官補代理を務めた。

今日の米国による対外援助は、第2次世界大戦後のマーシャルプランと、今日では世界銀行グループの一部として知られている国際復興開発銀行の設立に端を発している。この2つの取り組みは、第2次世界大戦直後にヨーロッパを復興し、平和と繁栄と自由の基盤を築く上で欠かせないものであった。

ホンジュラス共和国モンテシロス出身の2人の少年が、きれいな水を喜んでいる。この水は、 米国国際開発庁の支援を受けて建設された新しい水道システムで供給されている(写真 USAID)

それ以降、米国の対外援助プログラムの目的と方法は著しく拡大した。今日のプログラムには、農業、保健、教育、インフラ整備、HIV・エイズの予防および治療、民主主義、統治、ボランティア活動、そして緊急時の人道支援など、極めて重要な分野における多様な活動が含まれている。米国政府が2006年に行った対外援助は、世界中の120の国および地域を対象とし、金額は260億ドル以上に上った。

米国の対外援助は、現金、食料品や医薬品などの物資、債務救済、技術的専門知識の提供などさまざまな形で行われている。しかし、米国政府はその役割の一部を担っているにすぎない。米国民は、民間の慈善事業や基金、宗教系組織、そして個人の活動を通じて、それ以上の支援を行っている。

米国の対外援助の大きな特徴は、支援が外国政府だけでなく、非政府組織、宗教系組織、権利擁護団体、研究機関、そして中小企業なども対象にしている点である。社会の進歩は政府または民間の単独の努力だけでなく、公共部門、民間企業、非営利団体、そして個人が共同で行う努力にかかっている、という信念を大多数の米国人が持っており、米国の幅広い援助活動はこの信念を反映するものである。米国の政府機関が経済研究団体を支援する。宗教系組織が学校や診療所を運営する。マイクロファイナンス(低所得者向け小規模金融)のイニシアチブが小規模な民間の起業家や大学、職業訓練所を支援する。非政府組織が環境意識や人権に関する運動に参加する。こうした活動は、世界各地でよく見られることである。

米国政府の援助プログラム

ダルフールにある国際非営利団体「アクション・コントレ・ラ・ファイム」の運営する栄養センターに保護され ている母子。UNICEF は、栄養失調の子どもを助ける、ダルフールの食料援助プログラムを支援している@ UNICEF/HQ06-0575/Shehzad Noorani

米国の対外援助と聞いて大多数の人がまず連想するのは、米国国際開発庁(USAID)である。1961年に設立されたUSAIDは、米国政府の中で最も多様な活動を行う最大の対外援助機関である。これまでに、新種のコメや小麦、その他の穀物を開発・配布して大勢の人々に食糧を供給した「緑の革命」や、予防接種プログラム、母体の健康管理、識字教育、下痢治療のための経口補水塩療法の開発、マイクロファイナンスなど、数多くの活動で最前線に立ってきた。今日では、世界中の国々で幅広い開発活動を行っている。

USAIDは米国の対外援助の中心であるが、国務省、財務省、農務省、国防総省、保健福祉省、疾病対策予防センター、平和部隊、ミレニアム・チャレンジ公社(MCC)、アフリカ開発基金、米州基金、その他の組織のプログラムとも協力している。これらの2国間の活動に加えて、米国は、世界銀行、国際連合、アフリカ開発銀行、アジア開発銀行、米州開発銀行、世界エイズ・結核・マラリア対策基金などの極めて重要な国際機関に対する最大の、あるいは最大級の資金拠出国となっている。

USAIDの開発プログラム以外の米国政府による対外援助イニシアチブの一例として、特に人道援助、債務救済、平和部隊、MCC、大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)という5つのプログラムが重要である。

人道援助

米国人は、他国が緊急事態や人道的危機に対応する際に、これを全力で支援する。世界の大多数の人々と同じく、米国人は、助けを必要とする人々には支援を行うべきだと深く信じている。米国は、1997年にハリケーン・ミッチにより深刻な被害を受けた中米に最初に支援を差し向けた国のひとつだった。この時の支援は、主に米国災害援助事務所(OFDA)を通じて行った。また、2004年12月にインドネシア、タイ、スリランカ、その他の国々に津波が押し寄せた際、米軍は食糧や緊急援助物資を供給するため、直ちに現地に向かった。実際に、地震や洪水、飢饉(ききん)が起きた場合や難民危機が発生した場合には、いつでも、どこへでも、米国政府や民間組織、そして宗教系組織が出向き、国際的な支援の最前線で活動するのが常である。

債務救済

1990年代後半から米国財務省は、経済的な足かせになることが多い債務から最貧国を救済しようという世界的な動きを支援・主導してきた。米国と、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、その他の国際機関の利害関係者が、1997年に重債務貧困国(HIPC)イニシアチブに同意したことが突破口になった。HIPCイニシアチブは多額の債務救済を求めたが、少なくとも当初は、債務の全額免除を求めたわけではなかった。こうした状況は、2000年初めに米国が世界で初めて、このイニシアチブの下で認められている低所得国の対米債務の返済を全額免除すると発表したことによって変わり始めた。

平和部隊

おそらく、米国の援助プログラムで最も特徴的なものは、平和部隊であろう。大多数の米国人は、勤勉に働き、物事に本気で取り組み、他人を助けるために協力する人物を理想としているが、平和部隊はこれらすべての価値観を体現したものである。過去45年間に、18万7000人以上の米国人が、平和部隊のボランティアとして139カ国で奉仕活動に参加し、この理想の人物像のような生活を送った。ボランティアは地元の学校で教えたり、HIVに対する社会の認識を高める運動を助けたり、農業の普及活動を支援したり、小規模事業を起業した人物にビジネスに関する助言を行うなど、数え切れないほど多くの活動を助けている。世界中の多数の人にとって最初に米国人と知り合う機会となるのが、地元にいる平和部隊のボランティアと出会うときである。そして重要なことに、平和部隊のボランティアは、世界中の人々を正しく評価する目を養い、彼らに対する理解を深めて米国に帰り、自分たちの経験を率先してほかの米国人と共有している。

MCC

米国政府による対外援助のうち、最も新しいプログラムのひとつがミレニアム・チャレンジ・アカウント(MCA)である。2004年に設立されたMCAは、新しい組織のMCCを通じて運営され、ほかの大多数の援助プログラムとは異なる機能を果たす。MCAは、貧困と戦い、開発を加速させるための効果的な政策に真摯(しんし)に取り組む、統治水準の高い国々を支援してこそ、政府の援助は最大の効果を発揮する、という考えに基づいている。よってMCCは、汚職との戦い、保健と教育への投資、賢明な経済政策の策定を通じて、優れた統治の実現に熱心に取り組んできた実績があるかどうかに基づき、被援助国を選定する。一度被援助国が決まれば、MCCはこれらの国に主導権を持たせる。最優先事項を特定し、自分たちの必要性に合ったプログラムを計画・実施する柔軟性と責任を与えるのである。これまでのところ、多くの国々が、道路網などのインフラ整備プロジェクト、農業、地方開発に焦点を当ててきた。プログラムはそれぞれ、経済活動を刺激し、新しい投資を誘致し、雇用を創出し、それによって経済発展を加速させ貧困を削減するようにつくられている。MCCは、これまでに25カ国を主要プログラムの対象適格国と認定し、さらに14カ国と契約を結んだ。また、MCCの適格基準に達していないが、基準達成に近いその他の15カ国に「敷居国」プログラムを行うことで合意した。

PEPFAR

写真 PEPFAR

この数年間で米国は、世界中でのHIV・エイズとの戦いにおけるリーダーとなったが、その主な要因は、PEPFARの設立と、世界エイズ・結核・マラリア対策基金への資金供与である。2003年に設立されたPEPFARは、主にサハラ以南のアフリカ15カ国に多大な援助を行い、ほかの数十カ国でも別のプログラムを行っている。最初の4年間にPEPFARのプログラムは、抗レトロウイルス療法で110万人以上の人々の延命に成功した。母子感染の予防で10万人以上の幼児のHIV感染を防ぎ、400万人以上のエイズ患者の治療を行った。また、予防活動への資金供与やカウンセリングとHIV検査への支援も行った。こうした予防活動からは6000万人程度が恩恵を受け、カウンセリングと検査の実施回数は1800万回以上に上った。これらの2国間プログラムと並行して、米国は、結核やマラリア対策を実施し、世界中のHIVプログラムに世界第2位の資金供与を行っている世界エイズ・結核・マラリア対策基金の財源の約30%を負担している。不幸なことにHIV・エイズの感染は拡大を続けているが、この数年間、米国はこの病気との戦いの先頭に立っている。

民間部門の参加

以上のような米国政府の貢献に加えて、米国には、慈善団体や宗教系組織、そして個人が世界中の組織に支援と援助を提供してきた長い歴史がある。多くの米国人にとって、民間の組織、財団、教会を通じての援助が最も抵抗感がない。カトリック救済サービス、ワールド・ビジョン、CARE、米国赤十字社、セーブ・ザ・チルドレン、オックスファム・アメリカ、そして同様の多くの組織が、数十年間、世界中で開発活動を支援してきた。ほんの一例を紹介すると、国際ロータリーは米国および世界中の会員の支援を受けて、ポリオ撲滅運動の先頭に立ってきた。

ジンバブエでCARE が提供する食事を列をなして待つ子供たち。CARE は、短期的な措置として食糧を配給するとともに、長期的な食糧安全保障のために種子、農具、訓練も提供する(写真 Jesse Moore/CARE)

この10年間には、いくつかの新しい画期的な民間財団が大きな貢献をした。米国の財団は、長年にわたり貧困問題と取り組んできた。1950年代と60年代には、フォード財団とロックフェラー財団が世界有数の援助団体であった。この2つの財団は、今日も支援活動を続けている。しかし、近年いくつかの新しい財団が生まれた。中でも規模の点でほかを大きく引き離しているのがビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団で、毎年15億ドル以上を拠出している。これは、世界中の援助国が提供する対外援助の合計金額を超えている。

ほかの新しい財団には、ウィリアム・アンド・フローラ・ヒューレット財団、オミダイア・ネットワーク、Google.org、ナイキ財団、マラリア・ノー・モアなどがある。これらの組織は、最も切迫した開発課題を解決するためすでに活動している組織や政府に対して、それぞれの起業家精神や技術的ノウハウを提供し、熱心に協力している。

事実に直面して

食糧、車椅子、医薬品を寄付するためにコートジボワールにあるリベリア人の児童養護施設を訪れた、ボクシ ングの元ヘビー級チャンピオン、モハメド・アリを歓迎する子どもたち (© AP Images/David Guttenfelder)

もちろん、米国の対外援助プログラムがまったく批判を受けないわけではない。多くの評論家が、米国は単独の国としては最大の援助国であると認める一方で、歳入総額に占める援助の割合で見ると、民間や慈善事業による寄付金を含めても、米国の対外援助は他国に及ばないと認めている。また米国政府のプログラムは、官僚主義的な遅れや高い運営費という欠点を持つ。これらの課題は、米国内で広く取り組まれるようになっており、いくつか重要な変更がなされた。例えば、米国政府の直接対外援助は、1997年以来150%以上増加している。お役所仕事から生じるコストを減らすための取り組みが、特にMCCを通じてすでになされており、その他の改革も進行中である。

今日、多くの米国人は、最貧国において貧困と取り組み、風土病と戦い、開発を加速させることが急務であると再認識している。米国人は、貧困や病気と戦い、すべての人にとってより開かれ繁栄した世界をつくることを願って、政府、民間財団、宗教系組織を通じて、あるいは個人のボランティアとして、さまざまなレベルでこれらの課題に取り組んでいる。

※ 本稿は、eJournal USA 2007年11月号に掲載の"The U.S. Foreign Assistance Spectrum"の仮訳です。原文はこちらのウェブサイトでご覧になれます。