早川達夫 アメリカ大使館 広報・文化交流部

バーベキューが結婚の決め手?!

今回紹介するのは、現在アメリカ大使館政治部で働くマーガレット・シャンさんと、夫のトッドさんご夫妻。前回お話を伺ったバレットさんから、「バーベキュー好きな夫婦がいるよ」という事でご紹介いただいたお二人です。「バーベキューのことなら何でも聞いて。だって、私たちはバーベキューが結婚の決め手だったんだから」と、マーガレットさん。バーベキューが結婚の決め手? その話もっと聞かせて下さい!と突っ込むと、「3度目のデートの時にトッドがバーベキューを振る舞ってくれたの。凄く美味しくて感動。それからトッドは私の友人たちをバーベキューパーティーに招待してくれたの。その美味しさもそうだけど、もてなしがとても上手で、友人たちからの評判も上々。『この人しかいない!』と思ったわ」

牛のリブを味わう息子のフィンちゃん。生後19カ月(写真提供:マーガレット・シャン)

牛のリブを味わう息子のフィンちゃん。生後19カ月(写真提供:マーガレット・シャン)

美味しいバーベキューを求めて全米ツアー

「バーベキューによって結ばれた」と言っても過言ではないお二人は、美味しいバーベキューを求めてアメリカ各地を旅した経験もあるそうです。アメリカには地域によって、さまざまなスタイルのバーベキューがあります。前回紹介したテキサス州は、牛肉を使った「ブリスケ」に代表されるテキサス・バーベキュー。大西洋沿岸のサウスカロライナ州やノースカロライナ州では、豚1頭を長時間薫製する(丸焼きとは違う)”Whole Hog”スタイルのバーベキューが伝統的。南部のテネシー州メンフィスでは豚のスペアリブがポピュラーで、スパイスを擦り込んだバーベキューは「ドライスパイス派」と呼ばれます。一方、南部の人たちが中西部へ移り住んでバーベキューの新たな歴史を築いたと言われるカンザスシティーには、豚のスペアリブに欠かせないソースが鍵となる「ウェットソース派」があります。人の移動がさらに加速する今日では、各地でバーベキューがさまざまな進化を遂げています。そんな中、マーガレットさんとトッドさんが各地を巡った結果、一番惚れ込んだという「メンフィス・バーベキュー」について詳しく紹介していきたいと思います。

あなたはドライ派?ウェット派?!

「私は断然ドライ派だわ」とマーガレットさん。メンフィス・バーベキューの主役は何と言っても肉そのもの。そしてその美味しさを引き出すのは、スパイスとスモークです。メンフィス・バーベキューでは、”rub”と呼ばれるスパイスミックスを擦り込むことで肉の美味しさを最大限に引き出します。ここでトッドさんに禁断の(?)質問。彼が作るドライスパイスの調合を尋ねたところ、「塩コショウ、ガーリックパウダーにオニオンパウダー。んんん、でも詳しい事は秘密」と、それまで饒舌だった彼が急に口を閉ざしてしまいました(やっぱり)。

スパイスとスモークが決め手のメンフィス・バーベキュー (Shutterstock)

スパイスとスモークが決め手のメンフィス・バーベキュー (Shutterstock)

メンフィス・バーベキュー

豆夢が紹介するアメリカが誇る料理、バーベキュー」でも紹介した通り、この地域は森が多く、森に放てば勝手に育つ豚の飼育が低コストかつ簡単だったことから、豚肉を使ったバーベキューが主流となりました。そして、スペアリブのように堅い肉を柔らかく、そして美味しく調理するための知恵の結集が、メンフィス・バーベキューを生んだのです。今ではアメリカを代表する料理に発展したメンフィス・バーベキュー。以前は”Joints"(ジョインツ)と呼ばれていた小さなレストランから発展して、今では全米でチェーン展開するまでになったお店もあります。ジョージ・W・ブッシュ大統領は2006年、訪米中の小泉純一郎首相をメンフィス・バーベキュー・レストランでもてなしました。

メンフィス・バーベキューのレストラン (Shutterstock)

メンフィス・バーベキューのレストラン (Shutterstock)

人と人をつなぐバーベキュー

結婚以来、さらにバーベキューの研究を重ねて腕前を上げたトッドさん。美味しいバーベキューを求めて全米各地を回ったという2人ですが、「今まで食べた中で、トッドのバーベキューが一番よ!」と、マーガレットさんは断言します。以前赴任していたカンボジアでは、財政界の関係者を招いて、トッドさんがバーベキューを振る舞ったこともあるそうです。あまりの美味しさに出席者が打ち解けて、とても和やかな会になったとマーガレットさんは話します。人と人をつなぐバーベキュー――美味しい料理の楽しみ方に国境はないのかもしれませんね。

マーガレットさん、トッドさんご夫妻の話を伺いながら、「自分のお気に入りのアメリカン・バーベキューを見つける楽しさ」があることを感じました。次回は赴任先のカリフォルニアで「サンタ・マリア・バーベキュー」に出会い、その美味しさに衝撃を受けたという在福岡アメリカ領事館で首席領事を務めるジョン・テイラーさんのお話を紹介します。

バナーイメージ:「全米バーベキューツアー」でテキサスに立ち寄ったマーガレットとトッド。伝説的なバーベキューレストラン「The Salt Lick」にて(写真提供:マーガレット・シャン)

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シリーズ第1回   アメリカ人外交官とバーベキュー:バレットさんのテキサス・バーベキュー「ブリスケ」編

Tatsuo Hayakawa早川達夫 アメリカ大使館 広報・文化交流部 ― 日米の文化交流事業を担当。2015年にアメリカン・バーベキューを紹介する企画を担当し、自身がアメリカン・バーベキューの奥深さにハマる。現在はアメリカ大使館のバーベキュー好きが集まる”Fleischfest”のメンバーの一員として、バーベキュー見習中。