この新たに映像化されたブラックホールから、その重力が私たちの視界やブラックホールの周りにあるものを歪めていることが明らかになりました。遊園地に行くと体が歪んで見える鏡がありますが、それによく似ています。この映像は、ブラックホールの姿をシミュレーションしたもので、ブラックホールに落下していく物質が形成する「降着円盤」と呼ばれる薄い高温の構造物を示しています。ブラックホールは非常に強力な重力を持つため、円盤の異なる領域から放出された光は捻じ曲げられ、いびつな形を作り出すのです。

渦巻き状のガスの中で磁場が歪む中、明るい光の「こぶ」のような形をした部分が、絶え間なく形成され、円盤の中で消えていきます。ブラックホールに最も近い場所では、ガスは光とほぼ同じ速度で周回しますが、外側の部分は回転速度が若干遅くなります。この違いが「こぶ」を変形させ、円盤の筋の明るさに濃淡を生み出します。

円盤は横から見ると、右側より左側のほうが明るく見えます。左側の赤々と燃えるガスは、私たちの方に向かって高速で動いているので、アインシュタインの相対性理論により明るさが増すのです。一方、右側では反対の現象が起こります。ガスは私たちから離れていくので、少し暗く見えます。この明るさの対照的な違いは、円盤を真上から見ると消えてなくなります。真上からの視点では、私たちの視線方向に動く物質が存在しないからです。

ブラックホールの構造。クリックで拡大(画像提供:NASAゴダード宇宙飛行センター/ジェレミー・シュニットマン)

ブラックホールの構造。クリックで拡大(画像提供:NASAゴダード宇宙飛行センター/ジェレミー・シュニットマン)

ブラックホールに一番近い場所では、重力による光の歪曲度が大きくなるため、円盤の下側にブラックホールの輪郭をかたどっているように見える明るい光のリングを見ることができます。いわゆる「光子リング」と呼ばれるもので、私たちの目に届く前にブラックホールを幾度も周回する光が構成する複数のリングから成ります。リングは内側に向かって次第に細く、そして放つ光は弱くなります。この映像化されたブラックホールは球体のため、光子リングはどの角度から見てもほぼ円形で同じ形に見えます。光子リングの中にあるのが、ブラックホールの「影」です。この影は、ブラックホールの「事象の地平面」(いわゆる「引き返し不可能地点」)のおよそ2倍の領域を持ちます。

このブラックホールの映像を制作したジェレミー・シュニットマンさんは、「これらのシミュレーションや動画により、アインシュタインが言った『重力は空間と時間の構造を捻じ曲げる』の意味が想像しやすくなります」と説明します。映像は、メリーランド州グリーンベルトにある米航空宇宙局 (NASA) ゴダード宇宙飛行センターで特別なソフトを使って制作されました。「つい最近まで、このような映像化は私たちの想像の中やコンピュータープログラム上だけに限られていました。本物のブラックホールを見ることができるなんて考えたこともありませんでした」。しかし4月10日、「イベント・ホライズン・テレスコープ」チームが、楕円銀河「M87」の中心部を電波観測し、人類史上初めて撮影に成功したブラックホールの影をとらえた写真を公開しました。

バナーイメージ:横から見ると、ブラックホールの周辺を「かき混ぜる」ように活発に動くガスの円盤には、2つの「こぶ」があり、不思議な形を作っている。ブラックホールの強力な重力は、円盤の異なる領域から放出される光の経路を変えて捻じ曲げる。(画像提供:NASAゴダード宇宙飛行センター/ジェレミー・シュニットマン)