スティーブ・クリスティ

スティーブ・クリスティ

私は、いわゆる「取り残された親(LBP)」です。ただし、なりたくてなったわけではありませんし、その呼び名も好きではありません。私は「取り残された」とは思っていません! 私はここにいます! これまでずっとここにおり、子供を思うどの親にも劣らず自分の子供を愛していました。しかし、ある日、私の日本人の妻が息子を連れ去り、息子の姿が私の人生から消えて、すべてが終わったのです。「ご家族はどうしていますか? 息子さんは元気?」こんな質問に子供の居場所さえ知らない人間がどう答えたらいいのでしょう? 自分が置かれた新しい状況を理解しようともがき、日本の警察や裁判所に適切な措置を取ってもらおうと悪戦苦闘しましたが、無駄でした。当時は「こんな状況に置かれている人間は世界中で自分1人だけだ」と思い込んでいました。

そう思い込んでいたのですが、2~3カ月が過ぎたある日、東京で発行されている雑誌で、マーリー・ウッド氏の事例に関する記事を読みました。ウッド氏の2人の子供は、カナダの裁判所の命令に反して、日本人の母親によりカナダから連れ出され、日本に留め置かれているという内容でした。記事には、その前の月にカナダ大使館で、子供を元の居住国へ速やかに返還することを義務付ける「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」への加盟を日本が拒んでいることに関するシンポジウムが開かれた、と書かれていました。日本はこの条約について過去30年もの間「検討」しています。これ以上何を検討することがあるのでしょうか? この記事を書いたライターに連絡を取って、子供を日本へ、または日本国内で連れ去られたことにより、同じように困難な状況に置かれているほかの親たちと知り合うことができました。実際にこの問題は、「From the Shadows」というドキュメンタリー映画が作られるほど広がっています。映画制作者と連絡を取ったことで、私は、この問題が日本社会においていかにまん延しているかを知ることとなりました。これは、単なる日本人と外国人の間の問題ではありません。日本の現行の家族法体系の下で親権を失った日本国民で構成される、さまざまな日本人の団体を訪ねて、日本社会において、これが思ったよりもずっと大きな国内問題であることが分かったのです。

私がこのことに初めて気付いたのは、映画制作者とともに名古屋で行われた「ファーザーズウェブサイト」(www.fatherswebsite.com)の会合に出席した時のことでした。私をはじめとする外国人が苦しんでいるものと同じような不必要な喪失感に、どれほど多くの日本人の親がさいなまれているかを知り、大きな衝撃を受けました。愛する子供たちとのすべての接触を絶たれていることによる喪失感です。神戸からやってきた教授が、子供に及ぼす悪影響について発表しました。それから私は、日本も加盟している「国連子供の権利条約(UNCRC)」が義務付けている、いずれの親とも有意義な関係を持つ権利を奪われた子供が生涯受け続ける「片親引き離し症候群」の悪影響について調べ始めました。さらに「Victims of Another War」というドキュメンタリーのことも知りました。このドキュメンタリーは、子供の時に一方の親から連れ去られた3人の成人のケース・スタディーを紹介するもので、それぞれが成人した後もひきずっている苦悩と痛みが彼ら自身の言葉によって語られています。

東京に戻ると、日本で変化を求めて闘うために結成された、関東を拠点とするさまざまな親の会に紹介されるようになりました。国内の日本人の団体と国際的な外国人団体が連携を始め、旧態依然として実情に合わなくなった家族法体系を刷新するよう国会に圧力をかけ始めています。

外国人団体の中では長老格ともいうべきなのがチルドレンズ・ライツ・カウンシル・オブ・ジャパン(www.crcjapan.com)です。米国の子供の権利団体であるチルドレンズ・ライツ・カウンシルの海外支部第1号である日本支部は、デービッド・ブライアン・トーマス氏が創設しました。トーマス氏は息子が2歳の時以来、彼に会っていません。2008年のクリスマスに行われたインタビューで、妻の家族が接触を全面的に拒んでいるため息子とは15年以上会っていないと語っています。この団体の活動が最も盛んなのは米国で、ワシントンDCの日本大使館でろうそくを灯して祈りの会を催しています。

もうひとつのグループは、チルドレンズ・ライツ・カウンシル・オブ・ジャパンから派生したチルドレンズ・ライツ・ネットワーク・ジャパン(www.crnjapan.net)で、子供、親、法律書類、国際刑事警察機構の令状のほか、取り残された親から子供へのメッセージなどの膨大な資料を保存しています。「マーク・スミス」が運営するこのウェブサイトは、この種の問題に関する学術論文によく引用されています。(古い文書ではチルドレンズ・ライツ・ネットワーク・ジャパンのウェブサイトはwww.crcjapan.comとなっていますが、このドメインは、チルドレンズ・リソース・ネットワークに継がれています。その起源は不明)

日本人の団体は、最近誕生するものと閉鎖されるものがめまぐるしく入れ替わっています。ファーザーズウェブサイトは、名古屋を拠点として数年間活動していますが、この問題に関する日本語の書籍や情報、そして子供向けや大人向けの本についての優れた情報源です。もうひとつは関西と関東に支部を持つ親子ネットです。関西支部は非常に活発に活動しており、関東地方の催しにもしばしば参加しています。親子ネットは地元の政治家と協力して、家族法を変えるよう日本政府に求める解決策を実施するなど、活発に活動しています。さらに、東京では国会議員とともに、共同親権法の制定に向けてロビー活動を盛んに行っています。これに関しては、親子ネット関東支部が非常に活発な活動を展開しています。

他にも親子ネット関東支部から分かれた、Kネットとも呼ばれる共同親権運動ネットワークがあります。このグループは、東京家庭裁判所前で法廷に出入りする人たちにチラシを配布するなどの宣伝活動を盛んに行っています。さらに数少ない機会をとらえ、裁判所の代表者と実際に会って、自分たちの窮状を知ってもらおうとしています。

スティーブ・クリスティ氏

スティーブ・クリスティ氏

これ以外にも多くの団体がありますが、そのほとんどがすでに言及したサイトとリンクされています。また、こうした団体に属するメンバーの多くが個人のサイトを持っており、各団体のサイトからアクセスすることができます。最も印象的だったのは、これらのグループに属する非常に多くの人たちが、どちらの親とも有意義な関係を持つ子供の権利といわゆる「取り残された親」の親権を尊重する新しい家族法が、日本で成立することを望んでいることでした。つまるところ、こうした親たちは今でもここにいて、連れ去られた子供と再会できる日をただひたすら待ち続けているのです。早く変化が訪れ、子供とその親たち受けたトラウマが速やかに消える日が来ることを期待しましょう。


 スティーブ・クリスティ氏は、2005年10月に15歳の息子を連れ去られた米国の民間人です。American Viewは、クリスティ氏がこの記事で、彼の個人的な経験、考え方、見識を進んで聞かせてくれたことに感謝します。今年のクリスマス、クリスティ氏は特別な贈り物を受け取りました。それは、この4年間クリスマスにも誕生日にもかなわなかった息子と過ごすひと時でした。