新型コロナウイルスの蔓延にもかかわらず、アメリカは今年国政選挙を実施します。

選挙実施に多少の困難を伴うものの、大統領選挙と連邦議会議員選挙は(一部の州や地方自治体の投票と共に)、予定通り11月3日に実施されると専門家は言います。アメリカ合衆国憲法は、連邦議員と大統領の任期がそれぞれ、1月3日と1月20日に終了すると規定しています。

連邦選挙手続きを監督する連邦選挙管理委員会を訪れる海外からの代表団は、アメリカのシステムがいかに分権化されているかに驚きます。州や郡は、投票を整理し結果を報告する役割を担います。このシステムは、たとえウイルスの脅威から有権者を守るという理由でも、選挙手続きに大幅な変更を加えるのを困難にしています。シンクタンク・ヘリテージ財団のハンス・フォン・スパコフスキー氏によると、連邦政府の在職者が権力の維持を目的に選挙規則を変更できないよう、アメリカ建国の父たちが設計したそうです。

「選挙まで時間はありますし、これまでとは違った形になるでしょうが、参政権を持つ有権者の正当な投票で当選者が決まる選挙が実施されることに変わりありません」。オハイオ州立大学で選挙法を教えるエドワード・B・フォーリー教授はこう述べています。「このような状況でさえ、我々は民主政治を維持します。それはこの国のアイデンティティのようなものです」

予備選挙の予定変更

アメリカ大統領選挙戦は3段階から構成されますが、新型コロナウイルスは、第1段階の最中に発生しました。この段階では、主要政党が州の予備選挙や党員集会で候補者を選びます。すでに半数以上の州と準州が、予備選挙や党員集会を開催しました。残りの州は、有権者が安全な状態で投票所に行けるよう、予備選挙を春まで先延ばししました。

3月13日、クリーブランドで期日前投票をする有権者 (© Tony Dejak/AP Images)

3月13日、クリーブランドで期日前投票をする有権者 (© Tony Dejak/AP Images)

「感染による死者数は悲惨な状況ですが、アメリカにはコミュニティとしてこれを乗り切る力があります」と、フォーリー氏は言います。「民主政治が全滅することはありません」

党大会は柔軟に

アメリカの選挙シーズンの第2段階は夏に始まります。州と準州が主要政党の党大会に代議員を送り込み、正式に候補者を選出します。

党大会は、候補者が支持者と会い、資金を集め、テレビ中継で世間の注目を集めるチャンスです。しかし、何千人もの人々が会場で密集する党大会の開催は、今年の夏は無理かもしれません。

フォーリー氏によると、政党には法的に、党大会以外の方法で候補者を選ぶ権限があります。つまり候補者指名は、必ずしも党大会を経る必要はないのです。各政党は、実際に集まることなく、正式に候補者を指名する手続きを決めることができるのです。

今月初め民主党は、さらに時間をかけて計画を組むため、ウィスコンシン州ミルウォーキーで7月13日の週に予定されていた党大会を、8月17日の週に変更しました。

「コロナウイルス対応という前例のない困難を乗り越えながら、公衆衛生に不要なリスクを与えずに党大会を成功させるため、不測の事態に備えた選択肢を幅広く模索しています」。党大会の延期発表前に、民主党全国大会委員会のケイティ・ピータース広報担当は述べました。

共和党は8月24日からノースカロライナ州シャーロットで会合を予定しています。「COVID-19の蔓延を踏まえ、出席者全員の安全と健康を確保する追加措置を講じ、引き続き連邦、州、地元の保健専門家と協議しながら計画を立てていきます」と、2020年共和党全国大会のテイタム・ギブソン報道官は述べています。

投票者に必要な社会的距離

選挙戦最終段階である11月3日の投票日までまだ7カ月ありますが、新型コロナウイルスがそれまでに収束していない場合に備え、各州は手続きを変更し始めています。

選挙関係者は投票所の数を減らし、感染リスクが高い高齢の投票ボランティアを大学生や若く健康状態に問題のない政府職員、弁護士、法務事務員に変更する準備をしていると、全米州選挙管理者協会を率いるポール・D・ペイト氏は述べています。選挙関係者は、有権者の距離がお互いに近くならないような方法を考案するでしょう。

郵送投票をもっと利用するよう検討している州もあります。

3月10日、ワシントン州大統領予備選挙の投票用紙を扱うレントンの選挙事務員 (© Ted S. Warren/AP Images)

3月10日、大統領予備選挙の投票用紙を扱うワシントン州レントンの選挙事務員 (© Ted S. Warren/AP Images)

ほとんどの投票州では、病気や出張などの正当な理由がある場合に限り、郵送による投票(不在者投票とも呼ばれる)が行われています。しかし、州議会の中には、郵送投票を広く活用する法律を可決するところもあります。選挙関係者は、何百万枚もの封筒を含め必要な備品を購入しています。

オレゴン州では2000年11月以来、郵送投票に大きく頼っています。

郵送投票が普及すれば、これまで投票所が閉まってから即日開票で数時間以内に判明していた結果は得られなくなるでしょう。「通常の投票用紙に比べ、不在者投票の処理ははるかに時間がかかります」と、フォン・スパコフスキー氏は言います。

これについて、アイオワ州務長官と全米州務長官協会を務めるペイト氏は自信を見せます。選挙関係者は、これまで常にハリケーンや竜巻、地震に対処してこなければならなかったとペイト氏は言います。「従来とは少し異なるやり方になるかもしれませんが、有権者の声は必ず届き、投じた1票は必ず生かされます」。ペイト氏はアメリカの有権者にこう述べています。

バナーイメージ:3月3日、メイン州メカニック・フォールズで行われた大統領予備選挙の投票ブースを出る有権者 (© Robert F. Bukaty/AP Images)