レノア・アドキンス

アメリカ合衆国が建国される100年以上前の1654年、ブラジルからのセファルディ系(スペイン・ポルトガル系)ユダヤ人難民23人を乗せた船が、当時のニューアムステルダム(現在のニューヨーク)に向けて出航しました。

このグループは、スペインの異端審問で追放されたユダヤ人の子孫で、ブラジルにまで到達したポルトガルの異端審問から逃れるための出航でした。このユダヤ人難民は、最も近いオランダの植民地、ニューアムステルダムに定住しました。これが、北米におけるユダヤ人コミュニティーの最初の事例です。しかし、この共同体は、主に異なる人種間の結婚により、より広い範囲の人々に溶け込んでいきます。

フォーダム大学でアメリカ史とユダヤ史を教えるダニエル・ソイヤーは次のように述べています。「このグループは、到着するまではユダヤ人の共同体ではなかった。そして彼らも分散してしまったので、世紀の変わり目、1700年頃までは本当の意味でのコミュニティーは存在しなかった」

1910年頃、マンハッタンのローワーイーストサイドの路上でユダヤ教の新年ローシュ・ハッシャーナーを祝う人々 (George Grantham Bain Collection/Library of Congress)

1910年頃、マンハッタンのローワーイーストサイドの路上でユダヤ教の新年ローシュ・ハッシャーナーを祝う人々 (George Grantham Bain Collection/Library of Congress)

その後、移民の波が押し寄せ、多様なユダヤ人グループが米国にやって来ました。

ピュー・リサーチ・センターの2020年の報告によると、アメリカに住むユダヤ人の数は750万人と推定されています。その多くは、中・東欧を祖先に持つアシュケナージ系ユダヤ人と、1490年代にスペインやポルトガルから追放されたユダヤ人の子孫、セファルディ系ユダヤ人です。

その他にも、イラン系、アジア系、ラテン系、黒人など、さまざまな人種や民族のユダヤ人がいます。

「特にここ数十年の間に、改宗、異人種間の結婚、養子縁組が増え、自身を白人と認識しない人が多くいますが、それでもユダヤ人コミュニティーの一員になのです」とソイヤーは言います。

ソイヤーによると、ユダヤ系アメリカ人の多くは、1870年から1924年にかけて渡ってきた東欧系ユダヤ人の子孫です。その中には、旧ロシア帝国出身のユダヤ人も含まれていました。ロシアの多くの地域から締め出され、現在のウクライナ、ベラルーシ、リトアニア、ラトビア、モルドバ、ポーランドの大部分を含むロシア支配の「入植地」で暮らすよう制限する法律から逃れてきた人々です。

これまでのような規模ではないものの、ナチス・ドイツから逃れるため、1930年代にも移民の流入が続きました。その中には、物理学者のアルベルト・アインシュタイン、作曲家のアーノルド・シェーンベルク、学者のハンナ・アーレントなど、一流の科学者、芸術家、創造的な思想家たちがいました。

フロリダ州マイアミビーチのメモリアル・ウォールで、ホロコーストで亡くなった両親と妹のために祈るアーノルド・マイヤー (© Alan Diaz/AP Images)

フロリダ州マイアミビーチのメモリアル・ウォールで、ホロコーストで亡くなった両親と妹のために祈るアーノルド・マイヤー (© Alan Diaz/AP Images)

第2次世界大戦後には、ホロコーストの生存者による移民の波が続きます。ただ、その規模はまだ小さなものでした。移民の中には、イディッシュ語を話す人や、ギリシャやバルカン半島から来た人もいました。

その後、ソビエト連邦からのユダヤ人移民の波が2度ありました。最初は、1970年代に政府が家族再会のため一部のユダヤ人の出国を認めた時です。2度目は、1990年代にソビエト連邦が解体し、多くのロシア語を話すユダヤ人が初めて自由に宗教を実践するため移住した時です。また、1979年のイラン革命後、多くのイラン系ユダヤ人がロサンゼルスに移住しました。ニューヨーク市のクイーンズ区には、ブハーリー系ユダヤ人の活気あるコミュニティーがあります。

2018年、ニューヨーク市ブルックリン区の路上で立ち話をする3人のハシディック系ユダヤ人 (Library of Congress/Carol M. Highsmith)

2018年、ニューヨーク市ブルックリン区の路上で立ち話をする3人のハシディック系ユダヤ人 (Library of Congress/Carol M. Highsmith)

ニューヨークにユダヤ人移民が昔から集まってきたのは、ユダヤ人コミュニティーが確立されていることと、経済的な機会によります。1900年のニューヨークには、世界最大のユダヤ人コミュニティーがありました。「ニューヨークには、エルサレムとテルアビブを合わせたよりも多くのユダヤ人がいる」とソイヤーは言います。そして、ユダヤ人はアメリカ全土に住んでいます。

「ユダヤ人は何世代にもわたり、抑圧、差別、迫害から逃れ、自身と子どもたちのよりよい生活を求めてこの国にやってきました」。5月の「ユダヤ系アメリカ人遺産月間」に関する声明で、バイデン大統領はこう述べました。

「そのユダヤ系アメリカ人は、自身と家族のために人生を切り開き、市民生活や地域社会で不可欠な役割を果たし、リーダーシップと功績によって我が国に計り知れない貢献をしてきたのです」

* この記事は、2021年5月17日に公開したものの改訂版です。