ヘンリエッタ・フォア


ヘンリエッタ・フォア
米国国際開発庁(USAID)長官。USAID民間企業担当副長官、アジア担当副長官、米国財務省造幣局局長を経て、2007年11月より現職。
ヘンリエッタ・フォアは、2007年11月14日に、米国国際開発庁(USAID)初の女性長官として上院の承認を受けた。ライス国務長官 の任命により、国務副長官レベルに相当する国務省対外援助部長も兼任し、ミレニアム・チャレンジ公社、米国地球規模エイズ調整官事務局など、米国政府の諸 機関を通じて実施されるすべての対外援助プログラムで戦略面の指揮を執っている。American Viewは、4月のG8開発大臣会合出席のために訪日していたフォア長官に、同会合閉幕後インタビューを行った。

 昨年のハイリゲンダム・サミットで、ブッシュ大統領はほかのG8首脳と共に、さまざまな地球規模の問題に取り組む措置を講じまし た。その中には、民間部門を活用したり、さまざまな疾病に対処して、アフリカ諸国と協力し開発を促進するという約束が含まれます。民間部門はどのような形 で開発に関与するのでしょうか。

 民間部門は、最も重要な、新たな開発の担い手です。20年前に米国の対外援助の70~80%を占めていたのは政府開発援助で、民 間からの援助は20~30%でした。その後この数字は逆転し、今や米国民が提供する対外援助の大半は、途上国に関心を持ち、それに関与する民間企業、個 人、財団などの機関が担っています。

USAIDは「グローバル開発アライアンス(GDA)」を立ち上げ、多くの官民協力プログラムを実施しています。例えば、スターバックスと協力し て、高地でコーヒー豆を栽培する農家を支援してきました。高地では最高品質のコーヒー豆が育つので、このプログラムで、スターバックスはコーヒー豆市場へ のアクセスを拡大したいと考えています。一方、USAIDは、多くが1日1ドル未満で生活している現地の農民が、コーヒー豆の生産を拡大して生活を向上さ せることに力を入れています。こうした手法は、開発にとってもビジネスにとってもメリットがあるため、長期的に持続可能です。同様に、情報技術(IT)お よび通信の分野でも、シスコ、インテル、マイクロソフトの各社と一緒にプログラムを実施しています。これらの企業は、ITサービスの担い手となる新世代の 人々を教育しています。ITサービスは途上国の世界で成長市場であり、これらの会社のいずれかが認定する資格を持っていれば、企業に雇用されることが可能 であるほか、起業家として事業を立ち上げることもできます。

ほかには、コカ・コーラと協力して、世界中で浄水に関するプログラムを主導しています。コカ・コーラには優れた浄水技術があり、インドネシアでは 村落への水の供給を支援してきました。USAIDはコカ・コーラの活動を、衛生状態と手洗い習慣を向上させる活動に結び付けてきました。村落、地域社会、 そして国の生活向上に向け、水の問題を保健や衛生の問題と結び付けることは、途上国にとって重要なメッセージになります。

 長官は民間部門での経験が豊富ですが、民間部門で得た経験で政府の参考になるものが何かありますか。

 結果や効率性・実効性を重視すること、あるいは、ある問題について単に書いたり話したりするのではなく、行動を重視すること。こ うした点が政府に役立つと思います。政府の中でも優れたアイデアがたくさん生まれています。必要なのは、必ずすべての人の話に耳を傾けることです。そうす れば、政府の活動を向上させることができます。

 昨年のG8サミットでは、アフリカおよび開発に関するもうひとつの問題として、疾病との戦いも議題になりました。HIV・エイズ、マラリア、結核と戦う米国の活動を教えてください。

 米国の活動としては、大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)という、HIV・エイズの広がりを食い止めたプログラムがよく知 られています。PEPFARは集中的で効果的なプログラムで、過去数年間にわたり新たな感染を抑制する効果を上げてきました。このプログラムは政府の資金 だけに依存しているわけではなく、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団やその他の財団とも協力しています。ヨーロッパやアジア諸国が参加する世界基金もあ ります。

この活動に加え、マラリアとの戦いにも取り組んでいます。大統領マラリア・イニシアチブは2500万人以上を対象に活動を行っており、15カ国で マラリアによる死亡率を50%引き下げることを目標としています。このプログラムでは、家の害虫駆除を行うほか、感染の抑制方法について各家庭に多くの情 報を提供しています。さらに、蚊帳を支給して子どもの死亡率を引き下げています。15カ国すべてでマラリアの発生が減少しました。この活動も、多数の財団 や個人が関与している官民パートナーシップのひとつです。

同様に、結核に関するイニシアチブも並行して進行しています。HIV・エイズ感染者は以前より長生きするようになっているため、多くの場合ほかの 病気に感染しやすくなっています。結核は、私たちが重点的に取り組んでいる病気のひとつですが、それには2つ理由があります。ひとつはエイズの流行であ り、もうひとつは薬物耐性結核の発生率の上昇です。病気の治療法のひとつとして安易に抗生物質を使用すると、結核に対する抵抗力が弱まる場合があります。

ブッシュ大統領はアフリカ訪問時に、これまで放置されてきた、河川盲目症、鉤虫(こうちゅう)症、条虫症、その他の子どもにも成人にも影響を及ぼす熱帯病への取り組みも発表しました。先進国は、医療部門を通じて途上国の人々を大いに助けることができます。

 昨年のG8サミットでは、開発における優れた統治の重要性も強調されました。優れた統治を促進するために米国政府はどのような措置を取っていますか。

 米国は、対外援助の手法として、世界各地での開発に必要な大まかな活動分野を決めてその活動を奨励し、援助資金を国別に割り当て ます。平和と安全保障、公正で民主的な統治、経済成長、医療と教育を含む人的投資、そして人道支援。これらは私たちが対外援助を行う大まかな「バスケッ ト=活動分野」です。

公正で民主的な統治は、引き続き米国が力を入れている分野のひとつです。これには、候補者を公職に立候補させ、公正な選挙制度を奨励するだけでは なく、選挙が終わった後のことも含まれます。つまり、議員や大臣は統治を行う準備ができているか、どうすれば自国民を代表して自国の最大の利益を実現でき るかを彼らが検討するプロセスはどのようなものか、という点に注目します。

私たちは世界中でこのようなプログラムを多数実施しています。アフリカでは、過去数年間で3分の2以上の国が民主的な選挙を実施し、国民の要求に 最も良く応えると私たちが考える統治形態を実現すべく前進しています。ミレニアム・チャレンジ公社は、資金供与の可否を決める基準のひとつとして、優れた 統治を採用しています。USAIDは長年この問題に取り組んでおり、より安定した繁栄する自由世界をつくるためにはこれが欠かせないと考えています。

GDAの一環であるiMULAI 競技会で3位までに入賞した企業を発表する、USAID インドネシアとマイクロソフ ト・インドネシア(写真 USAID SENADA)

 開発分野には、援助国の政府、被援助国の政府、プログラムを実施するパートナー、国際機関、国際金融機関、請負業者、国際および 国内非政府機関(NGO)、そして当然のことながら、援助を受ける地域社会など、非常に多くの担い手がいます。地域社会は、利害が衝突するグループで構成 されていることもあります。こうした中でうまく調整を行い、活動の重複を避けるためにはどうすればよいでしょうか。

 開発分野にはいろいろなことが起こっており、刺激的で、人々は仕事に集中しています。急速に多様性が増し、より多くの解決策や発 想が生まれ、資金拠出額も増えています。開発は今とても刺激的な時期を迎えていますが、この世界のすべての関係者をひとつにまとめて、一度にひとつの問題 に集中させることは、とても難しいことです。援助国グループ全体が、何を第一に達成しなければならないかについて考えようとすることが常に重要です。その ための中心的な組織機関として、経済協力開発機構(OECD)と開発援助委員会(DAC)があります。最良の原則の指針として私たちの大半が使っているの は、「援助の有効性に関するパリ宣言」です。この宣言は、援助国が考えやアイデアをまとめることができるように、当事者意識、成果、説明責任、調和、協調 を奨励しています。4月5日と6日のG8開発大臣会合で行っていたのは、まさにこういうことです。つまり、差し迫った問題への対処の仕方や、今後数年のう ちに成果を得るために互いの活動をさらに拡充していくにはどうすればよいかについてアイデアを持ち寄っていました。

USAIDは、「グローバル・ディベロプメント・コモンズ(GDC)」という構想について議論し始めたところです。GDCは、バーチャルであると ともに実体的なものでもあり、先に挙げた開発の担い手がすべて対等の立場で集まり、情報を収集したり、ほかの実務者と意見を交換する場所になると期待して います。途上国の閣僚がやってきて、普遍的初等教育のような問題について調べることも可能ですし、ある国の市場に参入しようとしている企業や、他国の人々 に農産物を売りたいと考える農家も、GDCを利用することができます。将来的には、リアルタイムで情報交換し対応する方法、問題の解決方法、製品やサービ スの取引方法、世界中でアイデアを交換する方法が、私たちにとってさらに重要な資産になるでしょう。

被援助国の当事者意識が重要です。米国はこの考え方に基づいてすべての援助を行っています。被援助国、つまりその国の閣僚や指導者が開発を信じて いなければ、開発はうまくいきません。これは、地元の学校を支援する地域社会にも、マクロ経済改革を検討している政府にも当てはまります。なぜなら、経済 成長に対する当事者意識は、国が力を傾注できる最も重要な事柄のひとつだからです。

援助協調に関しては、米国は、世界各地での開発で日本と密接に協力しています。両国の関係は深く、開発を成し遂げるためにはどうすれば一番良いか を、日米が一緒に考えることがいかに重要かを明確に理解しています。先ごろ開催されたG8開発大臣会合で、日本は非常に強い指導力を発揮しました。日本は 援助国の考えや意見をまとめようとしており、非常に有能な指導者です。

 昨年のG8サミットの首脳声明は、アフリカに加えて、ダルフールでの人道支援やイラクとアフガニスタンの復興の必要性についても言及しています。援助関係者は、非常に困難で危険な治安環境で働いています。どうして、このような状況での活動が可能なのですか。

 私がUSAIDで働くのは今回が2回目です。民間での仕事からUSAIDに戻ったとき、NGOの人たちが私に話してくれたのです が、私がUSAIDから離れている間に、彼らは戦火の中での開発の仕方を学んだそうです。私たちは紛争状態にある、あるいは紛争が終わろうとしている多く の国で活動しています。これは困難な仕事ですが、多くの場合、効果を上げたと思います。最近は、イラクの地方復興チームと協力しています。彼らは、地方政 府と協力して、政府を国民にとってもっと身近なものとしたり、職業訓練を行ったり、すべての集団を地域の活動や統治に参加させたり、公共サービスを提供し ています。これはすべて極めて重要で効果的な活動です。なぜなら、こうしたことは国のレベルでは不可能であり、地方のレベルで行わなければならないからで す。

アフガニスタンには、米国、日本、カナダ、ドイツ、スウェーデン、その他の国が実施してきた軍民協力のモデルがあります。多くの国々が、紛争状態 にある社会での「掃討、維持、建設」プロセスで、いかに開発関係者と軍隊が助け合うことができるかを検討しています。アフガニスタンでは、学校に通う子ど もたちの数が着実に増加しています。タリバン政権下では、学校に通っている子どもは100万人しかいませんでしたが、今やその数は500万人に増えていま す。アフガニスタン人はこう言うでしょう。最も注目すべきことは、本を抱えて学校に通っている女子の数が大幅に増えたことだ、と。加えて、多数の道路建設 プロジェクトが行われてきました。これによって、今では、アフガニスタン国民の60%が診療所に行って医療サービスを受けられるようになっています。これ は社会を構成するすべての人々にとって重要です。私たちは多くのことを達成しようとしています。これは容易なことではありませんが、紛争地域では、復興と 安定化に向けた軍民活動で協力することが不可欠です。

 G8開発大臣会合は、2008年に日本の指導の下に行われる一連のG8会合の中で最初の閣僚会合でした。会合はいかがでしたか。首脳会議までに取らなければならない措置は、何かありますか。

 いくつか成果がありました。経済成長は、私たちが推進している分野です。なぜなら、経済成長はほかのすべての活動の基礎であり、 貧困の低減の主な原動力になるからです。経済が成長すれば、人々が教育や医療の費用を負担することができ、自らや家族が当事者意識と安定感を感じられる活 動にかかわることができます。経済成長は、今後の閣僚会議や首脳会議において注目が集まるテーマだと思います。

ジンバブエでは、PEPFAR が、性行為という微妙な問題について、責任感と自尊心をもって行動す るように若者に求める運動を展開している(写真 PEPFAR)
私たちは、アフリカに重点的に取り組むことの重要性についても話し合いました。アフリカは過去数年間で大きな経済成長を遂げましたが、私たちは、 中小企業や起業家精神を奨励したいと思っています。というのも、これが社会を安定させる要因だからです。日本と米国の公共部門と民間部門は、この分野で多 大な貢献をすることができます。開発を促進する方法を開発関係国全体で検討することができるように、今回の開発大臣会合に出席した多くの新たな援助国との 協力関係を拡充することについて話をしました。例えば、ブラジルは過去40年間で食糧輸出国となりました。私たちは皆、トウモロコシ、小麦、コメの価格高 騰を大いに懸念しています。日本は、アフリカでコメの生産を奨励するプロジェクトを行ってます。この分野で援助国が何ができるかは、今後さらに議論が行わ れるテーマでしょう。

気候変動についても話しました。日本政府は水の問題に重点的に取り組んでおり、この分野での日本の指導力は世界中で良く知られています。さらに、人間の安全保障や、ミレニアム開発目標の達成、保健、水と衛生、教育活動についても話しました。

 American Viewの読者にメッセージがあればどうぞ。

 米国と日本は長年の友人であり、世界中のさまざまな場で良きパートナーとなってきました。これは開発分野にも当てはまります。両 国とも、海外での開発援助の水準を高めるという課題に直面しており、この件については開発大臣会合でも話し合いました。多くの国は、開発援助を一部、債務 救済の形で行っており、この形の援助は過去数年間で大きく増えています。米国の開発援助は一部の分野で減少しています。米国は、債務救済とイラクへの資金 提供以外の開発援助を重視しており、その分野での援助件数が増加しています。日米両国には、この流れを継続させたいという思いがあります。これは重要なこ とです。なぜなら、開発援助は経済的にあまり恵まれない人々を助けるという倫理観から行われるものだけではないからです。

こうした寛容さが重要である一方、国が安定し、自らの国民の面倒を見ることができ、優れた医療制度と経済制度を備えているということは、日本と米 国が生産した製品とサービスの消費者がいる、ということを意味します。世界中に感染症がまん延する可能性は以前よりも低くなっています。各国が自国の安全 を守り、国内および地域内の紛争が少なくなれば、安定性も高まります。開発に投資しておけば、後に危機が発生したとき、より多くの資金を投入する必要性が 生じるのを防ぐことができます。日米は良き友人として、より安定し繁栄した世界をつくるために共に貢献してきました。そして、今後もそれを続けることを期 待しています。

日本の企業と日本の皆さんが、民間人としてプロジェクトに共同出資したり、海外でボランティアとして働くなど、どうすれば途上国を支援することができるかを考えれば、開発の助けになるでしょう。開発分野にはまださまざまなニーズがあり、貢献する機会も数多くあります。