2009年4月にヒラリー・クリントン国務長官が「グリーニング・ディプロマシー・イニシアチブ(環境問題に取り組む外交イニシアチブ)」を開始して以来、国務省は世界各地での自らの活動が環境に及ぼす影響を最小限に抑えるため政策を策定し、実施してきた。在日米国大使館および各地の領事館のボランティアが参加する「グリーンチーム」は、省エネおよび廃棄物の削減、再利用、リサイクルに向けた、より環境に優しい戦略の策定のためにさまざまな活動に取り組んでいる。

在日米国大使館

具体的かつ測定可能な目標の設定、活動および実施計画の立案、プロジェクトの推進、結果の評価というグリーンチームの基本的な活動の進め方を決めたのは、活動初期に実施したトナーカートリッジのリサイクルだった。グリーンチームはこの進め方に従い、2年以上にわたり結果を重視する活動に取り組んできた。

グリーンチームは毎月、環境問題への取り組みの成果やヒントを全大使館員に知らせるメッセージを作成し、大使館の各所の掲示板、全職員宛ての電子メール、大使館内のテレビシステム、カフェテリアの電光掲示板を通じて伝えている。この成果とヒントは関連しており、例えばある月の成果が燃費に優れた車の購入の場合には、同じ月のヒントで外出時にこの車の使用を配車担当者に依頼するよう職員を促す。

2009年から10年にかけて、大使館は白熱灯を省エネ電球に取り替える意欲的なプロジェクトに取り組んだ。職員宿舎では居住者が231個を超える白熱灯を長寿命でエネルギー効率に優れた電球型蛍光ランプ(CFL)と交換した。大使館の庭の電球は全て発光ダイオード(LED)電球に取り替えた。LEDは寿命が15年以上で、70%以上の省エネを実現できる。大使公邸の庭にある屋外照明はほとんど全てがLEDかCFLに交換され、60%以上の省エネを達成した。大使館の天井灯も全て蛍光灯からLEDに交換したいと考えている。

加えて大使館では、夜間のコンピューター自動終了システムを導入し、電気代を年間6万ドル以上節約している。毎晩所定の時間になると、コンピューターにログオンしている職員は、数分後にコンピューターが自動終了するというメッセージを受け取る。ただしユーザーはクリックひとつで自動終了を回避できる。当初は遅くまで残って仕事をする職員の多くが、不便になる、あるいは未保存の仕事を失いかねないと言ってこのシステムの導入に反対したが、この設定が非常に単純で効果的であることが明らかになったため、実施後の苦情は1件も寄せられていない。

大使館に取り付けたものと同じタイプの省エネ電球を持つグリーンチームのメンバー、スコット・クルカスと森下眞夫

2010年春、グリーンチームはオフィスでの環境保護の取り組みの制度化を促す運動を大使館全体で実施した。例えば両面印刷する際のプリンターの設定方法を紹介する啓発活動を実施したほか、オフィスを最後に退出する人が冷暖房、照明、プリンター、モニターを消すよう奨励したり、冬季および夏季のオフィスの推奨設定温度を定めた。2011年には、新たに着任する米国人職員が受け取る説明資料一式に、大使館で実施されている基本的な環境保護の取り組みを記載した書類を同封する予定である。

大使館の財務管理センターは経費精算業務の自動化プロジェクトを開始した。2010年に同センターが処理した精算書類の数は約1万枚にのぼり、長年の間に記録書類を入れた箱が多数たまっていた。経費精算業務の自動化により、紙の使用を年間平均3万枚、また記録書類を75%削減できる可能性がある。

クールビスで公式行事に臨むルース大使(左)

大使館はジョージ・ブッシュ前大統領と小泉純一郎元首相を手本に、夏季の服装規定を日本政府が実施する「クールビズ」に合わせた。館内の設定温度を25度以上にし、空調のムダを防ぐために窓を閉め、スーツの上着とネクタイの着用は自由にした。大使と首席公使が率先し、非常に涼しく日本で受け入れられているノーネクタイの夏の服装を実践した。クールビズを取り入れた外務省との2国間会合では、日米いずれの出席者も季節に合った適切な服装をしていた。クールビズのおかげで、このプログラムが始まった最初の夏、大使館は電気使用料金を大幅に削減できた。

大使館は先ごろ、温暖化ガスの排出ゼロのプラグイン電気自動車を1台、ハイブリッドの低排出ガス車を2台購入した。3台とも日常的に利用され、近距離・短時間の外出にはこの3台から使われるため、ガスの排出抑制、エネルギー消費の削減、経費の節約に貢献している。電気自動車の価格は同クラスのガソリン車と比べると割高だが、燃費は従来の中型セダンの5分の1であり、ズムワルト首席公使の言葉を借りれば「後部座席は驚くほどゆったりしていて乗り心地も素晴らしい!」

大使館が新たに購入した排ガスゼロの電気自動車をコンセントにつなぐ大使館職員のアレックス・ハーディンと桝田賢二

3月11日の東日本大震災による被害を受け、東京電力は総発電能力の約20%を失った。そのためエアコン使用がピークとなる夏季には、電力供給が需要に追いつかないことが予想される。日本政府は予期せぬ停電を回避するために、特に午後1時から4時までの需要ピーク時の節電を東京電力管内の全ての企業および家庭に呼びかけた。

米国大使館が省エネのため既に実施してきた取り組みは、まさに時宜にかなったものとなった。大使館は電力使用量の削減に向け自らの役割を果たすために、ピーク時の使用量を20%削減する目標を設定した。この目標値は、米国のエネルギー専門家が東京での停電を防ぐために必要と考える削減幅に基づいている。誰もがある程度の犠牲を強いられるが、大使館が停電による業務停止という事態に陥らないためにはこうした取り組みが必要である。具体的にはエアコンの設定温度を25度以上とするほか、電力需要ピーク時にはエレベーターを1基のみ稼動する。また大使館が所有する電気自動車の充電はピーク時以外とし、人の動きを感知するセンサーを設置してオフィスに誰もいない時には電気が自動的に消えるようにする。

大使館の長期的な省エネ目標には新しい温度調節装置やLED電球の設置などがあるが、当面は既存設備を利用する節電に向け職員全員が協力しなければならない。