左近充まりえ 在日米国大使館 報道室インターン

2017年1月26日、アメリカンセンターJapanで開催されたシンポジウム「人生100年時代、熱望される女性のリーダーシップ」に参加した。アメリカ大使館のマルゴ・キャリントン広報・文化交流担当公使と東京家政大学名誉教授・樋口恵子先生がパネリストとして登壇し、スペシャルゲストは男女雇用機会均等法の立案者・赤松良子先生だった。

シンポジウムでは、世代間で女性同士が助け合うネットワークとキャリアを追求するさまざまな方法を議論した。また、この分野で日本に起きた変化や、女性の活躍推進を阻む課題、その解決の糸口としての在宅勤務やメンター制度等について活発な意見交換が行われた。

後日、日米の女性の活躍推進に尽力し続けているキャリントン公使にインタビューした。「人生100年時代」と題して、高齢化社会という文脈で女性の活躍推進について話し合ったシンポジウムについて、キャリントン公使は「とても興味深い議論でした。高齢化は女性の活躍推進を語るときの新たな視点です」と振り返った。キャリントン公使から伺ったことをもとに、女性の活躍推進に関し、日本が取り入れていくべきアメリカの制度や価値観はどのようなものかを考えてみたい。

2017年1月26日、アメリカンセンターJapanのシンポジウムで話すマルゴ・キャリントン米国大使館広報・文化交流担当公使(左)と樋口恵子 東京家政大学名誉教授

2017年1月26日、アメリカンセンターJapanのシンポジウムで話すマルゴ・キャリントン米国大使館広報・文化交流担当公使(左)と樋口恵子 東京家政大学名誉教授

世代を超えて女性同士が助け合う

シンポジウムで鍵となったのは「女性同士が助け合う」ということだった。キャリントン公使は、これを実現するために有効な制度としてメンター制度を挙げた。「日本にはメンター制度の伝統がまだ根付いていないため、大使館としてアメリカ式のメンター制度の導入に積極的に取り組んできました。その一例がTOMODACHI MetLife Women’s Leadership プログラム(TMWLP)です」。官民パートナーシップ「TOMODACHIイニシアチブ」が運営するTMWLPは、日本の中堅・若手女性リーダーに将来ある日本の女子大学生とペアを組んでもらい、女子学生を次世代のリーダーとして育成するプログラムで、日本各地で行われています。「メンター制度という文化を確立するには、これは自然に出来上がるものではないと認識することが重要です。制度を整え、効果的に役割が果たせるよう人々を教育する必要があります」とキャリントン公使は言う。

 

より自信を持ち、“lean in”するには

キャリントン公使は、仕事やポジションに「とどまり続ける」ことの重要性について語るにあたり、Facebook の最高執行責任者(COO)であり、女性の活躍推進を支援するシェリル・サンドバーグ氏の著作のタイトルにもなった“lean in”(=挑戦すること)という言葉に言及した。サンドバーグ氏は2010年、各界のスペシャリストがさまざまなテーマで講演するTED Talksにおいて、「なぜ女性のリーダーは少ないのか」について語った。その中で、女性は自身の能力をより低く見積もってしまい、挑戦しないと指摘した。男性は出世や成功を自分で勝ち得たものだと思うのに対し、女性は外的要因に理由を求める、というのだ。このような傾向を踏まえた上で、女性のためのリーダーシップ研修が重要だとキャリントン公使は語る。「女性にとっての課題は男性とは異なるので、女性のためのリーダーシップ研修が必要です。研修が自分の能力を見極める余裕にもつながります。また女性は個人の利益より皆の利益を求める傾向にあるため、交渉の場では攻めの姿勢に欠けることがあります。ですから女性のリーダーシップ育成に特化した特別なプログラムが必要です」

 

キャリアを充実させたい日本の女性へ 

インタビューでキャリントン公使は、日本の女性に次のようなメッセージを寄せてくれた。「自分の能力に自信を持つこと。自分自身を安売りせず、自分の価値を見極めること。難しい課題に進んで取り組むこと。前向きであり続けること」

シンポジウムでのキャリントン公使の発言も印象に残っている。「多くの組織に『無意識の偏見』がみられます。女性にとって不利に働き、見つけるのが難しい偏見です。その一例が『ケアギバー・バイアス』です。ケアギバー・バイアスとは、雇用主が『女性は家族の世話をする役割を担っているから、キャリアよりも家族を優先する』という偏見を持つことです。このような偏見を持つ雇用主は、男性と同じチャンスを女性に与えません」。この無意識の偏見については、インタビューでこのように付け加えた。「女性が別の女性に対してケアギバー・バイアスを持つことがありますから、自分自身の意識を高める必要もあります」

キャリントン公使の話を伺い、私はケアギバー・バイアスがあることを認識したうえで、女性同士が多様な生き方をお互いに尊重しながら、世代を超えて助け合える職場の文化をつくることが重要だと感じた。私たちの周りは、いろいろな善意が溢れている。「結婚して家庭に入ったらいいのに」「のんびり子育てをしたらいいのに」などの発言は、善意から出たものであるにもかかわらず、結婚か仕事か、子育てか仕事か、どちらかを選ぶべきだと言っているように聞こえる。女性は今日、男性と同じように、もしくは男性以上に、多様な生き方の選択肢を持つようになった。経済的自立もそれほど難しくなくなってきており、働きながら育児をすることも、キャリアを追求することも、選択肢の1つになった。しかし、高みを目指すときにぶつかる壁を、無意識のうちに自分で高くしてはいないだろうか。自分にはできないと思い込んで、断念したことはないだろうか。思い返すと、残念ながら私は心当たりがある。

インタビューの終わりに、キャリントン公使から今後の私の展望を聞かれた。フルブライト奨学金への申請を提案された際、思わず発した言葉は「それはとてもレベルが高いです」。インタビュー現場は笑いに包まれた。女性の活躍推進に関心を持ち、インタビューをしている私でさえ、自分自身のこととなると壁を高くしていた。インタビューを通して、自信を持つこと、自分の能力を低く見積もらないこと、少し高い目標を設定すること、そして前向きであり続けることの重要性に、私はあらためて気づくことができた。