両チームの競技場への入場です。破壊と金銀財宝の奪取、そして敵を倒す準備は万端です。思い通りにならず、数秒で決着がつくこともあります。その代償は、死あるいは少なくとも戦闘能力の低下。そして財産の喪失。それでもこの仮想世界での成功は、現実世界での栄光――母校の勝利――となるのです。

それは「eスポーツ」が、チーム編成、リーグ、トーナメントなどで、世界的なブームとなっているからです。アメリカの大学でも人気が沸騰。各大学がeスポーツの代表チームを作り、競技大会を企画し、さらにはトップレベルの選手に奨学金まで支給しているのです。シカゴのロバートモリス大学が2014年に最初のeスポーツ代表チームを創設して以来、eスポーツ熱は一気に高まりました。今では全米130校以上の大学代表チームで、3000人を超える学生アスリートがプレーしています。

全米ビデオゲームリーグ(AVGL)の「ドリームハック」オースティン大会で、決勝に進出したチームのリプレイを見るプレーヤーたち。プレーヤーは自身のコンピューターを持参し、多数の参加者で埋め尽くされたホールでローカル・エリア・ネットワークに接続する（写真提供：全米ビデオゲームリーグ）

「最高です。急成長するeスポーツの波にぜひ乗らないと」。ノーステキサス大学(NTU)のeスポーツチームで「オーバーウォッチ」をプレーするカルロス・ガルシアさんは話します。「eスポーツのコミュニティーが大好きなんです」

eスポーツ全体の人気を高めているのは、オーバーウォッチリーグなどの国際eスポーツリーグや、高額賞金が獲得できるプロトーナメントの個人賞です。今年7月にテニスの全米オープン会場であるアーサー・アッシュ・スタジアムで行われた「フォートナイト・ワールドカップ」では、賞金額が300万ドルにまで達しました。

大学レベルでは、全米大学eスポーツ協会(NACE)が非営利監督機関の1つであり、コーチやアスリートにリソースを提供しています。全米大学体育協会(NCAA)が主な大学スポーツイベントの調整を行うのと同様に、NACEも協会に所属する大学代表チームのイベントを取り仕切ります。

全米の大学キャンパスでは、eスポーツに熱狂する学生が学生寮やコンピューターラボなどに集まりゲームで競い合っています。彼らがプレーするのは、リーグ・オブ・レジェンドやオーバーウォッチなどのゲームです。不思議な空想上の世界に登場するゲームのヒーローたちは、それぞれのキャラクターがさまざまな武器と能力を備えています。代表チームプログラムは、eスポーツへの情熱を一段引き上げることとなりました。選手にフルタイムの支援とキャンパス内のトレーニング専用スペースを提供することで、奨学金と勝利の栄光を目指し競い合えるようにしたのです。

UNTは2018年秋、4種類のゲームについてeスポーツプログラムを正式に立ち上げました。現在は31人のアスリートが所属しています。代表チーム編成のための1年間の学生募集と計画が身を結び、UNTは基準をクリアしたeスポーツの成績優秀者に、総額2万ドルの奨学金を支給することを発表しました。このスポンサー付きのeスポーツ競技大会へ道のりは平たんではありません。これまでに行われた選別試験には、各ゲームおよそ50人から60人が挑戦しましたが、コーチや分析担当を含め最終チーム入りできたのは、1つのゲームにつき7人か8人でした。オーバーウォッチの実技試験は「神経をすり減らす」と、ガルシアさんは話します。それでも、と彼は付け加えます。「6人組の対戦チームに対し、こちらの6人のチームメンバーが信頼感と一体感を築くのです。能力を駆使してマップと呼ばれる異なる闘技場で目標を捉えコントロールするために、チームメンバーが連携しなければなりません」

UNTでコーチを務めるニック・コットンが自校のプレーヤーに、次のマップに移動する前にアドバイスを行う。テキサス州ダラスで行われたイベント「OPライブ・ダラス」での一コマ（写真提供：リチャード・フェルナンデス）

その例として、リーグ・オブ・レジェンドもオーバーウォッチも、共にチームの連携がカギとなります。チームの勝利に貢献するため、それぞれのキャラクターが目的を達成しなければなりません。キャラクターたちは最初、視界がきかない闘技場に入ります。「ジャングラー」と呼ばれる探検部隊がチームの視界をクリアーにし戦略的なプレーを開始するまでこの状態が続きます。サポートキャラクターは、チームメートに「ヒール」と呼ばれる援護とリソースを提供します。またリーグ・オブ・レジェンドには、「ファーマー」と呼ばれるキャラクターがいます。敵のモンスターを殺してゴールドを奪い、「アタック・ダメージ・キャリー」に渡します。

大学のeスポーツチームは、アシスタントコーチなどの指導者の支援で、特定のビデオゲームに専門的に取り組んでいます。コーチはプレーヤーのゲーム技術の向上に力を注ぎます。データ分析者はチームの勝敗率を評価し、マップとキャラクターの課題分析により、チーム戦略を精査し計画を練ります。ウェイトルームやコート、フィールドでのトレーニングに代わり、チームはゲーム用パソコンや複数のディスプレーがある専用スペースで技術を極めるのです。

オーバーウォッチの練習に取り組むプレーヤーを見守るリード・スタッドリー。スタッドリーはUNTの卒業生であり、オーバーウオッチの分析担当も務めた（写真提供：UNT学生課）

ディラン・レイさんはUNTのeスポーツコーディネーターです。アスリートは最近の試合のビデオ映像を見て自分たちの思考過程を見直し、意思決定経路を改善したり新たに確立する方法を話し合いながら一緒に練習していると説明します。「プレーヤーは、彼らにもともと備わっている素晴らしい才能を、より高いレベルの意思決定に向けようとしているのです」

レイさんは説明します。チームのプレーヤーは、「Xという状況が起きた場合の対応策」を想定し回答を用意して、その先のシナリオを予測しなければなりません。リーグ・オブ・レジェンドのようなeスポーツでは、勝敗が5秒から15秒で決まってしまう場合もあります。そのためプレーヤーは、「複雑な決断を瞬時に下し、可能な限り多くの情報がお互いに行きわたるように、意思疎通方法を念入りに作り上げ実践しなければならないのです」

UNTのリーグ・オブ・レジェンド代表チームのナタリー・グエンさんは、攻撃で敵のキャラクターにできるだけ大きなダメージを負わせる役割の「ダメージディーラー」を務めます。リーグ・オブ・レジェンドでは、対戦チームが敵チームの主要目標物「オブジェクティブ」を破壊する作戦を練ります。このため、チームが自軍の基地を守りながら、それぞれのキャラクターの力を連携させ、次のレベルに進む必要があるのです。グエンさんとチームメートは、彼女が担当する重要なキャラクターを守る方法を考えなければなりません。もし敵に排除されれば、チーム全体にとってゲームが瞬時に終了しかねないからです。

プレーヤーの人生が変わるほどの影響が、eスポーツには明らかにあるのです。2人の兄弟とビデオゲームをして育ったグエンさんにとって、eスポーツは自然な足掛かりとなりました。「成長するにつれて、競争心が高まりました」とグエンさんは言います。「自分がプレーするゲームでもっと上手になりたいと思えば、自然とより競争的なプレー環境に引かれていきます」

UNTのeスポーツチームは年間を通して試合を行います。さまざまな大学と毎週オンラインで対戦し、遠征にも出てトーナメントに参加します。昨年テキサス州ダラスで行われたイベント「OPライブ・ダラス」でのことです。ガルシアさんは、ローカル・エリア・ネットワークで対戦チームと直接プレーする初のトーナメントで忘れられない瞬間を経験しました。「1次リーグである大学に負けましたが、その後は決勝まで勝ち進みました。そして優勝決定戦で同じチームと対戦し、今度は勝利を収めたのです。ステージ、照明、興奮は最高潮に達しました」

大学の練習施設や世界的な競技場で、eスポーツはプレーヤーと観客の人生を変えています。高額賞金を提供する全米そして国際的なイベントは、世間の大きな注目を集めてきました。競争心とチームワークの精神は、グエンさんやガルシアさんのような学生が、個人プレーのゲームからチーム競技に進み、新しい仲間に出会う大きな機会を生み出しています。また外国人留学生が他文化圏出身の学生と友人になる機会でもあります。同じ志のゲームファンに囲まれて幸せを感じる学生や、お互いに対戦し励ましあうバーチャルアスリートにとってeスポーツは、彼らの学生生活をより充実させ、次の「マップ」への挑戦へと導いていくものなのです。

参考リンク

E-sports team near you search (NACE website):
https://members.nacesports.org/af_memberdirectory.asp

Promo esports facility/gameplay (UNT):
https://www.youtube.com/watch?v=Me65VwvyhXs

ESPN E-sports:
https://www.espn.com/esports/