レノア・アドキンス

東京2020オリンピックでデビューするサーフィン。今年の夏、この新競技に注目が集まります。

現役選手が現代サーフィンの父として尊敬するのが、故デューク・パオア・カハナモクです。スポーツとしてのサーフィンの認知度を高めた人物です。伝記作家のサンディー・ホールによると、カハナモクはハワイ先住民の伝説的人物にして、「最強」のマリンスポーツ選手でした。「彼がしなかったのは、水の上を歩くことぐらい」とホールは言います。

カハナモクは1890年、海を知り尽くすハワイアンの家系に生まれました。サーフィンを広める前はオリンピックの水泳選手で、金メダルを獲得したこともあります。

1912年頃、ハワイのビーチで自分の木製ボードの横でポーズをとるカハナモク (© Alpha Historica/Alamy)

1912年頃、ハワイのビーチで自分の木製ボードの横でポーズをとるカハナモク (© Alpha Historica/Alamy)

1911年には100ヤード(91.44メートル)自由形で世界記録を樹立し注目を集めました。力強いストロークとバタ足でこの快挙を達成したのです。ハワイがアメリカの準州であった1912年に開催されたオリンピックでは、アメリカチームに金メダルと銀メダルをもたらし、知名度が一気に高まりました。

「公爵」と呼ばれたカハナモクは、オリンピックに3回出場し、計5つのメダルを獲得しました。うち3つは金メダルです。

ニュージャージー州アトランティックシティーでのトレーニング後の1912年8月には故郷に戻り、サーフィン会を実施する約束を果たしました。

木製のサーフボードで波乗りをするカハナモクを一目見ようと、3週間で数千人もの人がビーチに押し寄せました。カハナモクはサーフボードに後ろ向きに乗ったり、ボード上で逆立ちしたりといった数々の技を披露しました。1913年6月には、カリフォルニア州沿岸の町でサーフィン会をさらに3回開催し、観客を魅了しました。

「デュークがサーフィンをすると、大勢の人が集まったもの」。こう語るのは「エンサイクロペディア・オブ・サーフィング」の創設者で、雑誌「サーファー」の元編集長のマット・ウォーショウです。「彼には人を惹きつける力があり、その上ハンサムで、くしで黒髪をオールバックにセットしていました。斬新なことをする力があり、それを素晴らしいやり方で見せるのです」

カハナモクは数年後、オーストラリアとニュージーランドでも人々を魅了しましたが、知名度は1952年に起きた大惨事寸前の事件をきっかけに高まりました。カリフォルニア州コロナデルマー沖で小型船が転覆し、その時にサーフボードを使って8人を救出したのがカハナモクでした。友人のトム・ヘンリーは数十年後、テレビ番組「ディス・イズ・ユア・ライフ」の1957年の放送回で、この救出劇についてこうに語っています。

「彼は転覆船と岸を3往復し、その度に生存者を運んできました」

カハナモクの社会奉仕の精神は、後の仕事につながります。ホノルル市郡で約30年にわたり保安官を務めました。1959年にハワイがアメリカ合衆国50番目の州になると、アスリート、そして無声映画やフィーチャー映画に出演したハリウッドスターとしての知名度から、ホノルル市の顔となり、観光業の促進に尽力しました。

1936年、ホノルルを訪れたチャーリー・チャップリンとポーレット・ゴダードを迎えるカハナモク (© Haynes Archive/Popperfoto/Getty Images) 1955年制作の映画「ミスタア・ロバーツ」でのカハナモク (© Slim Aarons/Getty Images)

1936年、ホノルルを訪れたチャーリー・チャップリンとポーレット・ゴダードを迎えるカハナモク (© Haynes Archive/Popperfoto/Getty Images) 1955年制作の映画「ミスタア・ロバーツ」でのカハナモク (© Slim Aarons/Getty Images)

ハワイ大学マノア校のジョン・ローザ教授(歴史学)は、カハナモクを「カリスマ性があると同時におもてなしの心に溢れた人」と評します。

医師からの忠告で、60歳になるとサーフィンをやめ、後年はセーリングを楽しむようになりました。1968年に心臓発作のため77歳でこの世を去りましたが、品格、運動競技、そしてサーフィンの美学という遺産を残しました。

ウォーショウはカハナモクを何世代にもわたるサーファーのまさに象徴と評し、「デュークはどこにいっても『伝説の人』として注目を集めた」と話しています。

バナーイメージ:1910年、ホノルル・ワイキキ地区の海岸でサーフィンをするデューク・カハナモク (© Darling Archive/Alamy)

*この記事は、ShareAmericaに掲載された英文を翻訳したものです。