大統領に就任して数時間の間にバイデン大統領は、新型コロナウイルス感染症、その感染拡大による経済危機、気候変動、人種差別など、新政権が立ち向かう最優先課題に取り組みました。

いくつかの対策は大統領令、他は大統領覚書によるものでした。

では、大統領令と大統領覚書の違いは何でしょう。

大統領令と大統領覚書

大統領令と大統領覚書は、どちらも連邦政府職員に対して法的効力があります。すなわち、連邦議会で可決され大統領署名を経た法案と同等の効力です。

しかし、異なる点もあります。

大統領令は番号が振られ、アメリカ政府の行為の公式記録である連邦官報に掲載されます。大統領覚書は連邦官報に掲載する必要はありません。

大統領令は、米国憲法に基づくものか、または法律に基づくものか提示されなければなりません。さらに、大統領令を実施するために必要な費用も提示が必要です。費用が1億ドル未満である大統領覚書については、費用の掲載義務はありません。

1名を除いて歴代大統領はすべて、大統領令や大統領覚書に署名しています。例外は就任後わずか1カ月で死去したウィリアム・ヘンリー・ハリソン大統領です。唯一2期を超える任期を務めたフランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領は、最多となる3721の大統領令に署名しました。そのほとんどが、大恐慌や第2次世界大戦に対処するものでした。

ここで、歴史を変えた有名な大統領令をいくつか紹介します。

奴隷解放令

ニューヨーク州議会議事堂にて展示されているエイブラハム・リンカーン大統領の奴隷解放令初稿 (© AP Images)

ニューヨーク州議会議事堂にて展示されているエイブラハム・リンカーン大統領の奴隷解放令初稿 (© AP Images)

1863年1月1日、エイブラハム・リンカーン大統領は奴隷解放令に署名しました。この大統領令は、南北戦争中に連邦下になかった州のすべての奴隷を解放するものでした。南部の州は連邦政府に反旗を翻して連邦を脱退していたため、大統領令に即座の効力はありませんでしたが、北部の州へ脱走した奴隷の自由は保証されました。

ニューディール

フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領がホワイトハウスにて法案に署名。1933年撮影 (© AP Images)

フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領がホワイトハウスにて法案に署名。1933年撮影 (© AP Images)

ルーズベルト大統領は大恐慌中、1933年の大統領令により民間土木工事局を設立し、40万人もの政府雇用を創出しました。また、1934年に署名した大統領令により農村電化局が設立され、未開発の農村地域に電気が行き渡りました。

軍隊における人種差別廃止

第2次世界大戦終結後の1948年にハリー・トルーマン大統領は、米軍における人種差別を正式に廃止する大統領令に署名しました。大統領令の文言は簡潔です。「人種、肌色、宗教、出身国にかかわらず、軍隊に所属するすべての人に処遇や機会の平等がある」。この大統領令が署名されるまでは、軍隊の訓練、勤務、戦闘は人種別に行われていました。

時代の変化

数多くの大統領令や大統領覚書のほとんどは、上記のように歴史的意義があるものではありません。しかし、すべての大統領令や覚書は重要案件に対する大統領の意見を表しており、その大統領が務めた時代を反映しています。

*この記事は、「Voice of America」の記事をもとにShareAmericaが2017年2月2日に発表したものです。

バナーイメージ:2021年1月20日、ワシントンにてバイデン大統領が初の大統領令に署名