リンダ・ワン

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の工場が生産減速や停止に追い込まれています。薬品。ニンニク。靴下。生産減少がさまざまな物資を世界中に届けていたサプライチェーンを寸断しています。

原因の一部としてエコノミストたちが指摘しているのが、サプライチェーンの分散化の遅れです。「品物によっては特定の生産国、時には特定の都市や企業に過度に集中する『詰まり』が生じています」。こう説明するのは、ブルッキングス研究所世界経済開発プログラム・フェローのジェフリー・ガーツ氏です。「特に顕著なのが中国。ウイルス感染拡大が、サプライチェーン強靭化への投資を拡大する必要性をあぶりだしています」

マサチューセッツ工科大学(MIT)でサプライチェーン物流を専門に研究するデービッド・スミチ・レビ教授は、今日の供給不足は数年前に積極的にコスト削減を行った結果であると指摘します。「企業はコスト削減に成功した一方で、リスクが大きく増大しました。ここ数週間で顕在化してきたような事態が問題となって浮上すれば、サプライチェーンの寸断化は避けられないでしょう」

マイアミ港。クレーン車が貨物船Asian Moon号に積荷している (© Alan Diaz/AP Images)

マイアミ港。クレーン車が貨物船Asian Moon号に積荷している (© Alan Diaz/AP Images)

スミチ・レビ教授によると、多くの企業が1980年代にアジア、特に中国に生産拠点を移管。「企業はコスト削減にばかり気を取られ、サプライチェーンの長いリードタイム、拡大する脆弱性やリスクなどの影響を考慮していませんでした」

また、世界貿易に占める中国のシェアが大幅に高まっている点をあげ、世界国内総生産(GDP)の中国の割合は、SARS流行時の2002年は4.3%であったのに対し、今では16%になっていると指摘しています。

供給業者の調達先を地図化する

一方、ガーツ氏は、「生産プロセスにおける中間財サプライヤーへの依存度が高まっている」とし、サプライチェーンが複雑になっている点を指摘します。

ビジネス誌キプリンガーのスタッフエコノミストのデービッド・ペイン氏は、サプライチェーンの細分化が中国以外の場所で起きている記事を掲載し、「東南アジアから部品や材料を輸入している企業は、調達先の多くが中国から原材料を仕入れていることに気づき始めている」と述べ、中国からの生地調達ができなくなり閉鎖せざるをえなかったカンボジアの縫製工場を例に挙げています。

スミチ・レビ教授は世界各国の企業に対し、サプライチェーン拠点を地図化する作業にお金を投じるよう求めています。「自社のサプライヤーだけでなく、その下のサブサプライヤーも知る必要がある」と言います。

教授はまた、企業の「分散化」の必要性も訴えています。それには「まずサプライヤーが異なる地域に複数の製造拠点を持っていること。あるいは必要な部品を調達できるサプライヤーを複数確保していること。または、在庫を通常よりも増やすことが必要となります」

ガーツ氏は、2011年の東日本大震災では物資不足が発生し、サプライチェーンを強靭化する取り組みが生まれたと指摘します。しかし、この取り組みが持続することはありませんでした。「私たちは、こうした脆弱性が目の前に突き付けられないと認識できないというリスクに常に直面しています。平穏時には、効率性重視のため強靭化を簡単に手放し、その結果同じ教訓を何度も学ばないといけなくなります。喫緊の危機にすぐに対応しながらも、こうした危機を避ける対策を何ら講じない。これこそが本当の脅威です」

ボストンの薬局。4月3日時点で非処方箋薬が品切れとなった (© Michael Dwyer/AP Images)

ボストンの薬局。4月3日時点で非処方箋薬が品切れとなった (© Michael Dwyer/AP Images)

スミチ・レビ教授は、今回のケースは従来のものと異なると考えており、昨今の貿易摩擦をきっかけに、企業は既にサプライチェーンを再考していると言います。「感染拡大によりその傾向は加速していきます。10年後のサプライチェーンの構造は、この5年、10年のものとは違う形になっているでしょう」

その上で、「リスク軽減には分散化が不可欠となる」と訴えます。