北海道北見市とニュージャージー州エリザベス市の間には、50年にわたる姉妹都市としての歴史がありますが、両市の絆の始まりは、2人のアメリカ人宣教師が北見に居を定めた20世紀初頭にまでさかのぼることが出来ます。

北見市が開拓して間もない時代、開拓者たちの精神的かつ道徳的な礎となり力となったのが、ピアソン夫妻の宣教活動です。ジョージ・ペック・ピアソンは、ニューヨーク近郊の川沿いの都市ニュージャージー州エリザベス市で生まれ、1888年に宣教師として来日しました。1894年には北海道に渡り、北海道の開墾・開拓に苦労している人々に熱心に語りかけています。

1895年にアイダ・ゲップと結婚、1914年には夫婦で北見に移り住みました。坂本龍馬の甥である坂本直寛が率いる四国高知からの北光社開拓移民団キリスト教集落があったことから、ピアソン夫妻は北見を北海道最後の活動拠点と定めたのです。

ピアソン夫妻

ピアソン夫妻

夫妻は楡や柏が生い茂る小高い丘の上に、スイスの山小屋風木造2階建ての「ピアソン邸」を建てました。設計者は、当時の洋館設計の第一人者ウィリアム・メレル・ヴォーリズです。北見市は1970年に私邸を記念館として復元し、翌年にはピアソンの遺品や活動を紹介する「ピアソン記念館」として開館しました。記念館前の通りは「ピアソン通り」と命名され、多くの市民に親しまれています。

ピアソン記念館

ピアソン記念館

ピアソン夫妻の日本での伝道活動は、実に40年におよびました。そのうちのほぼ15年間を北見で過ごしたのです。1928年5月10日、北見の人々に慕われ尊敬されたピアソン夫妻は、宣教師の任務を終えて帰国の途に就きました。出発の日には大勢の人々が北見駅に集まり、賛美歌を合唱しながら夫妻を見送りました。ピアソンは最後に、「これで私たちが住む遠いアメリカを見てほしい」と言って望遠鏡を託し、涙で別れを惜しみました。その望遠鏡は現在、ピアソン記念館に保存されています。

ピアソンの偉大さは、今日の北見市民の心の中に脈々と受け継がれています。

これまでの交流

このように、北見市とピアソンの出身地であるエリザベス市との間には、長年にわたる歴史的かつ精神的なつながりがありました。1969年6月12日に両市の間で、さまざまな分野の交流を通じて友情と相互理解を深め、ひいては世界の平和と繁栄に寄与するために、姉妹都市提携が締結されました。

周年時や開基年は、両都市において訪問団の派遣や受入が行われています。1976年には北見交響吹奏楽団のエリザベス市訪問演奏が実現しました。北見市青年ジェット訪問団のエリザベス市派遣は過去5回にわたって実施されているほか、幼稚園児同士の絵画作品交流なども行われてきました。

1996年北見市青年ジェット訪問団のエリザベス市訪問。前列一番右が畠一雄さん

1996年北見市青年ジェット訪問団のエリザベス市訪問。前列一番右が畠一雄さん

畠一雄さんは、1996年の北見市青年ジェット訪問団16人の一員として、エリザベス市を訪れました。歴史のある市庁舎だけでなく、街並み全てが印象に残ったと話します。帰国後は、北見市でエリザベス市の良さを紹介する活動を続けています。エリザベス市の友人を北見市に迎えることもできました。現在はSNSがあるため、お互いの近況を簡単に知ることができます。遠く離れていても友情は続いていくのです。「これからも、エリザベス市と北見市の魅力をお互いに紹介し続けます」と、畠さんは語ります。

Wally Gobetzによる"Elizabeth City Hall(エリザベス市庁舎)" ライセンスはCC BY 2.0に基づく

Wally Gobetzによる"Elizabeth City Hall(エリザベス市庁舎)" ライセンスはCC BY 2.0に基づく

辻綾子さんは、2012年と2014年の2度エリザベス市を訪問し、料理教室を開催しています。2014年には姉妹都市提携45周年記念事業として、現地の職業実践高校の料理部の生徒たちに料理を教えました。日本の料理文化を体験してもらうため、彩寿司やきんぴらごぼうなどの和食に加え、ナスを使ったオリジナルデザートも作りました。「とても素敵な交流となりました」と、辻さんは話します。辻さんの願いは、エリザベス市民に日本の家庭料理の魅力や野菜ソムリエとしての活動を広めることと、エリザベス市の若者が、将来北見で食を通じて働くための環境整備です。また、将来の料理教室の開催も楽しみにしています。「今後ともエリザベス市の方々に日本の家庭料理やオリジナルレシピを紹介していきたいと思います」と、辻さんは話します。

2014年姉妹都市提携45周年事業としてエリザベス市の高校で行った日本料理教室。右端が辻綾子さん

姉妹都市提携50周年記念事業

ピアソン夫妻の帰国から91年。北見とエリザベスの両市は大きな発展を遂げています。

姉妹都市提携50周年を迎える本年、北見市では一連の記念事業を行います。親善交流の継続を図ることにより、本市の次代を担う若者の国際感覚育成を目指しています。

まず、両市の行政や議会、経済や教育機関などの関係者の間で、訪問団の相互交流が予定されています。市民レベルでは、ピアソン記念館でのグリーンコンサートや、エリザベス市での日本料理教室や折り紙体験などの芸術・文化交流が行われます。また、幼稚園児の作品交流や中高校生・大学生によるWeb会議など、教育分野での交流も予定されています。病院や大学同士による交流なども計画されており、行政と市民が一体となって記念事業に取り組みます。この事業により、ピアソンが残した大きな功績を振り返るとともに、これからの交流がいっそう発展することを期待しています。

左:エリザベス市長・J・クリスティアン・ボルウェッジ、右:エリザベス市保健福祉部長クリシュナ・ガーリック

左:エリザベス市長・J・クリスティアン・ボルウェッジ、右:エリザベス市保健福祉部長クリシュナ・ガーリック

J・クリスティアン・ボルウェッジ・エリザベス市長は、「北見市との姉妹都市提携は、地域社会の強化につながる異文化体験を通じて、両都市の市民が関係を深め視野を広げる絶好の機会」と述べています。また、クリシュナ・ガーリック・エリザベス市保健福祉部長は、「姉妹都市訪問の調整役であることをとても光栄に思います。特に今年は姉妹都市提携50周年を祝う重要な年です。両都市で行う予定の素晴らしい祝賀行事を楽しみにしています」と、コメントを寄せています。

この記事は、北海道北見市役所から寄稿されたものです。