ウクライナの主権を否定し、ウクライナ人のアイデンティティーと文化を抑圧するロシアの残虐な試みにもかかわらず、ウクライナ国民は日々の暮らしを守る戦いを続けています。

ロシアの「併合作戦」の目的は、ウクライナ市民の生活のあらゆる側面を弱体化させることです。

ロシア政府は9月、2014年にクリミアを併合した時と同じように、ウクライナ4州で見せかけの住民投票を実施、厳しい規制を設けました。でっち上げの投票結果を用い、ドネツク、ヘルソン、ルハンスク、ザポリッジャの併合を試みましたが、国連総会は10月12日、併合を大多数で非難し、違法かつ無効と断じました。

この偽りの住民投票の実施に至るまで、ロシア政府は既に、4州が「ロシアの一部」と言う偽りの主張を拡大しており、学校、雇用、家庭生活に影響を与える厳しい措置を導入しました。同様の措置は、ロシア軍が支配、あるいはウクライナ軍によって解放されるまで一時的に支配していたヘルソン市といったウクライナの他地域でも導入されていました。

学校生活

8月30日にドネツクを襲ったミサイル攻撃で破壊された学校の近くに落ちていた教科書。ユニセフ(国連児童基金)によると、ロシアの侵攻により、2月から6月までの間、300万人の子どもたちが住む場所を失い、200万人以上がウクライナから脱出を余儀なくされた (© Anatolii Stepanov/AFP/Getty Images)

8月30日にドネツクを襲ったミサイル攻撃で破壊された学校の近くに落ちていた教科書。ユニセフ(国連児童基金)によると、ロシアの侵攻により、2月から6月までの間、300万人の子どもたちが住む場所を失い、200万人以上がウクライナから脱出を余儀なくされた (© Anatolii Stepanov/AFP/Getty Images)

ロシアは、ウクライナで強要している教育カリキュラムを「ロシア世界」プロジェクトと呼び、ウクライナ国内のロシア支配地域では、カリキュラムに従わない教員に対して、逮捕や投獄といった形で報復しています。これに抗議し辞職する教師が出てくると、ロシア政府は自国から教員を派遣し不足を補うと発表しました。

また、ロシア政府が設置した公的機関は、ロシアが強要するカリキュラムを提供する学校への通学を拒否する家庭に対して、子どもたちから引き離すと脅してきました。

ロシアが支配する地域の教育制度を置き換えようとする措置は他にもあり、その一例が以下のものです。

  • ロシア政府は、ロシアが占拠するルガンスク、ドネツク、ザポリッジャ、ハルキウ、ヘルソン地域に住む家庭に対して、ロシアが管理する学校に子どもを通わせる保護者に167ドル(1万ルーブル)を支給した。
  • バラクリアに住む教師は、数千冊ものウクライナの教科書を処分するようロシア軍に命令されたが、これらを隠したと証言した。
  • ウクライナ人作家の作品が消え、ロシア人作家の作品に置き換えられることが予想される。

子どもの教育が二の次となり、学校を軍施設へと改修した例も少なくありません。NGOヒューマン・ライツ・ウォッチによると、ロシア兵はイジュムの学校施設で民間人を拘束し、彼らがウクライナ警察や軍で働く人の名前を挙げるまで拷問を行いました。

ロシア軍が軍の病院として使用していたイジュムにある学校体育館を歩く男性。AP通信の9月21日付の記事によると、記者たちは町にある拷問が行われた10カ所の場所を報道し、学校を含む5カ所を取材した (© Evgeniy Maloletka/AP Images)

ロシア軍が軍の病院として使用していたイジュムにある学校体育館を歩く男性。AP通信の9月21日付の記事によると、記者たちは町にある拷問が行われた10カ所の場所を報道し、学校を含む5カ所を取材した (© Evgeniy Maloletka/AP Images)

家庭生活

NGOアムネスティ・インターナショナルは、ロシアの攻撃によりウクライナの発電施設の約40%が壊されていると報告、このような攻撃を戦争犯罪と断じました。

多くの家庭は、停電時に連絡し、寒さをしのぎ、そしてインターネット接続を維持していく上で、電池、発電機、太陽電力を使うことを余儀なくされています。

あるウクライナ兵士はAP通信の取材に、「私たちは国民が安心して暮らせるよう、国のため、子どもたちのために戦っています。しかし、代償はとても大きい」と語りました。

土のうが積まれたスーパーマーケットから出てくる買い物を済ませた男性。10月24日、ウクライナ・ミコライフの中心地にて (© Emilio Morenatti/AP Images)

土のうが積まれたスーパーマーケットから出てくる買い物を済ませた男性。10月24日、ウクライナ・ミコライフの中心地にて (© Emilio Morenatti/AP Images)

厳しい国境警備のため、離れ離れとなる家族もいます。ロシアの「ろ過作戦」の結果、子どもたちが親から引き離され、ロシアへ強制移送され、児童養護施設に収容されたり、養子に出されたりしているとの報告があります。

ロシアはウクライナの民間人に対して、ロシア支配地域から離れる場合、身分証明書、帰ってくる日付、電話のシリアルナンバーの提出を義務付けています。

ロシア支配地域からザポリッジャへと逃れる民間人を支援しているウクライナの政府関係者は、ワシントン・ポスト紙の取材に、「ロシアは正式な国境を恒久的に画定しようとしており、これらはロシア側が導入しようとしている対策」だと述べました。

ロシアが6月から9月まで掌握していたスヴャトヒルシクでは、住民は外出することができませんでした。それがたとえ遺体を埋葬するためであってもです。ロサンゼルス・タイムズ紙によると、親族は愛する家族を隣接する庭に埋葬するしかありませんでした。

仕事

爆撃が始まり、ロシア人兵士が到着すると、農家は所有する農地を手放さなければなりませんでした。畑のあちこちに地雷が埋め込まれたからです。

ウクライナ経済の弱体化を狙うロシア政府は、銀行の支店開設やロシアのパスポート発行を実施し、ルーブルを公的通貨として定めようとしました。ロシア支配地域にいる住民は、働くためにロシア連邦発行のパスポートと運転免許証を取得しなければなりません。

7月、ドネツクのロシア支配地域でロシア連邦のパスポートを受け取るドネツク市民 (© AP Images)

7月、ドネツクのロシア支配地域でロシア連邦のパスポートを受け取るドネツク市民 (© AP Images)

AP通信によると、ロシアはジヴィズカといった場所で、村議会の建物、教会、幼稚園、ダチョウ農場を軍用に徴用し、あらゆる市民活動を妨害しました。住民は検問所に取り囲まれた状態に置かれました。

ジヴィズカだけではありません。ブチャ、オゼラ、バビンシの証言者や生存者は、APと公共放送サービス(PBS)のドキュメンタリー番組「Frontline」の取材の中で、ロシア人兵士は、ウクライナ軍を支援している疑いが少しでもあると判断した住民を拷問、殺害したと語りました。

ワシントン・ポスト紙は、ウクライナ軍が11月にヘルソン市を解放した後、「ウクライナ軍はここ数週間で数十カ所の市町村を解放してきたが、(ヘルソンの)監禁状況はどの場所よりも大規模だった」ことが明らかになったと報じました。

ウクライナに関する国連の独立調査委員会は10月、ウクライナで戦争犯罪と国際人道法違反および人権侵害が行われていたと結論付ける合理的根拠が見つかったと発表しました。

戦闘が激しくなる中でも、多くの住民は断固として抵抗を続けています。イジュムの病院に勤務する医師は、病院の大部分が爆撃を受け破壊されてもなお、患者の治療を続けました。また町の再建に動き出した住民もいます。

イジュム市民の一人はCNNの取材に、「解放を神に祈っていた」と語り、ウクライナ軍による市の解放は「魂の癒し」だと述べました。

バナーイメージ:9月19日、ロシア軍がウクライナ・イジュムで拠点としていた破壊された学校から暖を取るため木材を集める女性。ここは9月初旬にウクライナ軍によって奪還された (© Evgeniy Maloletka/AP Images)

*この記事は、ShareAmericaに掲載された英文を翻訳したものです。