アンジェイ・ズワニエスキー

将来的な交通手段の変革につながりうる文化の変化と新技術

ガスエレクトリック・ハイブリッド車とプラグイン・ハイブリッド車は、最も期待される自動車技術かと聞かれ、ロブ・ファーリントンはしばし沈黙した。答えを知らなかったわけではない。何と言っても、彼はコロラド州ゴールデンにある国立再生可能エネルギー研究所の先進的自動車研究グループのリーダーなのだから。彼が答えをためらったのは、この質問が問題の本質を突いていないからだ。

「輸入原油への依存と、気候変動の問題に対する最も期待される解決策は、車以外の交通手段の利用の促進だ」と彼は答えた。

自転車のような?

そう、自転車、徒歩、車の相乗り、テレコミューティング(情報通信機器やシステムを利用した在宅勤務)は全て、解決策のひとつだ。

「これらはインフラがすでに整備されており、追加費用はかからない」とファーリントンは言う。

しかし、とりわけ彼が意味していたのは公共交通機関である。

「技術的な解決策ではないので、時代の最先端を行くわけではないが、公共交通機関の利用促進についてできるだけ早く真剣に検討する方が良い」と彼は述べた。

ピッツバーグで建設中の地下鉄路線は、米国各地の都市で進められている公共交通プロジェクトの一例である(© AP Images)

「米国の温室効果ガス排出量を2005年比で14%削減し、自動車の燃費向上を通じて石油消費量を18億バレル節減する」。オバマ大統領が2020年に向けて設定したこの意欲的な目標を達成するには、先進的な自動車技術、公共交通機関の充実など、車の運転に代わる交通手段を組み合わせる必要があると大半の専門家は考えている。米国では乗用車と軽トラックが石油需要の45%近く、また地球温暖化を促す温室効果ガス排出量の17%を占める。

公共交通機関を自動車に代わる実効性ある通勤手段とするには、多くのインフラ投資が必要となる。連邦議会は今年、運輸関連法案を審議するが、その際に公共交通機関のインフラ整備の予算を大幅に増加すると思われる。だが運輸関連プロジェクトの完了にはかなりの時間を要する。

オバマ大統領が特に力を入れるプラグイン・ハイブリッド技術について、2015年までにこの技術を利用した車100万台の普及をホワイトハウスが目指しているにもかかわらず、今後数十年間に市場に大きな影響を与える可能性は低いというのがアナリストたちの見解である。

ファーリントンによれば、現在販売されている車が全てハイブリッド車かプラグイン・ハイブリッド車だとしても、米国の全乗用車をこうしたハイブリッド車に取り替えるには15年かかる。ハイブリッド車が市場に出て10年近くたつが、今でも新車販売台数の3%しか占めていない。さらに米国自動車工業会のデーブ・マッカーディー会長によると、自動車メーカーはまだハイブリッド車で利益を上げるに至っていない。

燃料節約と排ガス削減を最短期間で最大限に達成するには、従来型のガソリンエンジン車の改良と車の運転を控えることに重点を置くべきだと専門家は言う。

しかし自動車技術を研究してきたマサチューセッツ工科大学のジョン・ヘイウッドによると、政策決定者たちは交通手段の「変革」と「変革を起こす」技術を論じたがる。

「政治家は(車の)『改良』や(燃料の)『節約』からは『変革』という言葉が持つほどの刺激を感じない」と彼は言う。

大半のアナリストは先進的な自動車技術の研究を加速すべきという点で一致しており、オバマ政権によるこうした研究への多額の資金拠出を高く評価している。しかしファーリントンは、技術だけを重視すると、公共交通機関の利用拡大と、大量輸送拠点を中心とした、より小規模な、歩きやすい地域社会の形成に必要な文化的転換が促進されないと警告する。

マッカーディーは2009年6月18日の公開の会合で、エネルギー・運輸問題に対する包括的で一貫した国家戦略の欠如が問題の一因であると述べた。

米国運輸省のべス・オズボーン次官補代理はこれより先、同じく6月に開かれた別の会合で、オバマ政権は上記のような戦略の策定に積極的に取り組んでいるが、関連する問題の異なる側面についてさまざまな政府機関が権限を有しており、こうした政府機関を隔てる官僚制度の壁の打破という難しい課題に直面していると語った。

家庭ゴミから生産したエタノールで車を走らせることは可能だが、廃棄物を燃料化した場合の最終的なエネルギー面でのメリットについては不明である(© AP Images)

こうした戦略の策定への取り組みは、エネルギー安全保障の強化と地球温暖化の削減という2つの目的が必ずしも両立しないため、複雑さを増している。例えば米国は、自国とカナダでの重油生産の促進により、安定した燃料源の幅を拡大し、エネルギー安全保障を強化できる。しかしこのような生産はエネルギー集約的で、環境に悪影響を及ぼす。

わずか数年前には、バイオ燃料(主にエタノール)が米国のエネルギーと気候変動問題の両方の解決策とみなされていた。連邦議会は2007年、安全保障面での懸念からバイオ燃料の生産を5倍に増加するよう義務づけた。連邦議会は現在、2015年までに新車の少なくとも80%が、バイオディーゼル、あるいはエタノールとメタノールの混合燃料を動力源とする車となるよう義務づける法案を審議中である。自動車メーカーは2013年までに生産する自動車の半数にこの機能を持たせると約束している。

しかし多くの調査結果では、バイオ燃料、特にトウモロコシを原料とするエタノールの利用が最終的に気候にプラスの効果をもたらすことが疑問視されている。

ヘイウッドは、これらの調査結果によって自分たちが「さらに慎重になった」と言う。

 だからこそ彼とファーリントンは、気候に与える利点がより明らかと思われるセルロース系バイオマスを原料とした次世代バイオ燃料の「極めて積極的な」開発を推奨している。


最終的に燃料節約に貢献するのは先進的自動車

短期的には従来の自動車の改良が最大の燃料節約をもたらす

 環境に対する意識がより高いのはどちらでしょう。大型スポーツ用多目的車(SUV)を所有する人でしょうか。それとも小型車の所有者でしょうか。これはロブ・ファーリントンが講演の際に聴衆に問いかける質問である。その答えは――「場合による」である。

平日はバス通勤し週末だけ車を運転するSUVの所有者の方が、毎日車で通勤する小型車の所有者よりもガソリン使用量、温暖化ガス排出量のいずれも少ない。コロラド州ゴールデンにある国立再生可能エネルギー研究所で先進的自動車グループを率いるファーリントンは、職場までの5.6キロメートルの道のりを通常は徒歩か自転車で通勤し、必要な場合だけ1988年型日産セントラ(「サニー」の北米市場向けモデル)を運転する。

2008年と2009年に開催された水素ロードツアーは、自動車メーカーが自社の水素自動車を紹介する機会となった (© AP Images)

しかし彼は、車による石油燃料の消費と排出ガスの削減法についての議論では、答えは簡単に出ないと考えている。重要なのはドライバーの行動である。オークリッジ国立研究所のデービッド・グリーンによれば、一般的なドライバーの場合、不要なアイドリングを避ける、車から不要なものを降ろして車の重量を軽くするなどの常識的な行動の実践により、燃費を約10%向上できる。

技術は輸送の問題について単純明快な解決策をもたらさない。マサチューセッツ工科大学(MIT)が2008年に実施した自動車技術に関する主要な調査の報告書は、「しかし」や「もし」や「または」など異論や条件付きの記述で満ちている。しかしアナリストたちは、技術的進歩がこうした問題の解決に大きく貢献できると言う。

MITの調査は、今後20年間では、燃費節約と排出量削減について、エンジンの燃焼やエアコン装置の改善など従来の車の内燃機関とトランスミッション・システムの改良に最大の可能性があると結論づけている。

車両の軽量化、空力抵抗や転がり抵抗の低減によって、全ての自動車の性能が大幅に改善できるとファーリントンは言う。

MITの調査によると、中期的にはガスエレクトリック・ハイブリッド車が「有望」である。また投資銀行のJPモルガンは、ガスエレクトリック・ハイブリッド車が自動車の総売上高に占める割合は、2020年までに現在の3%から20%近くまで増加すると予測している。この調査によると、改良した従来型のガソリン車およびディーゼル車と、ガソリンエンジンのハイブリッド車を組み合わせ、米国は今後20年から30年の間に、乗用車と軽トラックの新車の燃費を30~50%向上できる。

家庭やガソリンスタンドで充電が可能なプラグイン型のガスエレクトリック・ハイブリッド車は、電気エンジンを動かすリチウムイオン電池の容量が大幅に増え、コストが著しく下がるまで、商業的に成功する可能性が低いとアナリストたちは言う。こうした開発には何十年もかかるそうだ。水素燃料電池自動車や全電気式自動車が自動車の主流となるのは、さらに遠い先のことであろう。

オバマ政権はより近い将来に向け、自動車メーカーが現行の法律で義務づけられた時期よりも4年早い2016年までに、1ガロン当たり約57キロメートルの企業平均燃費(CAFE)基準を達成すべく努力するよう奨励している。政府関係者によると、これによって二酸化炭素排出量が30%削減され、燃費を現行比で40%向上できる。

電気駆動技術の試験を支援するエジソン電気自動車技術センターを視察するオバマ大統領(2009年3月) (© AP Images)

米国自動車工業会のデーブ・マッカーディー会長は、どのメーカーも売り上げが落ち込み、米国の自動車メーカーが生き残りをかけて闘っている時期にコストがかかることを主な理由として、この目標は「極めて達成が難しい」と言う。しかし政府も資金を提供している。オバマ政権は2009年6月下旬、より燃費に優れた車の計画的な生産を支援するために、2007年に連邦議会が創設した融資プログラムを通して自動車メーカー3社に80億ドル融資した。

自動車メーカーが必要な技術の開発に成功したとしても、より高い金額を払ってまで「より環境に優しい」車を買う意思が消費者にあるかは分からない。政府関係者によると、平均的な車の場合、CAFE基準を満たすとコストは1300ドル高くなる。より先進的な技術を使った車の場合は、コストはさらに高くなるであろう。プラス面としては、ガソリン価格次第ではあるが、購入者は燃料の節約により追加コストの一部あるいは全部を徐々に回収できるだろう。

今のところ燃費は車の購入者にとって優先事項ではなく、燃費向上のための大きな支出に消極的である。消費者がハイブリッド車などのより小型で低燃費の車に強い関心を示したのは、2008年前半にガソリン価格が大幅に急騰した時だけである。

一部のアナリストは、炭素系燃料の最低価格を設定するガソリン税の引き上げを提案している。この提案については、低燃費車への移行が必要かつ不可避であると消費者に納得させる手段として、自動車業界が支持しているが、これまでのところ政治的には受け入れられない状況が続いている。

MITの機械工学部の教授で、前出の調査報告書を共著したジョン・ヘイウッドは、政府もメーカーも、低燃費車の潜在的購入者向けに購入条件をより魅力的にできると言う。政府はすでに「環境に優しい」車の購入に対する税金の払い戻しと、燃費の悪い車から低燃費の車への買い換えを対象にバウチャーを発行している。また今後、他の奨励策を検討する可能性もある。メーカーは主にさらなる車のコンピューター化により、安全性と運転しやすさを向上させ、自動車をより魅力的にすると約束している。

MITの調査報告書の全文は、MITのウェブサイトから入手可能。

アンジェイ・ズワニエスキー

米国国務省スタッフライター