鈴木実桜 在日米国大使館 報道室インターン

2月2日、米国大使公邸で映画「オデッセイ」(原題:「Martian」)の試写会が開催された。この映画は、火星に置き去りにされた宇宙飛行士の地球帰還までの奮闘を描いている。主人公のマーク・ワトニーは火星でのミッション中に嵐に巻き込まれ、事故に遭う。他のクルーはワトニーが死亡したと思い、彼を残して地球へ帰ってしまう。火星に一人取り残されたワトニーは、次の火星探査船が来るまで生き残ろうとサバイバル生活を始める―というストーリーだ。宇宙という空間では人間がいかに小さな存在か、宇宙では何を信じ、どう判断すればいいかを考えさせられる内容だ。

2016年2月2日米国大使公邸にて開催された映画「オデッセイ」の試写会の様子

2016年2月2日米国大使公邸にて開催された映画「オデッセイ」の試写会の様子 © 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation

試写会の後、ゲストとして招かれた山崎直子宇宙飛行士、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の野口聡一宇宙飛行士、米国航空宇宙局(NASA)のクリス・キャシディ宇宙飛行士およびマイケル・フォッサム宇宙飛行士と、学生45人による質疑応答イベントが行われた。宇宙飛行士たちの答えから見えてきたもの―それはチームワークの大切さだ。

学生から宇宙のミッションについての質問を受けるゲスト宇宙飛行士の4人

学生から宇宙のミッションについての質問を受けるゲスト宇宙飛行士の4人© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation

ISSは国際協力の手本

人類が初めて月に着陸したころ、宇宙は国同士の技術競争の場であり、国家間の協力はなかった。しかし今は全く違い、さまざまな国が協力して宇宙開発に取り組んでいる。国際宇宙ステーション(ISS)はその象徴であり、世界中の技術が詰まっている。「ISSは素晴らしい。なぜなら1つの目標に向かって各国が一丸となって取り組んでいるからだ」とフォッサム宇宙飛行士は言う。これこそ真の国際協力ではないだろうか。

国際的な宇宙開発の重要性について語るNASAフォッサム宇宙飛行士

国際的な宇宙開発の重要性について語るNASAのフォッサム宇宙飛行士 © 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation

宇宙飛行士に求められるもの

宇宙飛行士に求められるものとして野口宇宙飛行士が挙げたのは、困難を乗り越える力になる「宇宙に行きたい」という思い、問題が起きたときに一人で抱え込まずチームメートと共有し、相談して解決するためのコミュニケーション力、そしてチームメートと過ごす時間を楽しむ能力だった。また山崎宇宙飛行士は「宇宙飛行士には多様なバックグラウンドを持った人がおり、お互いを尊敬することが強いチームをつくることにつながる」と語った。

この話から、宇宙飛行士に求められるのは「一人で何ができるか」よりも「チームのために何ができるか、チームとして任務に取り組めるか」ということだと思う。チームメートを尊重し、チームの中で何が自分にできるのかを考える。ここにチームワークのあり方が表れている。

宇宙でのチームワークのありかたについて語る山崎宇宙飛行士

宇宙でのチームワークのありかたについて語る山崎宇宙飛行士 © 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation

試練を乗り越えるカギはチームワーク

当たり前だが、宇宙は地球とはまったく異なる空間である。地球での常識は通用しないし、判断を間違えれば命の危険さえある。映画の中にもあったが、一人を救うのか、チームを守るのかを選択しなければならない場面もあるかもしれない。そういったときにどのように判断するのか。

キャシディ宇宙飛行士は「そのときの状況・情報をもとに判断するしかない。映画の中ではクルーを一人残すという難しい決断をしたが、あの状況であれば自分も同じ判断を下しただろう」と語った。また野口宇宙飛行士は、彼が搭乗したスペースシャトル「ディスカバリー号」の船長が言った「チーム全員で地球に戻ってくることができれば、私は幸せだ」という言葉が忘れられないと語った。そして「宇宙へ行くには準備をしてくれているチームが必要で、一人では宇宙に行くことはできない」と付け加えた。ディスカバリー号が宇宙へ行ったのは、大気圏再突入時に空中分解した「コロンビア号」の事故の2年後だった。そのことを考えるとこの言葉の重みは計り知れない。宇宙という空間に行き、ミッションを成功させ、地球に戻るには多大な試練がある。その試練を乗り越えるカギがチームワークだ。それは宇宙飛行士だけでなく、宇宙へ飛び立つ前にさまざまな事態を想定して訓練してくれるトレーナーから、宇宙服を作る技術者まで、関係者すべてのチームワークである。

ミッション成功への鍵はチームワークと語る野口宇宙飛行士

ミッション成功への鍵はチームワークと語るJAXAの野口宇宙飛行士 © 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation

宇宙から見た地球

競争の場であった宇宙は今、国際協力の手本となっている。国境や人種といった壁を越え、宇宙開発の進展という1つの目標に向かって、世界各国の宇宙飛行士たちはミッションを遂行する。国境を越えたチームとして活動する宇宙飛行士たちと、それを準備段階から支える地上の技術者たち。多くの人々が気持ちを1つにすることができるのはなぜか。

私はひとえに宇宙という空間がなせる技なのではないかと思う。なぜなら宇宙への憧れは世界共通のものだと思うからだ。夜空を見上げた時に感じた「いつかあそこへ行ってみたい」という気持ちは、誰もが感じたことがあるだろう。

宇宙での体験から得た世界観について語るNASAキャシディ宇宙飛行士

宇宙での体験から得た世界観について語るNASAのキャシディ宇宙飛行士 © 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation

宇宙に行く前と後で何が変わったかと聞かれ、キャシディ宇宙飛行士は「この70億人の暮らす地球を守ろうと思うようになった」と答えた。宇宙から見れば地球は1つ。そんな光景を目の当たりにした宇宙飛行士たちの世界では、意識せずとも国際協力が実現されているのかもしれない。同じ地球に住む者、さらには宇宙を志す者という共通点が、宇宙開発での国際協力を支えているのではないだろうか。

映画「オデッセイ」予告C(20世紀フォックス映画 公式YouTubeチャンネル