国務省の海外建築物管理局(OBO)は、5月の全米保存修復月間中、海外にあるアメリカの歴史的建築物に敬意を表しています。

OBOの役割は、国務省の外交政策達成のため、安全で頑丈、かつ機能的で耐久性のある米国政府を象徴する施設を提供することです。

この組織は、海外289カ所にある建築物を管理しています。その中でも在日米国大使館では、大変ユニークな保存修復計画が実施されています。

庭園の奥から望む噴水と大使公邸

庭園の奥から望む噴水と大使公邸

1923年の関東大震災で東京が甚大な被害を受けた後、国務省は大使館の施設を再建し、東京における外交の範囲を拡げることにしました。

米国政府は、新しい米国大使館、大使公邸、職員宿舎の設計を建築家アントニン・レーモンドとハロルド・ヴァン・ビューレン・マゴニグルに依頼しました。公邸や付随する施設の設計図が提出されたのは1928年のことです。

マゴニグルは、敷地のレイアウトと一巡する通路の設計図を描き、大使公邸の東側には円形の噴水を特徴とする一段下がった庭園を配しました。噴水の底面には、さまざまな形状や大きさの陶器のタイルが敷き詰められ、外周に行くにつれ濃い色のタイルが使われました。中央には蓮の花の形をしたブロンズの水盤が配置されました。今日現存するのは、大使公邸と庭園のみです。

OBOの文化遺産室(CH)は、文化遺産に関する教育、その維持管理や保存を通して、アメリカの歴史や建築物の保存修復に努めることを使命としています。これには、考古学的な遺跡、景観、建築物、美術品などの文化遺産が含まれます。2017年、CHのチームは、大使公邸の景観を復元するための保存修復プロジェクトをスタートさせました。噴水から水は噴き出るものの、底面のタイルやブロンズの蓮の花は修復が必要でした。この芸術的な噴水を保存修復することは、公邸の玄関に施された金属細工や庭園の木製ベンチの保存修復と共に不可欠でした。噴水に関しては、CHの修復技術者らが現地の職人らと共にタイルとブロンズの修復計画書を作成しました。

大使公邸の正面玄関にあるブロンズの紋章に緑青とワックスをかける修復技術者のローレン・ホール

大使公邸の正面玄関にあるブロンズの紋章に緑青とワックスをかける修復技術者のローレン・ホール

噴水のタイル。修復前(左)と修復後(右)

噴水のタイル。修復前(左)と修復後(右)

プロジェクト中、蓮の花の水盤を鋳金協同組合の方々に調査してもらった結果、鋳物師の山崎寅蔵の作品であることが判明しました。さらに大使館職員によって、山崎寅蔵の2人の孫娘を探し当てることができ、故人となった祖父の記念碑的な作品を現地で見てもらうことができました。この山崎の傑作は公邸の敷地内にあったため、これまで彼女たちがそれを目にすることはありませんでした。第2次世界大戦中、金属類は戦争のため供出されましたが、この水盤は大使館の敷地内に設置されていたために、供出を免れ残されました。たいへんユニークな保存例です。

山崎寅蔵の家族は、1993年まで続いた山崎の会社が水盤製作の発注を受けたことは知っていたものの、このブロンズの蓮は戦争中に溶かされてしまったものと思っていました。山崎は半年かけてこの450キロもあるブロンズの水盤製作に取り組んだそうです。戦間期の日本を生き残ったこのブロンズ彫刻を保存修復するプロジェクトは、家族からの詳しい話により大きな影響を受け、この文化的な場に立つ作品に鋳物師の名を復活させることができました。

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噴水のブロンズの水盤とタイルの復元作業は、2018年に完了しました。米国大使館がモダニズム建築へと生まれ変わる設計図が承認されてから80年後のことでした。日本の文化・芸術の素材やシンボルが合わさることで、この直線的なモダニズム建築に柔らかさが加わりました。山崎寅蔵の後継者らは、偶然の出会いによって、関東大震災後に大使公邸に製作された蓮の彫刻の水盤を始めとする美術品に新たな光をあてることになったのです。

「OBOとCHは、世界中にある米国大使館や領事館の保存修復に力を入れているだけでなく、そのプロセスで、歴史を形成し、また保存修復活動と現在の社会風潮との橋渡しとなるユニークなストーリーを発見することにも情熱を傾けています」とOBO局長のタッド・デービスは言います。「国務省の歴史的・文化的に重要な施設の豊かな歴史を振り返る時、在日米国大使館の大使公邸や、世界中にあるその他多くの知られざる素晴らしい建築物や文化遺産、そしてそれら一つ一つの保存修復作業に休むことなく取り組んできた人々を思い起こします。私達は、全米保存修復月間中だけでなく、日々誇りを持って、この保存修復活動に取り組んでいます」

大使公邸内の螺旋階段

大使公邸内の螺旋階段

今年は国務省のセクレタリーズ・レジスター(重要文化建造物の登録簿)の作成開始から20周年にあたり、来年は米国政府が初の在外公館として「タンジール・オールド・レゲーション(モロッコ・タンジールにある旧公使館)」を取得してから200年を迎えます。

OBOのCHや国務省のセクレタリーズ・レジスターに関する詳しい情報はこちらをご覧ください。

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この記事は、ブログ「アドベンチャーズ・イン・プリザベーション」に掲載された以下の記事を翻訳したものです。

Adventures in Preservation. “State Department's Bureau of Overseas Buildings Operations Restores Components of U.S.” Medium, Adventures in Preservation, 25 May 2020, medium.com/adventures-in-preservation/state-departments-bureau-of-overseas-buildings-operations-restores-components-of-u-s-deff2e0aff61.

アドベンチャーズ・イン・プリザベーション(AiP)は、世界の建築遺産の保存修復活動を目的としたボランティア休暇を提供する組織です。非営利団体としてAiPは、人々と保存修復活動を豊かな体験型旅行や実践的教育を通じて結び付けています。AiPは、歴史的建造物を愛し、世界を旅し理解を深めることに強い思いを持つ2人の女性によって2001年に設立されました。世界中から支援したいという声が届くようになり、歴史的建造物をボランティアで修復してもらうということに大きな可能性を示しました。この実践的な保存修復プロジェクトは、地域社会の環境および経済的持続可能性に貢献しています。