毎年9月の第1月曜日は「労働者の日」です。アメリカの多くの労働者たちがゆっくりと過ごすための日であり、全ての労働者が労働者権利の重要性を考える日でもあります。

新型コロナウイルス感染症が拡大している今年は特に、アメリカの活力維持に貢献しようと奮闘する労働者たちをたたえる良い機会となりました。教育現場で働く人、医療従事者、人々の日々の暮らしを支える必需品を提供する人たちの仕事ぶりを紹介します。

誰かを「気遣う」仕事

郵便配達員のジェームズ・ダニエルズさん。配達の途中で昼食をとる (© Irfan Khan/Los Angeles Times/Getty Images)

郵便配達員のジェームズ・ダニエルズさん。配達の途中で昼食をとる (© Irfan Khan/Los Angeles Times/Getty Images)

郵便公社で働くジェームズ・ダニエルズさん(58歳)は、制服に着替えて仕事に出かける前、常に祈りを捧げます。16年間、カリフォルニア州サンクレメンテを担当、808人の顧客に郵便物を届けてきました。請求書、薬など必要な品を届けてくれるダニエルズさんは、住民にとってなくてはならない存在です。

「私が郵便受けに入れるのは彼らの生活」。ダニエルズさんは、配達の仕事は「気遣う」仕事と言います。

新型コロナウイルスで日常生活が変わった今、ダニエルズさんの仕事は普段よりも忙しくなっています。在宅勤務や隔離令のため自宅にいることを余儀なくされた人たちに、たくさんの荷物を届けているからです。配達する荷物の中には、マットレス、家具やキャスター付きテーブルなど大型の物もあります。

ダニエルズさんの仕事は増えていますが、彼はそれらを「良い仕事」と言います。「私が思う『良い仕事』とは、人の役に立つ仕事で、みんながコロナを乗り切れるよう手伝うことができる仕事です」

ダニエルズさんは、安全に仕事をするため郵便車を消毒剤できれいにしています。配達中にはマスクと手袋を着用、業後のシャワーと制服の洗濯は毎日欠かしません。

ダニエルズさんの配達地区の住民もまた彼を気遣っています。配達中のダニエルズさんが十分に水分を取れているかを心配する住民から水やスポーツドリンクの差し入れを受けることもあります。また使いきれないほどの多くのマスクの差し入れを受け、丁重に断るようにもなりました。そんな中、彼は1枚のマスクを受け取りました。長年の女性顧客から受け取ったもので、郵便車が刺繍された手作りマスクです。「彼女から私のことが心配でこのマスクを作ったと聞かされました。彼女は本当に世界一素晴らしい人だよ」とダニエルズさんは言います。

必要なのは創造力

ケンタッキー州ゴーシェンのセント・フランシス学校。2年生を担当のジョアン・コリンズ・ブロック教員が誰もいない教室からリモート授業を行う (© Andy Lyons/Getty Images)

ケンタッキー州ゴーシェンのセント・フランシス学校。2年生を担当のジョアン・コリンズ・ブロック教員が誰もいない教室からリモート授業を行う (© Andy Lyons/Getty Images)

小学校教員のジョアン・コリンズ・ブロックさん(54歳)は、感染拡大の中でも学びを止めることはありません。そんな彼女を助けているのは、ゴキブリ、クジャクの羽の髪飾り、自身の等身大パネル、そしてたくさんの創造力です。

ブロックさんはケンタッキー州ルイビル近隣の町、ゴーシェンにあるセント・フランシス学校の2年生にランゲージ・アーツ(言語技術)と社会科を教えています。今年初めに授業が次々とオンライン化されると、370人の生徒に新しい決まりを教える仕事が加わりました。ブルックさんは、騒がしい生徒に音声をオフにするよう常に注意なければなりませんでした。

ブロックさんは学校に行き、自分のカメラを使って子どもたちが慣れ親しんだ教室を撮影し、学校に行けなくてさみしい思いをしている子どもたちに見せてあげました。リーディングの授業では、練習問題だけでなくゲームも行って授業をしました。また、子どもたちに靴下に飾りをつけさせ人形劇を行う工夫も凝らしました。

教師歴18年のブロックさんは、「とにかく何よりも必要とされたのは創造力」と言います。2年生の子どもたちはオンライン授業が終わってもなかなかサインオフしません。そこでカメラ越しにみんなで一緒にランチを食べるようになりました。

ブロックさんは、中には社会とのかかわりや社会からのサポートが不足している子どもがいると心配します。それでも、「友だちとかかわることは心の支えになります」と言います。子どもたちの家庭もブロックさんを応援してくれています。ある生徒の母親は等身大のブロックさんよりも大きいパネルを作り、子どもたちがそのパネルと写真を撮れるよう計らってくれました。

ブロックさんのクラスのペットは、カマキリの一種、マダガスカルゴキブリです。このペットは、昆虫のライフサイクルの授業や昆虫嫌いの克服にとても役立っています。2年生が行う毎年恒例の「ゴキブリレース」は、ケンタッキーダービーが開催される週の木曜日に行われます。(子どもたちは有名人の名前をもじってゴキブリに面白い名前をつけます。今年は有名な歌手、州知事や最高裁判所判判事、ルース・ベイダー・ギンズバーグの名前にちなんだものもありました。)

本物のケンタッキーダービーは延期となりましたが、セント・フランシス学校の「ゴキブリレース」は、クジャクの羽がついたトルコブルーの羽帽子をかぶったブロック先生の号令の下、クラス内に設置した競技場で開催されました。「チャーチルダウンズ競馬場でレース開催を宣言するように、ゴキブリレースの開催を宣言しました。実況だって、『現在コーナーを曲がり、先頭に立つのはローチ・ベイダー。触覚分リードしています』という風に行いましたよ」(ブロックさん)

他の教師同様に、ブロックさんも学校に戻る準備を進めています。フェイスシールドと口元が見える透明なマスクを注文済みです。先生の笑顔は子どもたちのやる気を高めてくれますし、また反対に騒がしいことを注意されている時も先生の表情を見ることは大切だからとブロックさんは言います。「そうすることで、子どもたちは先生の表情から気持ちを感じ取ることができます」

私たちは無事

ワシントンDCのアーニーズ・パラマウント・ステーキハウス。休業中の4月に店舗でトイレットペーパー販売のため品物を並べるサラ・リバスさん (© Manuel Balce Ceneta/AP Images)

ワシントンDCのアーニーズ・パラマウント・ステーキハウス。休業中の4月に店舗でトイレットペーパー販売のため品物を並べるサラ・リバスさん (© Manuel Balce Ceneta/AP Images)

経済活動が最初に止まった時、サラ・リバスさんは、夫、9歳の娘、2歳の息子とより多くの時間を過ごせるとうれしく思っていました。しかし、ワシントンDCのアーニーズ・パラマウント・ステーキハウスの仕事から離れ、自宅待機を余儀なくされている時間は「本当に退屈」だったと言います。

レストランが6月に再開すると、彼女は仕事に復帰、下準備シェフ、そして時には接客担当して働いています。常連のお客さんも戻り、同僚も職場に戻りつつあります。「仕事があるのはありがたいこと」とリバスさんは言います。建設業界で働く夫は勤務時間が削減されました。でも「私たちは全員無事よ。神様のおかげね」(リバスさん)

「すべてが前と同じではありませんが、私たちは元気にやっています」とリバスさん。レストランには12年間勤務しています。「私たち全員が(新しい)ルールを守っています」

マスク、手袋の着用、そしてトイレットペーパーの販売。レストランの新たな日常光景です。

災い転じて福となす

作物に水をやるシエナ農園経営者のクリス・カースさん (© Jessica Rinaldi/The Boston Globe/Getty Images)

作物に水をやるシエナ農園経営者のクリス・カースさん (© Jessica Rinaldi/The Boston Globe/Getty Images)

農業経営者のクリス・カースさん(45歳)は、長年休みを願うほど「シエナ農園」のため懸命に働いてきました。農場経営では、収益を経営に再投資できる年もあれば、そうでない年もありました。

そんな時に新型コロナウイルス感染症の打撃を受けました。14歳の娘は学校が休校となり、友達に会うことができなくなりました。有名な料理家の妻、アナ・ソージュンはボストン地区にある3軒のレストランを休業、テイクアウト店舗に変えました。必然的に野菜の購入が減少しました。

「あの時はピンチをチャンスにつなげようとしていた時期だったと思います」とカースさんは振り返ります。マサチューセッツ州サドベリにある「シエナ農園」の名前は、娘のシエナにちなんでつけました。

自炊することが多くなった人たちは、スーパーに行っても食材が手に入りにくい状況へイライラがつのるようになりました。そんな折、定期購入を契約した顧客に直接新鮮な農産物を届けるシエナ農園の「住民農業サポートプログラム」のうわさが広まり、登録が殺到しました。いつもの年であれば、400人ほどの顧客に野菜を配送していましたが、今年は1700世帯が登録。カースさんは近隣の農家から焼き立てのパンやイチゴジャムを購入し対応を急ぎました。また、栽培する作物数を増やし、配達や効率を上げるための機材も購入しました。

7月末には、カースさんの収入は2019年比で3倍増加しました。ビジネス全体に占める地域内取引の割合は9割となり、コロナ前に比べて33%も増えました。カースさんは、多くの企業が経営難に直面している中、自分たちは特に幸運だと感じていると言います。この困難な時期は結果的に、農園を彼が長年望んでいた方向へと導いてくれたからです。また地元の顧客への配達サービスにより農場経営を支えられるようになっています。

「本当に夢が実現しました」とカースさんは言います。

バナーイメージ:カリフォルニア州フラートンにあるセントジュード病院。コロナ病棟で夫の看病をする女性を慰めるミシェル・ヤンキン看護師 (© Jae C. Hong/AP Images)