レノア・アドキンス

年間およそ200億ドルの収入を犯罪組織にもたらす野生動物の違法取引に対して、アメリカ政府が圧力を強めています。

野生動物の違法取引撲滅を目指す大統領直属タスクフォース(2015年に設置)は、法執行の促進、国際協力の構築、野生動物やその部位への需要削減という3本柱からなる戦略を発動しました。司法長官、国務長官、内務長官が共同議長を務め、17の連邦機関が野生動物の違法取引撲滅を目指す国家戦略を実施しています。

2019年版「野生動物違法取引の撲滅・無力化・阻止報告書」によると、アメリカ政府は2018年に、世界各地の野生動物の違法取引対策として1億2200万ドルを拠出しました。

ミャンマーの漢方薬店に積まれた希少ヤマネコの毛皮と他の動物の部位 (© Romeo Gacad/AFP/Getty Images)

ミャンマーの漢方薬店に積まれた希少ヤマネコの毛皮と他の動物の部位 (© Romeo Gacad/AFP/Getty Images)

国務省海洋・国際環境・科学局のロウィナ・ワトソン氏は、「政府は戦略の道筋策定で省庁横断型アプローチを導入し、野生動物の国際的な不正取引阻止に取り組む」と述べています。

何が問題か

米国国際開発庁(USAID)で野生動物問題上級アドバイザーを務めるメアリー・ローウェン氏は、世界各地から象徴的な種が消滅すれば、観光業は打撃を受け、持続的な発展のため資源を必要する国々への影響は避けられないと指摘します。「野生動物が消滅してもいい理由など全くありません。多くの人が影響を受けることになります」

センザンコウ、ゾウ、サイといった保護種への需要は、違法取引や金儲けのための取引の横行を招いています。需要はアジアで高く、特に中国では購買力旺盛な中産階級の台頭から、希少動物への需要が高まっています。国務省で野生動物保護チームを率いるワトソン氏は、「中国は問題の根源」と指摘します。

アフリカゾウやサイの違法取引はさまざまな面で地元住民に悪影響を与えています。汚職が横行し、法の支配が弱まり、保護活動に懸命に取り組んだ結果得られた成果が無に帰しています。このような犯罪行為は、地域社会から天然資源や生活を奪うことにつながるとワトソン氏は説明します。食料用に捕獲されたセンザンコウ、霊長類種、ネズミ、コウモリといった他の動物は、病気を運び、それにヒトが感染し、村中ひいては世界中で広まる可能性があります。

人間の爪と同じタンパク質から構成されるサイの角は粉末化され、アジアでは古くから薬として重用されています。また、宝石類に加工され富裕層の贅沢品としても販売されています。世界自然保護基金(WWF)によると、最近のある年には、南アフリカだけで508頭のサイが殺されています。

アフリカゾウも犠牲になっています。WWFによると、毎日約55頭のゾウが殺されています。彫刻やブレスレットなど芸術品への加工を目的とした象牙を採取するためです。ゾウの堅い皮は足置きスツールに加工されることもあります。

WWFの報告書によると、2019年にうろこ売買のため違法取引されたセンザンコウの数は推定19万5000頭に上ります。センザンコウはアフリカとアジアに生息し、その肉は中国やベトナムでは珍味とされています。センザンコウのうろこは母乳の出をよくする、また特定の病気に効果があると言われていますが根拠はありません。

密猟者から保護されたセンザンコウ。ヨハネスブルクの野生動物保護病院で手当てを受けている (© Denis Farrell/AP Images)

密猟者から保護されたセンザンコウ。ヨハネスブルクの野生動物保護病院で手当てを受けている (© Denis Farrell/AP Images)

解決策

野生動物の違法取引に関する大統領タスクフォースに参加する政府機関は、撲滅に向け以下の取り組みを実施しています。

  • 法施行の強化 政府機関は、禁止措置、執行、訴追を含む刑事司法対応策の強化に取り組んでいる。国務省は、野生動物の違法取引を重大な国際犯罪かつ国家安全保障の脅威と見なしている。違法取引の撲滅にむけ、諸外国への支援を実施している。USAIDと国務省は検察官と協力して、訴追などの執行制度に関する能力強化に取り組んでいる。「訴追制度を改善する真の目的は、違法取引の首謀者を突き止めることにある」(USAID・ローウェン氏)
  • 国際協力の構築 国務省は首脳レベルでの約束を取り付ける外交を展開し、リスクの高い野生動物の取引市場の閉鎖、汚職撲滅、密輸による汚れたお金の流入阻止を行う。USAIDは動物やその部位の空輸を減らすため航空業界と連携している。
  • 需要削減 政府は在外公館を協力し、世界各地で広報活動を行い、病気まん延との直接的な関係など野生動物の取引がもたらすリスクの啓蒙活動を実施。USAIDは中国、タイでの初期調査を用い、誰が何の目的でどのような野生動物製品を購入しているかを突き止める調査を実施した。その調査結果から得られた教訓およびベトナムで現在実施している調査から、USAIDは他の政府機関、非政府組織、販売業者と連携し、消費者動向を変える広報活動を展開している。

バナーイメージ:ケニアのナイロビ国立公園で燃やされる象牙の山。政府は保護種の密輸品撲滅に向け強い声明を発表した (© Ben Curtis/AP Images)