カリン・ライブス 米国国務省スタッフライター

公共交通機関を備えた歩きやすい地域に移り住む人々
車と郊外の広い住宅を愛する人々が住む米国で、珍しい現象が起きている。

都心の良さを再発見し、職場や遊ぶ場所の近くに移り住む米国人が増えている。この傾向は公共交通機関、学校、公園、商店が歩いて行ける距離にあってほしいと望む人々を満足させる、いわゆる「持続可能な」地域社会の開発を促進する動きと重なっている。

スプロール化する郊外ではどこへ行くにも車を使わざるを得ないことが多い(© AP Images)

米国では現在、人口の3分の2が米国最大規模の都市圏を構成する郡に住んでおり、こうした大都市圏は拡大を続けている。このことが、公共交通機関とより環境に優しい開発を促進する政策にとって新たな機会を生み出している。

米国環境保護庁(EPA)の最近の報告書によると、米国不動産市場の長期にわたる低迷にもかかわらず、この5年間に15の大都市圏で都市近郊の住宅建設が倍増した。同時に、住宅と商業地区が混在し、住民や労働者による公共交通機関の利用を促す、人口密度が高い郊外地域の開発が推し進められてきた。

コロラド州にある人口250万人のデンバー市は、郊外の32の住宅地を結ぶ100マイルの新しい鉄道とバス専用車線を建設中である。首都ワシントン郊外のタイソンズ・コーナーというスプロール化が進むビジネス地区では再開発が進んでおり、高層ビル、手ごろな価格の住宅、歩道に面したエネルギー効率の高いカフェや企業のオフィスがある都市に変ぼうしようとしている。将来的には新しい地下鉄の路線がこの地域をひとつにつなぎ、米国東海岸で3番目に大きな空港、ダレス国際空港まで初の鉄道サービスを提供する。

2009年の米国再生・再投資法の下で公共輸送プロジェクトに数十億ドルが割り当てられるなど、多くの地方自治体が多額の資金を必要とするプロジェクトに取り組む余裕のない時期に、連邦政府の新たなイニシアチブがこうした都市開発の勢いの維持に貢献している。

公共交通機関の利用者の増加

この新しい都市・郊外型ライフスタイルは公共交通機関の利用を促進し、40年続いた公共交通機関の利用者数の減少傾向を反転させた。ある調査によると、米国人の大多数(76%)はまだ相乗りせずに1人で運転して通勤しているが、バスや電車で通勤する人々の割合が近年増加している。都市の公共交通機関の路線の近くに引っ越す人が増えており、車を使わずに出かける、あるいは車を所有しないという選択が可能だ。

ワシントンDCで非営利組織を運営する34歳のマイク・ヘスは2010年、編集者である妻のアンジーと共に、新しいエネルギー効率の良い新興地域の住宅を買うことにしたと言う。場所が利便性に優れ、グリーン基準(環境に配慮した基準)を満たしており、近隣に便利な施設がある点が理由だ。3つの電車の駅といくつかのバス路線まで歩いて行けるため、車を運転するのは通常、週末に町を離れる時か、食料品を大量に買う必要がある時のみである。

「よりスマートな」成長の促進に多くの都市が軽量レールを導入している(© AP Images)

ヘスは米国グリーンビルディング協会(U.S. Green Building Council)が策定した建築物に関する国際的なエネルギー効率基準(LEED)に触れ、「自分の家がLEED認証されてとてもうれしいし、これで光熱費が節約できると期待している」と話した。「そのうちに太陽電池パネルを屋根に取り付けて、既存電力網と接続した太陽光発電システムを利用したいと思っている。そうすれば自家用に発電し、石油・石炭エネルギーへの依存をさらに低減できる」

「持続可能な地域社会」という用語は、持続可能な開発を「将来の世代が自らのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズを満たす開発」と定義した1987年の国連の報告書から生まれた。

持続可能な地域社会のあり方については意見が分かれるが、車を常時運転する必要のない、より自己充足型の地域を設計する動きが米国で続いている。これは中流階級の家族が都市を逃れ、多くのサービスや商店が高速道路沿いのショッピングモールに移転した1950年代以来、多数の米国人が従ってきた生活様式から次第に脱却しつつあることを示している。

人口密集型の「賢明な成長」で温暖化ガス排出量が低下

 人口密度が高い都市・郊外型生活に向かう傾向が続けば、こうしたライフスタイルの変化が米国での温室効果ガスの排出やその他の環境汚染に直接影響を与える可能性がある。今日、乗用車と軽トラックが排出する温室効果ガスは運輸部門全体の60%を占める。これは排出量全体の27%に当たる。

2007年の調査によれば、公共交通機関へアクセスできる地域でコンパクトな都市開発が増えれば、交通量を最大40%まで削減できる。また米国人がそのような「スマートグロース(smart growth)」、つまり賢明に成長する地域社会を追求し続ければ、運輸部門の排出量が7~10%削減される可能性がある。

訳注:国土交通省国土計画局は「スマートグロース」を「1970年代以降、アメリカのオレゴン州など一部の先進的な州において導入された都市圏政策であり、『持続可能な都市圏形成を目指した成長管理政策』と訳される」と説明している。