7月31日、ついに臨時代理大使としての最後の日を迎えます。任期中に日本各地で皆さんから受けた心温まるおもてなしに心より感謝するとともに、多くの場所を訪れ、たくさんの素晴らしい方々に巡り会えたことを光栄に思います。日本には、まだ行きたい、素晴らしい場所がたくさん残っています。臨時代理大使としての任期の最後に、千葉県佐倉市郊外にある「DIC川村記念美術館」でぜいたくな午後を過ごすことができたのは幸運でした。

ジャクソン・ポロックの「緑、黒、黄褐色のコンポジション」の前で説明を伺いました

DIC川村記念美術館を訪れたのは、川村家とDIC株式会社が収集した素晴らしい美術品を鑑賞するためです。特に興味を引かれたのは、マーク・ロスコが描いた有名な「シーグラム壁画」の一部である7点の作品でした。私は昔一度、ニューヨークで、移転前の「フォー・シーズンズ」で食事をしたことがあります。これらの壁画はそのレストランに飾られていました。ロスコの気が変わり、壁画は世界各地のさまざまな場所で保管されることとなり、今では、川村美術館の他、ロンドンのテート美術館などに収蔵されています。忘れられないほど美しいこれらの壁画は、アメリカの美術史を語る上でなくてはならないものです。アメリカの外交官として、これらの作品がこの美術館で大切に扱われ、展示されていたことに感動しました。

DIC川村記念美術館の大熊雅美館長(左)と

ロスコの壁画は、川村美術館が所有する優れたアメリカ現代美術のコレクションのほんの一部であり、他にもロイ・リキテンスタインやジョゼフ・コーネル、フランク・ステラなどの多くの画家の作品があります。公園のような広々とした、この美術館で、アメリカの独創的な現代美術の素晴らしいコレクションに出会えることは、予想できないかもしれません。ここでは、尾形光琳の作品や明治時代の作品も同時に鑑賞することができます。美術館の大熊雅美館長をはじめ、職員の皆さんからこの上ない歓迎を受けました。東京オリンピック・パラリンピックの開催が近づくなか、東京や日本各地には、アメリカをはじめ世界各国から訪れる観光客に見てほしい場所が山ほどあると気づきました。現代美術ファンには、DIC川村記念美術館をぜひ訪れてほしいと思います。

尾形光琳の「柳に水鳥図屏風」を鑑賞しました

私が日本で遭遇した、かけがえのない思い出となったその他の出会いについて、思いを馳せてみました。草間彌生さんとは、彼女のスタジオでお目にかかりました。とても優雅な女性で、ニューヨークでの創作活動の日々やジョージア・オキフとの不思議な縁(えにし)についてお話を伺いました。京都では、歴史大作「関ヶ原」のロケ地となった東本願寺を訪れました。この映画の舞台となった戦国時代は、カリフォルニア大学バークレー校に通っていた頃に勉強しました。何百年も前に発明されたロボットの原型、からくり人形の名匠にも会いました。名監督として名高い山田洋次監督の最新作「家族はつらいよ」のプレミア上映会では、社会問題を痛烈に描写している作品を鑑賞しました。ブリヂストン美術館では、19世紀から20世紀に活躍した日本人アーティストの素晴らしい作品を鑑賞しました。2020年のオリンピック前のリニューアルオープンを楽しみにしています。明治大学では、大学が所蔵している特別な美術品や歴史的遺物を見ました。また、クラシック音楽界の名ピアニスト、小山実稚恵さんが演奏する「左手のための前奏曲と夜想曲 作品9」(アレクサンドル・スクリャービン作)を聞きました。感動しました。これらは全て貴重な思い出です。このような独創性は、日本では日常的なものであり、アメリカや世界各国の人たちとの連携には、終わりがありません。私は、このような思い出や出来事を決して忘れないでしょう。アメリカ人と日本人との深い絆は、あらゆる場所や分野に存在し、想像しないような場所で見つかることがよくあります。私はこれからも、日米の人々があらゆる分野で互いを補い、支えあう新しい物語を探し続けて行きます。このような経験をさせていただいたことを光栄に思います。

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