レノア・アドキンス

ジョージア州ユニオンシティは、アトランタ郊外にある人口2万2399人の都市です。ビンス・ウィリアムズ市長は、自らを牧師との二足の草鞋を履く市長と冗談めいて言いますが、これはある意味本当です。

ウィリアムズの本職は教会の副牧師で、現在3期目である市長職はパートタイムです。普段の一日は、市役所で市の職員と会合し、その後教会からオンラインで結婚前カウンセリングを1~2組のカップルに行います。スーパー、ガソリンスタンド、クリーニング店に行けばよく声を掛けられ、町のことや生活の話に応じます。

全米都市連盟の会長も務めるウィリアムズは、市長と牧師の仕事は「人々の生活と深く関わる仕事で、とても似ている」と言います。「希望を感じていない人に希望を届ける。機会がどこにあるか分からない人に機会を提供する。そして願わくは自己意識感を促していく。市長も牧師もこの責務を担っている人です」

連邦主義:権限の共有

アメリカは連邦主義と呼ばれる制度を採用しています。これは、連邦政府に与えられていない権限を州と国民に委ねる仕組みです。地方行政は国民との関わりが一番多いため、国民生活で重要な役割を果たします。また、市長が本職を持ち、選挙で選ばれた職務をパートタイムでこなすことは珍しくありません。このスタイルは、アメリカの地方行政制度でよくある「議会・支配人型」という仕組みを採用している自治体で見られます。

議会・支配人型では市長が日常的にこなす業務は少なく、そのため本職を維持することが可能です。市長が行うのは、政策立案と市議会の議長を務めることです。

この制度では、市長を含めた市議会が一般業務を担い、政策を立案し、予算を設定します。議会は、行政事業を管理し、執行するための支配人を雇います。支配人は議会から託された業務を行います。

テキサス大学オースティン校の研究所LBJアーバンラボのスティーブン・ペディゴ所長は、「つまり支配人は小規模企業のCEO」と説明します。

全米都市連盟のインフラ・輸送・ソリューション部門のディレクター、ジェームズ・ブルックスによると、議会・支配人型は人口1万人以上の自治体で見られ、市長が政党とのつながりよりも、地元住民や地域の問題に集中できるよう、草の根レベルのアプローチを推奨する仕組みです。

選挙で選ばれた職務をパートタイムでこなす役人は市長だけではありません。同様な例は、州議会議員にも見られます。

さまざまな職種

一般的に、アメリカの市長の経歴はさまざまです。イリノイ州ウィーリング市のパット・ホーチャー市長は、173年間続く家業の農家を経営し、温室栽培と花き栽培を行っています。

また、市長の中には、大学教授、証券ブローカー、宝石職人、元教師、ライドシェアのドライバー、億万長者の起業家、建設業者、自動車修理工場の経営者、弁護士、店の経営者もいます。

ブルックスによると、「市長の職業の種類は、その数と同じくらい多様」です。アメリカには推定2万人の市長がいます。「人民の人民による人民のための政治。一般の人でも地域に関わる問題で意思決定を行い、良い政策を実現することは可能」と言います。

首都ワシントンにあるブルッキングス研究所の研究員、トナントジン・カーモナは、「アメリカの市長はさまざまな経歴を持っています。これは素晴らしいこと」と言います。

「誰でも選挙に出られるということは、アメリカンドリームとアメリカが提供する可能性そのものを象徴しています。政府ができることについて国民はどう考えているのかと思うことがあります。その根底にあるのは、経歴に関係なく誰にでも自らの可能性を実現できる能力があるという考えです。これは、人は公職を通して可能性を実現できることも示しているのかもしれません」