グレーシー・ビンガム

グレーシー・ビンガム

3月11日の東日本大震災の発生を受け遂行されたトモダチ作戦を通じた日米協力は、日米双方の国民があらためて日米同盟の意義を考える契機となった。日本では日米関係について平素から報道機関が多く取り上げているが、American Viewは在日米軍と、トモダチ作戦で展開された災害救援活動について日本の若者たちがどう感じているかに注目。在日米国大使館の文化交流室と合同で、大学生から30歳代までの日本の若者を対象に2日間のプログラムを企画した。1日目は米軍基地を訪問し、トモダチ作戦に参加した軍人らと交流、2日目は基地訪問で受けた印象を、米国人の学生インターンや大使館員と話し合った。

プログラム初日、約40人のグループが早朝、都心に集合し、貸し切りバスで東京西部に位置する米空軍横田基地に向かった。横田基地には在日米軍司令部も置かれている。在日米軍は米国陸軍、海兵隊、海軍、空軍合わせて約3万8000人の軍人で構成され、他に軍人の家族4万3000人、軍属5000人、日本人職員2万5000人がいる。

日米安全保障同盟と在日米軍に関する知識を深めるため、参加者は基地内バスツアーをはじめ、在日米軍とトモダチ作戦についてのブリーフィング、トモダチ作戦で実際に任務に就いた米軍兵士とのグループ討論に参加した。多くの学生にとって米軍基地訪問は初めてであり、ツアー中は基地の大きさに驚いていた。慶応大学3年の川島光裕さんは「横田基地を見て米国による軍事支援は思っていたよりも大規模だと実感しました」と語った。また別の学生は「飛行場は予想をはるかに上回るほど大きく、東京にあるなんて信じられません」と話していた。

横田基地を訪問した日本の若者たち。在日米軍の兵士たちと建設的な意見交換をした(写真 在日米国大使館)

しかしトモダチ作戦に関するブリーフィングで、数人の兵士から救援活動を支援した時の個人的な体験を聞き、参加者の中には肯定的な印象を受けた人もいたようだ。

「ブリーフィングの時に最も印象に残ったのは、『私たちは常に目標を念頭に置き、目標達成に向け全力を尽くします』という言葉でした。このモットーが米国のリーダーシップの源泉に違いないと感じました」と、東京理科大学2年の権田貴之さんは話した。彼はさらに「米軍がトモダチ作戦で遂行しようとしていたことと、日本政府が米軍にしてほしいと望んでいたことの間に隔たりがあったため、時に戸惑いを覚えたとも言っていました。これを聞いて私は、日米間の効果的な意思疎通がどれほど重要であるか気づきました」とも語った。

一部の兵士が被災地で直接支援活動をしたいと語るのを聞き、東京大学大学院生の秋永名美さんは「実は私もそう思っていました! あの時、私は被災地に行き、学生の私も東京から何かできることはないか探しました。でも東京に戻る時には、すごく無力感を覚えました。東京から直接支援できることは何もないと分かったからです。何日か被災地に滞在して片付け作業を手伝いたいという気持ちを抑えられませんでした」と述べた。

小グループに分かれて米軍兵士と意見交換する基地訪問の参加者たち(写真 在日米国大使館)

慶応大学2年の木下茉由さんは「放射線被害の不安がある中、被災地へ行ってくれた彼らの勇気とサポート精神に感謝しています」と語った。

日本に派遣されると知ってから、日本での任務のためにどのような準備をしたかを話した兵士もいた。法政大学3年の加藤智裕さんは、「最も印象的だったのは、ブリーフィングの時に兵士の皆さんが、日本に派遣されると知って日米関係の歴史と日米同盟についてみっちり勉強してきたと言った点です。それを聞き、日本を防衛している米軍兵士の皆さんは日米同盟に関し、一般の日本人や政治家よりも豊富な知識を持っているのではないかと思いました」と述べた。

基地訪問中、参加者たちには、昼食時間に基地のフードコートで本場アメリカのファストフードを味わう機会もあった。「タコベルがあるとは知らなかった!」との声も聞かれた。

昼食後、参加者は小グループに分かれ、トモダチ作戦と日米安全保障同盟について米軍兵士と意見交換した。東京大学2年の河上友紀さんは「実際に話してみると兵士の皆さんも私たちと同じ『普通』の人間だという印象を受けました。彼らがトモダチ作戦について話し始めると、被災者を助けたい一心だったことがはっきり分かり、米軍の日本駐留は軍事的側面に加え、今回のような緊急事態の時に救援隊を素早く派遣できるという利点もあると実感しました」と語った。

基地訪問の翌日の討論会。参加者たちの意見からは、彼らが日米同盟を理解しようとしたことがうかがえた(写真 在日米国大使館)

翌日、American Viewは文化交流室と合同で、大学生グループが日米安全保障同盟と基地訪問の印象を話し合う討論会を開催した。この討論会は、英語が母語であっても多くの人にとって議論するのが難しい内容を、学生たちが英語で話し合う機会にもなった。学生たちの熱心な姿勢には、トモダチ作戦についての印象を分かち合い、日米関係についてもっと知りたいという強い意欲が表れていた。日米同盟の複雑な本質を短くまとめて話すのは難しいが、学生の反応から彼らがそれまでに十分思案を重ね、日米同盟を理解しようと非常に努力したことがうかがわれた。

青山学院大学2年の関口翔太さんは「最初は日米同盟に否定的な印象を持っていましたが、基地を訪問し、米軍が日本をどう考えているか知って感銘を受け、今では否定的な印象がなくなりました」と語り「トモダチ作戦のおかげで日米同盟の良い点が分かり、多くの人たちが日米同盟を中立的に見られるようになりました」と続けた。

別の学生は「私も在日米軍については良くないイメージを持っていましたが、1人の兵士の方が駐留の目的は軍事活動だけでなく、3月11日のような災害への備えでもあると言っていました。彼らは日本に駐留しているから私たちを支援できますが、米国から派遣される場合にはもっと時間がかかります。日本にいるからこそ、迅速な支援が可能です。日本人にとって悪いことではありません」と述べた。

6月に公表されたピュー・リサーチセンターの調査結果によると、日本国民の多くが米国は震災後、日本に惜しみない援助をしたと考えている。過半数の57%が米国は多大な援助をしたと考え、さらに32%が米国はかなりの援助をしたと見ている。米国の寛大さが認められた結果、米国を好意的に見る日本人の割合が2010年の66%から2011年には85%に上昇した。討論会での日本人学生の意見にも同じような傾向が見られた。

川島さんは、トモダチ作戦以降「日本国民は米軍の日本駐留を支持するようになっています」と述べた。多くの学生が、トモダチ作戦において米国が果たした役割が日米同盟の強化を促し、米軍の日本駐留に対する日本人の認識が改善したと感じている。

加藤さんはトモダチ作戦について「震災後に多くの国の人々が救助活動に参加してくれましたが、米国はどの国よりも長期にわたり支援活動をしたため、同盟が強固になりました」と語った。東京理科大学2年の渡辺未来さんも同意見で「日米の信頼関係が一層深まったように感じています。日米同盟のおかげで日本人の米国に対する親近感が高まると思います。これで両国の交流が深まるので、良いことだと思います」と話した。

東京大学2年の上野山沙良さんは「ひとつの問題に一緒に取り組んだ経験を通じて日米関係は強化されました」と述べた。

何人かの学生は、基地訪問前は日米同盟についてよく知らなかったと認めている。河上さんは「実は日米同盟についてよく知らない日本人がたくさんいます。私もその1人でしたが、この同盟は両国にとって必要だし、将来も続いてほしいと思います」と語った。基地訪問後の学生たちの日米同盟に対する評価はおおむね肯定的だった。

「日米の友好関係の良さを示しているのがこの同盟です」と渡辺さんは言い、「米国は日本にとって最も身近な外国であり、日米同盟はそれを象徴していると思います」と続けた。

川島さんは日米同盟を「影響力と歴史という観点から、世界で最も強固な同盟のひとつ」と見ている。

日米同盟は「日本にとって非常に心強い」と木下さんは言う。「でも同時に他の国々にとっては脅威にもなっています」。1960年に日米安全保障条約が締結されて以来、両国は緊密に協力し、中国の台頭や北朝鮮などの地域的脅威に対抗してきた。

加藤さんは「(日米同盟は)アジアにある脅威を抑止し、日本の安全に寄与しているので日本のためになっています」と言い、「日本は震災後、国内の復興に力を注ぐので、安全保障面においては米軍の存在が特に重要です」と付け加えました。川島さんも同盟が有益だという点では同意見で、「東アジアの政治は思われている以上に複雑なので、私たちだけで対処すべきものではありません」と言う。

日米同盟は強固だが、今後日米両国が協力して立ち向かわなければならない課題が多数あると学生たちは指摘する。そのひとつが中国の台頭であり「成長を続ける中国経済と増大する中国の軍事力の間でのジレンマ」だと上野山さんは言う。「(金融危機から)回復する上で中国が大きな役割を果たしたことは否定できませんが、同時に中国はその経済力を使って軍事力を増大させてきました」

大半の学生が日米同盟が直面する課題として米軍基地の問題を挙げた。「沖縄の基地移転など、(同盟は)多くの問題を抱えていますが、米国にとって基地は必要であり、なくすことはできないと思います」と渡辺さんは言う。

経済危機も同盟にとっての問題となる。加藤さんは「経済危機を原因とする米国の内向き志向という米国内の問題」は、同盟が直面する大きな課題のひとつだと言う。

また、在日米軍駐留経費負担の問題が日米の懸案分野であると指摘した学生は「日本政府が在日米軍のために巨額の支出をしている一方で、日本経済の状況はあまり良くありません。多くの日本人が経費負担に反対しているので、今後問題になると思います」と語っている。

このようなさまざまな問題、外的脅威、意見の相違にもかかわらず、学生たちは日米同盟が両国にとって欠かせないものだと感じている。関口さんが簡潔にまとめたように「問題は多いが、両国にとって同盟はとても大事」である。

今回参加した若者たちは横田基地を訪問し、日米同盟に対する自らの関心の高さを示した。重要な質問に対する答えも思慮深く、豊富な知識に裏付けられており、日本の将来のリーダーたちが、日米同盟を東アジア・太平洋地域の礎として堅持すべく努力することがうかがえて頼もしい。日米両国は脅威に直面しているが、同盟を通じて米国の国益にとって極めて重要な地域の平和と安全を維持できるだろう。トモダチ作戦は両国に日米協力の重要性を思い出させたが、これからも両国は同盟強化に向け協力を続けなければならない。

加藤さんは「米軍兵士の皆さんが日本支援について熱心に語るのを聞いた時、日米同盟は今後の50年間も続いていくだろうと少し楽観的な考えを持てるようになった」と言う。

それを実現するために、在日米国大使館および日本各地の米国領事館職員、そして米軍関係者は努力を続ける。


グレーシー・ビンガム
ボイジー州立大学(アイダホ州)で政治学と歴史学を専攻する4年生。12月に卒業予定。2009年夏に国務省日本部、2011年夏に在日米国大使館報道室でインターンとして働いた。