3月5日、東京の国立公文書館で、安倍晋三首相やキャロライン・ケネディ駐日米国大使も列席して「JFK-その生涯と遺産」展の開会式が開かれた。そこには金色の着物を着て車椅子に座り、目を潤ませてスピーチに聞き入る女性の姿があった。旧日本海軍の駆逐艦「天霧(あまぎり)」の艦長だった故・花見弘平氏の妻、和子さんである。

太平洋戦争中の1943年8月、海軍中尉だったジョン・F・ケネディは魚雷艇PT-109の艇長としてソロモン諸島近海を航行中、天霧に衝突される。部下2人を失い、自身も海に投げ出されて、生き残った部下たちとソロモン諸島の島に漂着し救助された。そのような経験をしたにもかかわらず、ケネディは戦後、花見氏と手紙のやりとりを通じて親交を結んだのだ。

開会式のテープカットの後、ケネディ大使は和子さんの手を握り、「大使に就任以来、お会いしたいと願っていました」と感慨深い様子で語りかけた。

ambassador Kennedy talks to Mrs. Hanami

「JFK」展で見ることができるのはアメリカ、ボストンのジョン・F・ケネディ大統領図書館・博物館が所蔵する膨大な文書、写真、遺品に、日本国内の機関が保存する公文書も加えた資料と映像160点ほどで、そのうち11点は日本初公開。ケネディ大統領がキューバ危機を回避した後に世界平和を訴えた有名な演説の原稿の一部など、興味深いものが盛りだくさんだ。

安倍首相は開会式のあいさつで、最も印象深かったのはケネディ大使が幼いころにクレヨンで描いたひまわりの絵だったと言って笑いを誘った。また自らの大叔父、佐藤栄作元首相の日記を初めて目にする機会を得たことにも触れた。この日記には「国家が君たちのために何ができるかではなく、君たちが国家のために何ができるかを問え」という一節で有名な、ケネディ大統領の就任演説についての印象がつづられている。安倍首相はあいさつの締めくくりとして、多くの人々が「JFK」展を訪れ、ケネディ大統領とその家族が世界の平和、民主主義、人権のために闘ってきた歴史に触れてほしいと語った。

ケネディ大統領と花見氏とのやりとりのうち、今回の展示会で見られるのは、1953年2月に上院議員に就任直後のケネディが花見氏に送った手紙である。「日米のしっかりした関係が続くことが両国相互の安全保障にとって最も重要であり、私は上院議員としてそのために尽くす所存です」という記述から、日米関係の強化に向けた未来の大統領の覚悟が見てとれる。同封されていた写真には「きのうの敵であり、きょうの友人へ」という直筆のメッセージが入っている(写真下)。

photo of jfk that was sent to Captain Hanami

ケネディ大使は「JFK」展の開会記念レセプションでのあいさつで、開会式に和子さんをはじめ花見氏のご遺族の出席が実現したことは「和解の精神」そのものであると話していた。今年は第2次世界大戦終結から70年の節目の年。日米は世界中に安定と繁栄をもたらすパートナーシップを築いてきた。しかしそうした国家同士の関係だけでなく、両国の間にはケネディ大統領と花見艦長が戦争体験を乗り越えて築いた友情のような人物間の交流が無数に存在する。二人の関係は、そうした人間同士のつながりが日米関係の基礎になっていることをあらためて思い起こさせてくれる。

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