アイオワ州とニューハンプシャー州がアメリカの選挙区で占める割合はほんのわずかです。それにもかかわらず、大統領を目指す2大政党の候補者たちは、有権者の支持を得るために雪を踏みしめながらの遊説に数カ月を費やします。

その理由は、共和・民主2大政党の候補者がそれぞれ1人に絞られ、11月3日の本選挙の投票用紙に名前が載るまでのプロセスの第一歩が、両州の有権者によって始まるからです(無所属や他の政党候補者の名前が投票用紙に載るためには、2大政党の候補者とは異なるプロセスを経なければなりません)。

アイオワ州を訪れる候補者は、ステート・フェアに飛び込み、人込みをかき分けながら有権者と握手したり、ダイナーで食事をしている人たちをひょっこり訪ねます。選挙運動中のどの時点よりも、有権者の話を直に聞くことに多くの時間を割くのが普通です。この手法は「小売り政治」と呼ばれます。国が本当に必要としていることを候補者が知るのに役立つと、このやり方を支持する人たちは言います。

党が候補者を指名する前に

共和・民主両党とも今夏、大統領候補を正式に指名する全国党大会を開催します。アメリカ50州、コロンビア特別区、5つの準州から選出された代議員が、この大会に参加します。人口の多い州はより多くの代議員を送ることができます。

党大会で投票する代議員を党員集会で選ぶ州もあれば(アイオワ州など)、予備選挙で選出する州もあります(ニューハンプシャー州など)。

党員集会とは?

党員集会は特定政党の有権者の地方集会で、よく図書館、学校、近隣住民宅の居間などで開催されます。有権者は、それぞれ支持する候補者について意見を述べます。議論が進むにつれ、人気が劣る候補者は外されていきます。除外された候補者を支持していた人たちは、残っている候補者の支持者から協力を求められます。このようにして多くの大統領選挙の代議員が決められてきましたが、この制度を取り入れている州は少なくなってきています。

アイオワ州党員集会に集う有権者。2016年2月 (© Dave Weaver/AP Images)

アイオワ州党員集会に集う有権者。2016年2月 (© Dave Weaver/AP Images)

予備選挙とは?

多くの州では現在、州が実施する無記名投票の予備選挙が行われています。予備選挙では、誰に投票資格があるか各州がルールを決めています(州によっては党が予備選挙を実施します)。開放型予備選挙では、登録有権者は所属政党にかかわりなく誰でも投票することができます。閉鎖型予備選挙では、特定政党に登録した有権者のみが該当政党の候補者に投票します。また特定政党の党員と、党に所属しない(無党派)有権者の両方が、党の予備選挙で投票できる州もあります。

コロンビア大学のドナルド・P・グリーン教授(政治学)は、党員集会と予備選挙では、平均的な共和党員より保守的傾向の強い有権者、そして平均的な民主党員よりさらにリベラルな有権者が集まる傾向があると言います。「予備選挙制度に関する懸念の1つは、参加する有権者が活動家だったり、イデオロギーに傾倒している傾向が見られることです」

大統領候補指名党大会に参加できるのは?

予備選挙での有権者の投票が終わると、その結果は代議員の選出に反映されます。民主党の予備選挙では、比例制を取り入れています。つまり、ある州の党大会への選出代議員数が10人だとすると、予備選挙の投票で40%を獲得した候補者は、4人の代議員を得るといった具合です。共和党は、比例制を取り入れている州もありますが、第1位の候補が全代議員を獲得する「勝者総取り方式」のような異なる配分方法を採用する州もあります。

アイオワ州やニューハンプシャー州といった、2大政党それぞれの全国大会で投票する代議員数が少ない小さな州に、なぜ危険なアメリカ・ヘラジカや吹雪を避けながら、候補者たちは多くの時間を費やすのでしょう?(大統領候補の1人であったクリス・ドッド上院議員は、2008年の大統領選前に、家族をアイオワ州のデモイン市に移し、地元の幼稚園に入園できるよう娘を登録しました)。

最初がアイオワ州、続いてニューハンプシャー州

アイオワ州の党員集会で票を数える投票区長。2016年2月 (© Patrick Semansky/AP Images)

アイオワ州の党員集会で票を数える投票区長。2016年2月 (© Patrick Semansky/AP Images)

アイオワ州とニューハンプシャー州が重要なのは、大統領を選ぶ長い過程の中で、両州がそれぞれ最初の党員集会と予備選挙を行う事実に関係しています。アイオワ州の党員集会は、今年は2月3日に行われます。続いて2月11日にニューハンプシャー州で、予備選挙が実施されます。両州で勝った候補者はメディアの注目を集め、資金提供者から支援を得ることができます。さらに、他の地域の有権者の動向を左右する最有力候補との評判を得ます。

この2州が4年ごとにこれだけの影響力を持つのは良くないと批判する人もいます。アイオワ州もニューハンプシャー州も典型的なアメリカの州とは言えず、両州の結果は有権者を公正に代表するものではないという主張です。アメリカ全体に比べ、民族的、人種的に多様性が薄く、ニューハンプシャー州の年齢の中央値は、アメリカ全体のそれより高くなっています。

それでも両州の有権者の多くは、彼らの責任を重く受け止めています。選挙運動の動静を綿密に追い、複数の候補者のイベントに参加し、彼らの選挙公約に耳を傾けます。

数十年前の大統領候補指名党大会は、わくわくする出来事でした。どの候補者が指名を獲得するか、当日舞台裏の取引で決まることが多かったからです。現在では非常に多くの州が前倒しで予備選挙や党員集会を実施するようになり、有力指名候補はかなり早い段階で明らかになります。

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2月から6月にかけて
アイオワ州とニューハンプシャー州に続き、民主党の党員集会がネバダ州で、予備選挙がサウスカロライナ州で行われます。多くの州で一斉に投票が実施される3月3日は、スーパーチューズデーと呼ばれ、代議員の40%がその日に配分されます。今年はトランプ大統領が再選を目指すため、州によっては共和党がこのプロセスを省略します。

参考: 2020 State Primary Election Dates (National Conference of State Legislatures)