アメリカのクラシックピアニスト、ララ・ダウンズの使命は、自国の黒人作曲家によるクラシック音楽を普及させることです。
自身のラジオ番組で司会も務めるダウンズは、この分野の重要な人物の一人として、スコット・ジョプリン(1868~1917年)を挙げています。ジョプリンの影響は主にアメリカのポピュラー音楽に見られますが、ダウンズはクラシックの領域にもその痕跡を見出しています。
ジョプリンは「ラグタイムの王様」と呼ばれており、ピアノ曲『メイプル・リーフ・ラグ』(1899年)や『エンターテイナー』(1902年)が代表作です。その一方で、黒人のフォークソングや霊歌の要素も取り入れ、合唱やアリアを含むオペラ『トゥリーモニシャ』(1911年)も作曲しています。
ラグタイムのシンコペーションビートは「革新的なものだった」とダウンズは言います。世界中の人々の心を捉えたのです。
「私たちが聴くあらゆるポピュラー音楽には、ラグタイムが生み出したシンコペーションビートがあります」と、ダウンズは指摘します。「ジャズ、ブルース、ロックンロール、ヒップホップなどは、全てラグタイムに起源があるのです」
豊かな音楽遺産
黒人の音楽家や作曲家は、アメリカのポピュラー音楽界で大きな役割を果たしていることは広く知られていますが、クラシック界にも深く入り込んでいるのです。
クラシック音楽はヨーロッパの伝統だと思って育ってきたとダウンズは認めます。ピアノをずっと勉強してきた彼女は、若い頃に黒人作曲家の作品を探し求めることで、アフリカ系アメリカ人の伝統を探求しました。そして、黒人作曲家が協奏曲や交響曲、オペラを書いていたことを知ったのです。
ダウンズは、ジョプリンの『トゥリーモニシャ』(1935年にジョージ・ガーシュインが作曲したオペラ『ポーギーとベス』に影響を与えたとする学者も多い)を発掘したほか、アフリカ系アメリカ人女性として作品が初めて主要交響楽団で演奏されたフローレンス・プライス(1887~1953年)や、交響曲5曲とオペラ8作を生み出した多作なウィリアム・グラント・スティル(1895~1978年)の作品にも出会いました。
近年、アフリカ系アメリカ人の作曲家に対する意識は、「(クラシック)アーティストや音楽愛好家のコミュニティーの中で爆発的に高まっている」とダウンズは話します。
21世紀型のアレンジ
今日のアフリカ系アメリカ人のクラシック作曲家は、新鮮な視点をもたらしてくれる、とダウンズは言います。そして、その代表として、ワシントンのジョン・F・ケネディ舞台芸術センターでコンポーザー・イン・レジデンスを務めるカルロス・サイモンと、シカゴ交響楽団で同じ職にあるジェシー・モンゴメリーの名を挙げます。
サイモンはアトランタ出身で、ゴスペル音楽をベースに、ワシントン・ナショナル交響楽団やワシントン・ナショナル・オペラのために頻繁に作曲しているほか、ニューヨーク・フィルハーモニックやロサンゼルス・フィルハーモニックから委嘱された作品を書いています。「音楽は私の説教壇です。そこで私は説教を行うのです」と、サイモンはワシントン・ポスト紙に語っています。
ニューヨーク出身のモンゴメリーは、独奏、室内楽、声楽、管弦楽のための作品を書いています。シカゴ交響楽団のウェブサイトにはこうあります。「彼女の音楽は、クラシック音楽に、郷土音楽、即興演奏、詩、社会意識の要素を織り交ぜることで、21世紀のアメリカの音楽と経験の鋭い解釈者となっている」
今日の黒人作曲家による音楽には、「ジャズやスピリチュアルの響きがあり、アメリカ音楽の全容を包含している」とダウンズは述べています。例えば、マイケル・エイベルズの音楽は、管弦楽曲、協奏曲、オペラ、ジャンルを超えた映画音楽など、多岐にわたっています。また、オペラを学んだリアノン・ギデンズの作品も、幅広い音楽の伝統を探求していると指摘します。
ダウンズは、「私たちが生きたい世界と、私たちが共有する人間性」を反映する多くの黒人作曲家とコラボレーションし、彼らの最も切実な経験から「美しく時代を超えたもの」を作り出していると言います。そして、彼女はこう付け加えます。「アメリカの音楽について私が最も誇りに思うのは、より良いものを想像し、その希望を聴衆に伝える能力なのです」
バナーイメージ:ニューヨークで公演するジェシー・モンゴメリー。2018年 (© Hiroyuki Ito/Getty Images)
*この記事は、ShareAmericaに掲載された英文を翻訳したものです。
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20年ほど前、セントルイスにあるジョプリンの記念館へ行きました。アフリカ系アメリカ人の職員の方が、私達のお願いにこたえて、オルガンでジョプリンの曲を弾いてくれたのが感動的でした。
その時に買ったCDを今も大切に持っています。
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