2007年7月10日取材
2007年6月30日、米国および韓国両政府は、自由貿易協定に署名した。最終的に発効するには双方の議会による批准が必要だが、発効すればほとんどの品目で相互に輸入関税を撤廃することになる。
2国間交渉だけでなく、多国間交渉でも幅広い経験を有する。難航を極めた両国間の交渉で米国側の首席代表を務めたウェンディ・カトラー米国通商代表部(USTR)代表補(日本・韓国・APEC担当)に、交渉の経緯や日本との自由貿易協定の可能性について聞いた。
2004年6月より現職。米韓自由貿易協定の交渉では、米国側の首席代表を務めた。USTRでは北アジア担当、ならびにサービス・投資・ 知的財産権担当の代表補などを歴任。2国間交渉だけでなく、多国間交渉でも幅広い経験を有する。
問:先ごろ締結された米韓自由貿易協定(FTA)は日本でも大いに関心を持たれています。なぜだと思いますか。
答:いくつか理由があります。まず、韓国と日本は隣り同士なので、当然のことながら、貿易だけでなくほかの分野でもお互いの行動に注 目しています。次に、両国の経済規模は、日本が韓国の約3.5倍と大きな開きがありますが、類似点もたくさんあります。例えば、自動車やITなど同じ分野 で競争力を持っているケースが多いですし、農業が保護されていることも共通しています。最後に、日本は米韓FTAが締結されたことに本当に驚いたのでしょ う。米国と韓国が交渉に継ぐ交渉を行い、合意に至る自信をのぞかせていたにもかかわらず、日本はこうした結果を想定していなかったため、本当に驚いたと思 います。
問:日本がこのような結果を想定していなかったのはなぜでしょうか。
答:忘れてならないのは日韓のFTA交渉が行き詰っていたという点です。この経験から、日本には、米国が韓国との間で合意に至るとい う状況を想像するのが難しかったのだと思います。それに、自国の経済、特に保護された農業分野のことを考えると、韓国が農業市場を開放して米国からの輸出 品を受け入れるという大胆な決断をすることができるとは思っていなかったのだと思います。
問:合意に至った要因は何でしょうか。
答:米韓双方にとって重要だったのは、この交渉がそれぞれの国益にかなうという結論を双方が前もって下していた点です。双方が進んで 交渉に参加し、それぞれ自国の目標を持っていました。両国がともに合意したいと思っていたため、交渉の雰囲気も良く、バランスの取れた双方にプラスになる 合意に至ることができました。
問:最大の障害は何でしたか。
答:いろいろあったのですが、ひとつには時間的要因がありました。大統領貿易促進権限の期限切れが迫っていたため、ブッシュ政権がこ の協定に署名する意思があることを今年3月末までに連邦議会に通告しなければならなかったのです。最初の交渉が始まったのが昨年の6月ですから、この非常 に意欲的な協定をつくり上げるまでの時間は基本的に10カ月しかありませんでした。もうひとつの問題は、米国と韓国が経済大国であるとともに、お互いの主 要貿易相手国であるという点でした。これでは、どのようなFTA交渉も複雑な作業になります。
問:米韓FTAに対しては、連邦議会の一部で反対の声があるようです。議会はこの協定を批准すると思いますか。
答:この協定には6月30日に署名したばかりで、両国ともそれぞれの議会の承認を得る段階に入ろうとしているところです。この段階で また新たな課題に直面するでしょう。どちらの国の手続きも簡単にはいかないと思います。けれども、米韓FTAに対する理解が深まり、両国の議員にこの協定 を詳細に検討する機会が与えられれば、それぞれの経済だけでなく、アジア地域および世界での両国の立場にとっても、どれほどの利益になるか分かってもらえ ると確信しています。
問:米韓FTAは、将来的な日米FTAへの道を開いたと思いますか。
答:2つの主要貿易相手国間であっても、非常に強固かつ意欲的な協定を成し遂げられることを、米韓FTAが実証しているのは明らかで す。ですから、米国がほかの経済大国とFTA交渉を行うに当たって、米韓FTAの成功は幸先が良いことだと思います。日本についてですが、現時点では日本 は米国とFTA交渉を始める準備ができていないと思います。けれども、日米とも中長期的には、FTAが両国の利益になると考えるようになるでしょう。機が 熟せば日本と包括的FTAを結ぶ潜在的メリットはあると思いますが、日米FTA交渉の成果に対する期待は高いでしょうから、手腕が問われる仕事になるで しょう。
問:韓国が米国とFTAを交渉する準備ができていたのはなぜですか。
答:韓国は、どのFTA交渉でも必要な難しい決断を下す意思を持っていました。FTA、特に米国とのFTAは、サービスと農業を含む すべての経済分野で市場開放と改革を行うことを求められる包括的な協定です。FTAを実現するに当たっては、それぞれの政府にこうした難しい政治的決断を 下す用意ができていることが極めて重要だと思います。それに加え、韓国は自国の農業部門を交渉のテーブルに載せることをいといませんでした。韓国政府のこ うした動きに対して国内の一部から反対の声が上がりましたが、韓国国民は、自分たちの未来とアジア太平洋経済における立場を考えると、韓国が21世紀に繁 栄と成長を続けるためには、競争力を高め、経済を刷新する必要があるという結論を下しました。最終的なFTAの合意内容が発表されたとき、皆驚いたと思い ます。韓国国民のFTA支持率は貿易協定に対するものとしては非常に高く、60%を超えていました。最後に、交渉期間を通じて、韓国側は政権のトップレベ ルが政治的リーダーシップを発揮し、熱意と関心を示し続けました。この点は特筆に価します。(盧武鉉)大統領に委ねなければならない難しい決定もありまし たが、大統領は韓国の国益と未来を考えてこうした難しい決定を下す用意ができていました。
問:なぜFTAは包括的でなければならないのですか。交渉当事国が合意できる分野だけを対象にしたFTAを締結するのではだめですか。
答:第一に、世界貿易機関(WTO)のルールに反するからです。WTOのルールによると、FTAでは「実質的にすべての貿易」を対象 にする必要があります。それぞれの当事国が望む製品だけを対象とし、その他の製品を除外する協定は、貿易を生み出すのではなく、むしろ阻害します。FTA は貿易相手国間で通商圏をつくり上げるだけでなく、より広い範囲での貿易の自由化に貢献するものである、ということがとても重要です。
問:日本経団連が、日本は米国と経済提携協定の締結に向けて交渉を開始するよう提案しています。この提案についてどう考えますか。
答:一般的に言えば、経団連は米国とのFTAを非常に支持してくれるようになりました。米国の経済界も支持しています。両国の経済界 がFTAの可能性に関心を示しているのは心強いことですが、彼らの支援だけでは十分ではありません。それぞれの国の製造業に影響を及ぼすだけでなく、サー ビス産業や農業分野で新たな貿易が始まることになる、難しい決定を下すことを約束している政府も必要です。
問:米国はどのようにFTA相手国の候補を選ぶのですか。
答:第一に、米国がFTA相手国を選べばいいという問題ではありません。相手国も米国を選ぶ必要がある、相互的なものなのです。私た ちが考慮する要因のひとつは、交渉が成功する確率です。相手国に合意に達する準備ができていない様子が見えるのに、長期にわたる交渉を始めたいとは思いま せん。これに加え、経済の開放と改革に関するその国の実績と取り組みを見ます。また、米国とFTAを結ぶということはどういうことか、つまり知的財産権や 投資から、労働、環境、関税、非関税措置などすべてを含む包括的協定を締結することであると、貿易相手国が十分に理解しているかどうか確認したいと思いま す。最後に、相手国のトップレベルの政治家がFTAに真剣に取り組んでいるかどうかも評価します。
問:日本は現在オーストラリアなど数カ国とFTAの交渉を行っています。日本のFTA交渉をどのように見ていますか。
答:日本がこれまでに交渉した多くのFTAを調べた結果、いくつか興味深い分野や成功した分野はありましたが、日本のFTAは、日本 のような主要貿易相手国が結ぶものとしては期待するほど包括的ではなく、対象分野も不十分であるという懸念をぬぐい去ることはできません。とは言うもの の、私たちは、日本がすべての分野で自由貿易をもたらす意欲的なFTAを実現しようとする限り、日本の努力を歓迎します。日本はオーストラリアとの難しい 交渉に着手しましたが、これは日本がFTAの下で農業分野を開放する用意があるかどうかを測る重要なテストになると思います。私たちは成り行きを注視して いますが、農業を含む実質的にすべての貿易を自由化する協定が成立すれば、将来的な日米FTAは言うまでもなく、国際貿易制度にとっても幸先が良いでしょ う。
問:一般的な話として、2国間のFTA交渉は、WTOのドーハ・ラウンドを含む多国間貿易交渉の進展の妨げになると思いますか。
答:このような心配は、FTAが包括的かつ質の高いものである限り、根拠がないものです。実際、シンガポール、オーストラリア、チ リ、コスタリカ、ペルー、韓国など米国が最近FTAで合意した相手国は、ドーハ開発アジェンダの交渉で、米国を最も強力に支援し、大きな成果を上げようと している国々の一角を占めています。これは偶然ではありません。包括的なFTAを交渉することによって、世界中の政府に開放という文化を育てることができ ます。
問:米韓FTAはアジア太平洋地域の新たな通商・経済体制において、どのような位置を占めますか。
答:米国は引き続きアジア太平洋地域を重視しており、特にわが国の経済的取り組みと通商政策という点でこの地域を重視しています。米 韓FTAは、この地域の諸国との関係を深めるという米国の強い決意をはっきりと示しています。この協定は、米国が北東アジアの国と結ぶ最初のFTAです。 また、韓国はわが国にとって第7位の貿易相手国であるとともに、極めて重要な米国の同盟国です。このFTAに続き、アジア太平洋地域のほかの貿易相手国と も質の高いFTAを締結する交渉に着手できればと考えています。オーストラリアやシンガポールなど、この地域にはすでにFTAを結んでいる国もあります。 現在、マレーシアとも交渉中です。FTAとまではいきませんが、アジアの多くの貿易相手国と貿易投資枠組み協定(TIFA)も結んでいます。米国はこうし た協定を利用して、アジア地域での経済的取り組みを強化し、深めようとしています。日本に関しては、2国間の規制改革イニシアティブでの継続的な作業や金 融改革に関する協議、その他のメカニズムを通じて、関係を強化し、深めていきたいと考えています。
問:規制改革イニシアティブですが、日本の中にはこのイニシアティブについて、米国政府が毎年、単に米国の利益にかなう要求のリストを日本に突きつけて、それを実行するように迫る場であると言って非難している人がいます。これについてどう答えますか。
答:その評価には全く同意することができません。このイニシアティブについては、誤解があると思います。簡単に言うと、これは日米両 国の経済の規制緩和を進めるためのものです。毎年、米国は日本が市場開放と規制緩和を進めることができると思われる分野について提案をしますが、一方、日 本も米国の経済に関して提案を行います。これは、いずれにしても両国が取ると思われる措置に重点的に取り組む双方向の対話であり、競争を促進し、市場に新 規参入しやすい環境を整えるようなやり方でこれらの措置を具体化しようとするものです。私たちは、こうした取り組みが両国経済の成長に役立つと考えていま す。
問:このイニシアティブで、日本の提案に応えて米国が取った措置にはどのようなものがありますか。
答:最近の例ですが、札幌と福岡の米国領事館で、それぞれの管轄地域に住む日本国民へのビザ発給サービスを開始しました。日本が進展を希望する分野のひとつとして領事館でのビザ発給を要望し、米国はそれに積極的に応えました。
交渉の場で握手するカトラー代表補と金韓国首席代表 (写真提供 KORUS House - Korean Information Service, Embassy of the Republic of Korea,Washington,D.C.)
問:規制緩和が一般的に日本の消費者のためになるのはなぜですか。
答:規制緩和と規制改革によって市場での競争が促され、民間部門がより大きな役割を担うようになるとともに、経済に対する政府の干渉 をなくすことができます。米国の経験から、規制緩和・改革は日本経済の成長だけでなく、競争力の向上にも資すると思います。特に、アジアにおける日本の貿 易相手国がそれぞれの競争力を高めているときには役立つでしょう。日本はこれまでにいくつか重要な措置を取っていますが、規制緩和、市場開放、そして改革 を続けることが、経済の成長と競争力の維持にとって重要なことです。
問:議論を呼んでいる問題のひとつとして、米国産牛肉の輸入があります。日本には米国産牛肉について独自の基準を定めていますが、米国は日本が国際基準を採用することを望んでいます。食品のような品目について国際基準が重要であると考えているのはなぜですか。
答:輸入食品に影響する規制が科学的根拠に基づいていることはとても重要なことだと思います。「科学」が何を意味するかですが、ある 製品が安全である条件について基準を示す権限を持つ組織として、国際機関に勝るものはありません。牛肉の場合は、国際獣疫事務局(OIE)です。米国は日 本に限らず、すべての貿易相手国にOIEの基準に従うように求めています。OIEが今年5月に米国産牛肉のステータスを「管理されたリスク (controlled risk)」と再分類したことから、日本などの国々はこの決定を尊重し、それに沿って米国産牛肉を扱う、つまり米国産牛肉に対して市場を再度完全に開放す るべきだと考えます。私たちは米国産牛肉が安全であることを保証するために必要な措置を講じてきました。そして、OIEはこうした米国の措置を承認したの です。
問:American Viewの読者に伝えたいことがありますか。
答:今、多くの関心がFTAに集まっています。私が強調したいのは、FTAは2つの国の経済を結び付けるひとつのメカニズムにすぎな いという点です。韓国の場合はこの方法を取り、幸いなことに合意に至ることができました。日本との間ではFTA交渉を行っていませんが、日米は非常に強力 で活気に満ちた、多面的な経済関係を構築しており、協力できる分野を常に模索しています。知的財産権、透明性、安全な貿易など、さまざまな分野で両国の経 済関係を深め、強化していきたいと常に考えており、現在は今挙げたすべての分野で協力しています。米国は日本を親しい同盟国であるとともに、世界第2位の 経済大国でもありますから、今後も密接に連携していくつもりです。
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