雇用を含む生活のあらゆる場面での障害者差別を禁止する「障害を持つアメリカ人法(ADA)」は1990年に制定され、アメリカ各地の雇用で障害者のインクルージョンを推進する画期的な一歩となりました。しかし、障害者の意義ある雇用に対する「姿勢」という障壁は、アメリカ内外でまだ解消されていません。アメリカン・ビューは、アメリカ障害者協会(AAPD)のヘレナ・バーガー前会長にインタビューを行い、現状と改善策を聞きました。バーガー氏は、障害者の社会統合、自立、権利・機会の拡大を目指すプログラムの設計と導入に30年にわたり取り組んできました。

官民で障害者の支援に取り組む個人を表彰するAAPDの「2017 Leadership Awards Gala」にて。左から、ヘレナ・バーガー氏、エリザベス・ドール元上院議員、ナンシー・ペロシ下院議長

官民で障害者の支援に取り組む個人を表彰するAAPDの「2017 Leadership Awards Gala」にて。左から、ヘレナ・バーガー氏、エリザベス・ドール元上院議員、ナンシー・ペロシ下院議長

アメリカン・ビュー:ADA制定以降、障害者雇用を取り巻く状況はどのように変化しましたか。 

ヘレナ・バーガー(以下、バーガー):アメリカの障害者雇用率を上げる取り組みは、いまだ道半ばです。ただ、プラスの変化も見られました。民間部門では、純資産額2兆8000億ドル以上を有する投資家たちが集まり、投資先企業に対して、障害者雇用の拡大と障害者インクルージョンの機会を活用するよう求めました。さらにバイデン大統領は、二つの重要な大統領令を発表しました。一つは、アクセシビリティの向上、設備の確保、雇用と昇進機会の増加、そして物理的障害を減らすことにより、連邦政府が障害者の模範的な雇用主となることを目指すものです。もう一つは、連邦政府の請負業者に雇用される労働者の最低賃金を引き上げるというものです。その結果、2022年1月30日以降、連邦政府の契約者は最低賃金として時給15ドルを支払うことが義務付けられました。1938年以来合法とされてきた、対象となる連邦契約、またはその関連業務を行う障害者への最低賃金以下の支払いが撤廃されることになったのです。

ADA制定から30年以上が経過しましたが、雇用面での改善は期待に見合ったものではありません。その最たる例が雇用率です。2021年の健常者の雇用率が63.7%であった一方で、障害者は19.1%でした。  

アメリカン・ビュー:職場のインクルージョンを推進していく上で、雇用側に必要なことは何でしょうか。 

バーガー:個人的な意見ですが、アメリカでも日本でも、障害者雇用を阻んでいるのは人々の姿勢だと思います。これは打破するのが一番難しい障壁です。姿勢は法制化できないため、雇用の場面での文化的変化が必要となります。アメリカ企業で最近よく目にする動きが、職場のアクセシビリティを監督するチーフ・アクセシビリティ・オフィサー(CAO)と呼ばれる役職の設置です。また、障害者雇用の向上に役立つ別の傾向として、管理職が予算への影響を心配することなく障害者を受け入れることができる配慮基金と呼ばれる一元的な仕組みの設置が見られます。  

アメリカン・ビュー:インクルーシブな職場や障害者採用において、雇用側にありがちな誤解にはどのようなものがありますか。 

バーガー:大きなものには、受け入れ費用があります。ジョブ・アコモデーション・ネットワークが行った調査では、受け入れ費用がかからなかったと答えたのは全体の59%で、それ以外は費用がかかったものの500ドル以下だったと回答しています。つまり、この手の考え方が誤解だったことが分かります。また、障害があると病気がちになるという誤解もあります。しかし、障害者雇用の財政的な利点に関するアクセンチュアの調査では、障害者は生産性が高く、離職率が低いことが分かりました。また、職場の障害者インクルージョンを推進する企業は、売上高、利益率がそれぞれ28%、30%高く、純利益が約2倍という結果も出ています。これは、障害者インクルージョンが正しいだけでなく、ビジネスにとっても有益であることを示す確固たる証拠です。  

アメリカン・ビュー:障害者が職場で直面しうる問題にはどのようなものがありますか。そして、そのような困難にどう対処すべきだと思いますか。 

バーガー:一例として、単純に未知なるものへの恐れが挙げられます。障害者と接したことがない人は、自身の言動に少し神経質になります。その結果、職場での付き合いや同僚との関係づくりに影響を与えることになります。言葉の問題もあります。もし間違ったことを言って相手を不愉快にさせてしまったらと心配する人がいるかもしれません。これを解決する一つの方法が、感受性訓練と呼ばれる研修や障害者教育プログラムを企業が実施することです。このようなプログラムの一部は、啓発を目的としています。健常者が障害者と接するようになると、このような障壁や固定観念、偏見、恐れを打破できるようになります。(従業員の中に)このような気持ちを芽生えさせ、育てていくのが企業の役割です。また、企業は社会団体と緊密に協力し、草の根レベルで関わることもできます。  

ADA制定25周年記念式典に出席したヘレナ・バーガー。障害を持つ大学生のためのサマー・インターンシップ・プログラムに参加したメンティーとともに

ADA制定25周年記念式典に出席したヘレナ・バーガー。障害を持つ大学生のためのサマー・インターンシップ・プログラムに参加したメンティーとともに

アメリカン・ビュー:障害を持ちながら仕事で成功を収めている人もいます。可能であれば何人か例を挙げていただけますか。 

バーガー:私が以前会長を務めていたAAPDはこの20年、障害を持つ大学生を対象としたインターンシップを実施しています。参加者の1人で聴覚障害者のリア・カッツ・ヘルナンデスは、オバマ大統領の選挙運動に携わった後、ホワイトハウスの受付として採用されました。今はマイクロソフトのCEOオフィスに勤務し、コミュニケーションと社会関与の仕事に従事しています。他にもたくさんの成功談があります。AAPDのプログラムには今まで400人を超える学生が参加し、中には障害者権利の活動家になった人や、企業や弁護士事務所で働いている人もいます。公職選挙に立候補した人もいます。このように、障害者は優秀な人材の宝庫であることを企業に気づかせる必要があります。特に人材不足が顕在化している今、障害者はその救世主になりえます。 

アメリカン・ビュー:障害のある若者たちが一歩踏み出し、やりがいのある仕事を見つけるためのアドバイスをお願いします。 

バーガー:アメリカには「障害者プライド」と呼ばれる言葉があります。その意味は、ありのままの自分を誇りに思い、障害を人間であること、そして人間の多様性における自然で美しい要素であると認識することです。自分に満足し、自分にも達成できると感じることから始めると、それが成功につながっていくと思います。健常者と同じように、仕事を探す際にまず必要となるのは準備です。履歴書の書き方や面接のノウハウを教えてくれるコーチやメンターを探しましょう。自分の能力を決して過小評価せず、障害の有無にかかわらず、他の人と同じようにアプローチすることが大切です。

バナーイメージ:ニュージャージー州で開催された「全米障害者有権者登録週間」のイベントで講演するヘレナ・バーガー