ジョン・グレッグ 在日米国大使館環境担当書記官

気候変動対策は、長年にわたり米国政府の最優先事項のひとつとなっている。ブッシュ大統領は、就任1年目から一貫して、気候変動が起きていること、そして人類がその問題の一端を担っていることを認識してきた。

「第1に、地球の表面温度が上昇していることが分かっている。(中略)温暖化の一因として、自然の温室効果がある。(中略)そして全米科学アカデミーは、この上昇は主として人類の活動によるものである、と述べている」 (ブッシュ大統領、2001年6月11日)

これは、米国がこの問題に真剣に取り組んでいることを述べたブッシュ大統領の多くの声明のひとつである。この声明が発表されてからの6年間、各国 は、国際社会がどのように気候変動に取り組むことができるかという点について議論を続けてきた。今年5月、ブッシュ大統領は、世界各国が協力してこの問題 に取り組むための新たな戦略を発表した。ここでは、この戦略について説明したい。また、米国での活動がどのような成功を収めてきたか、そしてそれが5月に 発表した戦略の策定にどのように寄与したかについてもお話しする。さらには、日本と米国が気候変動対策で良好な協力関係を維持する中、米国の戦略において どのような点で協力することができるかについても述べたい。

米国の戦略

ブッシュ大統領の戦略は、発展途上国の経済成長に配慮しながら気候変動に取り組むものだが、これは当然のことである。エネルギーは開発にとって重 要であり、国家は成長と繁栄のために、より多くのエネルギーを入手する必要がある。これは、中国やインドのような発展途上大国においては、明白な事実であ る。中国は温室効果ガス排出量で最近米国を追い抜いたといわれており、今後数十年のうちに、増加する全世界の温室効果ガスの大半は、中国とインドというア ジアの2つの大国が排出することになるであろう。この2つの国が大量のエネルギーを必要としていることは明らかである。しかし、エネルギーには環境への影 響が伴う。従って、米国が答えを出すべき問題は、エネルギー消費量の増加に、環境面から見て賢明なやり方で対処するにはどうすればよいか、ということであ る。

この問題について検討を始めて以来、米国政府は気候変動の科学に対する理解を深めており、また技術的にどのような解決策が可能であるかを理解することによって、意義のある解決策を考え出してきた。

そこで、今年6月にドイツのハイリゲンダムで開催されたG8サミットに出席したブッシュ大統領は、気候変動に関する話し合いの席で新しい戦略を発 表した。大統領は、京都議定書が2012年に第一約束期間を終了した後の気候変動に関する新たな枠組みを作成する作業に、米国が率先して参加ことを約束す る、と述べた。また大統領はその方法についても説明した。米国の戦略は、すでに国内で実現している成功を基盤としており、以下の3つの部分から成る。

1.世界の主要排出国の代表を米国に招集

米国は2007年9月27日~28日、世界で最もエネルギー消費量と温室効果ガス排出量の多い国々および国連の代表を招き、会合を開く予定であ る。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国は189 カ国だが、わずか10~15カ国でエネルギー消費量と温室効果ガス排出量全体の80%以上を占めている。この会合では、温室効果ガス削減の長期目標につい て合意し、声明を発表したいと考えている。気候変動対策のプロセスにおいて、このような作業が共同で行われたことはこれまでなかった。

国立公園100周年イニシアティブについての議論に参加するジョージ・W・ブッシュ大統領とローラ夫人。2007年2月。(写真 White House photo by Paul Morse)

国立公園100周年イニシアティブについての議論に参加するジョージ・W・ブッシュ大統領とローラ夫人。2007年2月。 (写真 White House photo by Paul Morse)

温室効果ガス削減の長期的な展望について、インドや中国のような国々も含めて合意に達することを目指すほか、各国が、エネルギー安全保障の向上、大気汚染の緩和、温室効果ガス削減に向けた活動について、今後10~20年間の中期的な国家戦略を立てることになるだろう。

その後、運輸、発電、燃料、建設などの産業部門の代表を招集する。こうした分野では、この問題に非常に積極的に取り組む業界の指導者や非政府機関 (NGO)が存在する。各国からこれらの部門の代表者を集め、ベストプラクティス(最良の慣行)に関する情報を共有する共通の作業プログラムを立てるこ と、そして目標を設定することを検討する。これは、つい最近米国が「クリーンな開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)」で採用した手 法である。APPには、世界の温室効果ガスの半分以上を排出する米国、中国、インド、韓国、日本、およびオーストラリアの6カ国が参加している。これは、 京都議定書の下で目標を設定していないインドや中国のような発展途上国にもこの問題に関与してもらうための先取的な取り組みである。このプログラムでは、 部門ごとに膨大な量のベストプラクティスを集めており、日本は極めて積極的かつ生産的な参加国となっている。

そして最後に、各国の活動の進ちょく状況を見るときに正確な比較ができるようにするために、実績を評価するより効果的で透明性が高いプログラムを作成する。

2. UNFCCCにおける、より広範な重要課題の設定

米国の戦略の2つめの構成要素は、いくつかの重点分野について、UNFCCCの全締約国が参加する広範な重要課題を設定することである。そうした 重点分野のひとつとして、持続可能な土地利用、すなわち林業や農業の実施方法の改善や都市計画の向上がある。われわれは、深刻な問題である違法伐採をなく したいと考えており、森林破壊に歯止めをかけるために何ができるかを検討したい。

もうひとつの重点分野はエネルギーの効率化である。エネルギーの効率化はどの国家にも、誰にとっても恩恵をもたらす。さらに、技術の共有も重点分 野のひとつである。すなわち先進国から発展途上国への技術移転を促すためにさらに何ができるか、という問題である。APPでは技術移転について極めて生産 的な議論が行われたことにかんがみ、UNFCCCでも技術移転を重視することを決めた。

3. よりクリーンなエネルギー技術の世界的な普及を加速

そして第3の要素は、技術の進歩を促すプログラムの加速である。米国はすでに、先進的なクリーンエネルギー技術への投資を大幅に増やすことを確約 している。その最も顕著な例として、大統領は今年の一般教書演説で、先端バイオ燃料およびクリーンコール技術、その他の技術への投資予定額を示した。米国 は、諸外国の首脳にも同様の確約をするよう求め、皆が共同で研究プログラムを進めることを目指している。

米国は、多国間開発銀行によるクリーンエネルギーへの投資をさらに重視したい。多国間開発銀行は、何十億ドルもの資金を低コストで融資することが可能だからである。

2007年8月7日に在日米国大使館で行われた記者会見で、気候変動に対応するための米国政府の取り組みについて説明するジェームズ・コノートン米国大統領府環境評議会議長(写真 在日米国大使館)

2007年8月7日に在日米国大使館で行われた記者会見で、気候変動に対応するための米国政府の取り組みについて説明するジェームズ・コノートン米国大統領府環境評議会議長(写真 在日米国大使館)

さらに米国はほかの提案もしているが、そのうちのひとつはすでに実現可能な範囲内にある。関係各国は数年にわたり、ドーハ・ラウンド通商交渉の枠 組み内で、クリーンエネルギー技術の取引に対する関税障壁および非関税障壁の撤廃について話し合いを行ってきた。われわれは、これらの関税を撤廃するスケ ジュールについて、ドーハ・ラウンドでできるだけ早急に、少なくとも来年末までには必ず合意したいと考えている。関税の撤廃が早ければ早いほど、米国で広 く使われている多くの技術を早く世界の市場へ出すことができる。

そして最後に、米国政府は米国の納税者が払う税金を使って、さまざまな新しい技術の研究開発に資金を提供している。そうした技術は、極めて低いコストで 米国のメーカーに提供されることが多い。米国は、諸外国も同様の取り組みを行うと約束をすることを条件に、この政策を世界に拡大し、新たなクリーンエネル ギー・システムを生産している米国の納税者が、そうしたシステムを世界中で利用できるようにすることを提案している。

以上が今回の計画の要点である。われわれは、18カ月以内に気候変動に関する新たな枠組みを確立するために、この計画を来年末までに完了させたい と考えている。これらの構想は、現在米国に存在する堅固な基盤(エネルギー安全保障と気候変動への取り組みを助ける新たな規制制度、100億ドルを超える 税制上の優遇措置、無数の技術開発パートナーシップ)をもとに進めていく。さらに、今年初めの大統領の一般教書演説で世界中の人々に伝えられた、今後10 年間でガソリン消費量を20%削減し、乗用車による温室効果ガス排出増加に歯止めをかけたいという米国の強い願いも踏まえている。

米国は、以上のような諸課題について話し合おうとしている。これは、すでにヨーロッパでこうした活動の基盤を築いているブレア前英首相やメルケ ル・ドイツ首相の考え方と一致しており、これに沿うものである。ブッシュ大統領の戦略は、ハイリゲンダムのG8サミットで敬意を持って受け止められ、気候 変動に関して協力するというG8首脳の合意形成に一役買った。また、すでに議論が始まっているAPPの活動を踏まえて、G8諸国の多くが関心を持っている ことも承知している。従って、この問題に関しては、米国はゼロから始めるのではなく、すでに少しずつ始めているのだ。

世界各国の参加

われわれは、米国の手法が有用であると考えている。それは、中国、インド、ブラジルのような新興経済大国にとって、より魅力的なものだからであ る。われわれの真の課題は、G8諸国が一致してひとつの方向へすでに動きだしている今、どうすればその他の国々を参加させることができるか、ということで ある。ブッシュ大統領は、中国やインドが米国やヨーロッパと対等の立場に立つ中立的な場を作り、極めて高いレベルで話し合いを行うことを希望している。

APPでは、エネルギー安全保障、国民の貧困からの脱出、そしてクリーンなエネルギー源の開発が、インドと中国にとって重要であることが明らかに なった。議論を実用面に限るなら、インドや中国は、少ない燃料でより多くの電力を得る手段について知りたいと考えている。発電効率を高めるにはどうすれば よいのか。彼らは、それを話し合うことを望んでいる。そしてそれに応じれば、彼らは目標と実際の実施スケジュールを設定するだろう。

実際の行動計画を立てていないにもかかわらず、幅広い課題について一般的な議論を行おうとすると、各国ともためらい始める。それが自国の成長を制 約し、その結果貧困から抜け出す人々が減る、という現実的で正当な懸念を抱く。これらの国々もわれわれと同様主権国家であり、その主権は尊重されなければ ならない。米国は、将来の枠組みの妥当性、つまり、その枠組みが十分に野心的なものか、また各国の将来に関するそれぞれのビジョンに適合しているか、を時 間をかけて検討したいと考えている。従って、これらの諸国がわれわれとは異なる立場にあるということを尊重しつつ、彼らがわれわれと共に前進することを望 んでいるかどうかを見極めなければならない。

また、いずれは各国が、それぞれの国内事情に合わせて、温室効果ガスの排出量を削減する独自の戦略をつくり上げる、ということも尊重しなければな らない。各国が中期的な戦略を設定すれば、国際的なプロセスに立ち返って、地球全体で目標どおり前進していることを確認することができる。

こうした国際的なプロセスには当然、UNFCCCでのプロセスも含まれるが、われわれはUNFCCCでのプロセスを加速させたいと思っている。年 に1度のUNFCCC締約国会議に代わって、気候変動に関する新たな枠組みの基本的要素について18カ月以内に合意に達することのできるような継続的な話 し合いを開始したい。ここで合意に達することができれば、国連のプロセスで合意に到るための手段になる。 今のやり方では、各国の代表が毎年、会議で同じ意見を繰り返した後、本国に戻ってまた1年間現状を維持するだけだ。京都議定書に参加している国も、参加し ていない国も、現状に満足しており、進展が見られない。

米国は、新たな対話の場をつくろうとしており、その対話の成果は、京都議定書の第一約束期間の終了を数年後に控えた国連のプロセスに取り入れられる。この新たな場での議論は、UNFCCCと並行して行われ、同条約を強化するものである。

米国のその他の気候変動対策

もちろん米国が進めている気候変動対策はそれだけではない。この数年間に米国は、はるかに多くの活動をしている。ブッシュ大統領は、米国が気候変 動問題に関して指導的な役割を果たすことを約束し、2001年以降、気候関連の科学、技術、国際援助、および奨励プログラムの推進に、290億ドル近い資 金を提供している。これは、他のどの国家をも凌ぐ額である。2002年以降、ブッシュ政権は、このうち90億ドル以上を気候変動に関する研究に費やしてい る。また、大統領の指示に従い、関係機関が気候科学に関する10年間の戦略的研究計画を作成し、全米科学アカデミーがこれを承認した。さらに、連邦政府の 資金援助を受けた科学者たちがさまざまな研究を行い、その結果を論文や専門誌で発表し、世界各地の研究者、政策策定者、およびマスコミ関係者と議論してい る。

アパラチア山脈の美しい自然(写真提供 米国地質調査所)

アパラチア山脈の美しい自然(写真提供 米国地質調査所)

2003年から2006年までの間に、ブッシュ大統領は、気候変動対策のための技術研究・実施プログラムに、年間30億ドル近い予算を割り当てた。この 金額は世界のどの国よりも多い。ブッシュ政権は、パートナーシップ、消費者に情報を提供する運動、奨励策、規制など、何十もの連邦プログラムを実施してい る。これらのプログラムは、よりクリーンで効率的なエネルギー技術の開発と展開、環境保全、二酸化炭素の生物的隔離や地中隔離、および適応を対象としてい る。米国は、バイオ燃料の生産と消費の推進においても世界のリーダーであり、昨年はバイオ燃料の消費量世界一であった。また、極めて効率性の高い先端的な 石炭技術の商業利用でも世界を主導しており、9つの州で9つのプロジェクトを立ち上げるという何十億ドルもの資金を必要とする民間部門の取り組みに対し て、新たな税制上の優遇措置を設けて、10億ドルの減税措置を行い、この取り組みを推進した。今年はほかにも税の優遇措置を予定している。

最も重要なことだが、米国が圧倒的な金額の資金を拠出し、責任ある政策を実施していることが効果を上げている。2000年以降、米国は温室効果ガ スの排出削減で、世界有数の実績を上げている。国際エネルギー機関によると、2000年から2004年までの期間に、米国では人口が増加し、経済も10% 近く成長する中、二酸化炭素排出量の増加率はわずか1.7%であった。同じ期間、欧州連合では経済成長率は米国より低かったが、二酸化炭素排出量は5%増 加した。

米国は、地球規模の気候変動という深刻かつ長期的な課題に取り組むために、G8諸国およびその他の主要国と緊密に協力することに加えて、2001 年以降、気候変動に関して他国や地域機関と15の2者間パートナーシップを結ぶとともに、複数の多国間気候変動イニシアティブを確立している。

結論

排出増緩和で上げた成果を見れば、わが国の取り組みが有用であることは明らかだ。温室効果ガスの最大の排出国同士が、特にクリーンエネルギー技術 の移転の方法について議論することによって、達成可能な目標を設定でき、本当の意味での排出量の削減を実現し、気候変動との闘いにおいて真に前進すること ができる、とわれわれは信じている。私は、こうした現実の課題について、日本の環境省、外務省、および経済産業省の人たちと定期的に話し合っている。 8月初旬に、気候変動に関して日米の高官レベルの協議が行われるが、米国政府は、今秋米国の戦略を実施するに当たり、日米間で緊密な協調を続けていきたい と考えている。気候変動はグローバルな課題であり、日米両国はその解決のために協力しなければならない。