キャシー・オーウェンズ

ツイッターが変えるコミュニケーション

近年最も注目が集まった「ラップビーフ」(アーティスト間の論争)は、昨年7月に投稿された数件のツイートから始まった。ラッパーのミーク・ミルが、2015年アルバム売り上げ首位のラッパー、ドレイクは自分で全部作詞していないとツイートで批判。

「俺と奴を比べるな。あいつは自分でラップを書いてない。俺のアルバムをツイートしないのも、ばれたって思ってるからさ」

「俺と奴を比べるな。あいつは自分でラップを書いてない。俺のアルバムをツイートしないのも、ばれたって思ってるからさ」

ラッパーとしての才能を中傷されたドレイクも黙っておらず、ディスる(けなす)曲で反撃に出た。この曲はすぐに広まってソーシャルメディアの世界で大騒ぎになった。事態はまだ収まっていない。

 

ツイートをきっかけにこのような状況が生まれることは、10年前には想像すらできなかった。ミニブログは当時まだメディアとして確立されていなかった。しかし、それだけが理由ではない。ツイッターの登場で、人々のコミュニケーション方法が変わったからだ。ジンバブエの国立公園の人気ライオン「セシル」の射殺に寄せられた非難の声、好きなテレビ番組をめぐる視聴者同士のディスカッション、記事になる前に流れるニュースなど、全てソーシャルメディアが発信源だ。

その最たる例が、ミズーリ州ファーガソンで起きた黒人少年マイケル・ブラウンの死をめぐる論争だ。2014年8月9日、ブラウンは地元警官に呼び止められ、その後射殺された。武器は持っていなかった。ブラウンの死に端を発した抗議活動が広まるにつれ、この少年は警官の手により奪われた黒人の命の象徴となった。現場で抗議活動に参加する人や記者たちは、暴動へと発展していくデモの最新情報や写真、録画映像、ライブ動画などをツイッターで共有。騒動が鎮静化した頃には、人種差別や警官の残虐行為について全米で議論する必要性が固まっていた。

Officers and protesters face off along West Florissant Avenue, Monday, Aug. 10, 2015, in Ferguson, Mo. Ferguson was a community on edge again Monday, a day after a protest marking the anniversary of Michael Brown's death was punctuated with gunshots. (AP Photo/Jeff Roberson)

警官とにらみあう抗議者たち。マイケル・ブラウン射殺事件から1年を迎えたファーガソンで行われた抗議デモは発砲事件により中断した (AP Photo/Jeff Roberson)

「#BlackLivesMatter」(黒人の命は大切)というハッシュタグがある。人種差別や警官による残虐行為に終止符を打つことを求める訴えと、#BLMという造語の作者である女性たちが設立した全国組織の両方を意味するものだ。ハッシュタグはソーシャルメディアの力の象徴だ。だからこの組織は公式名称をハッシュタグの形にしている。ツイッターは、米国の社会運動にとってニュースを共有する主要な手段となっており、特に#BLMにとってはその傾向が強い。これも10年前には想像し難かったことだ。

我々の歴史を考えたら、この問題には社会で取り組まなければならない

「我々の歴史を考えたら、この問題には社会で取り組まなければならない」

なぜツイッターは私たちの文化を変えることができたのか? これを理解するために、とあるバーにいる自分を想像してほしい。バックではテレビからニュース番組が流れている。近くに座っているカップルは話に夢中で、それ以外のことは気に留めていない。一方、横に座っている常連客はテレビ画面に釘付け。メディア研究者のアンナ・マッカーシーは、これを「アンビアント・テレビジョン」と呼ぶ。音声や映像が、店舗やコインランドリー、病院の待合室などで私たちが体験していることの背景の一部となり、このような空間にいるうちに情報が断片的に意識に染み込んでいく、という意味だ。

例えば、ニュースキャスターが番組で見当違いの発言したとしよう。「ありえない!」と反論するあなた。バーテンダーも同意見。2人そろって茶々を入れる。もちろん、キャスターには聞こえないし、バーにいなければ、話の内容はわからない。デジタルメディア専門家のアルフレッド・ハーミダは、ソーシャルメディアによって視聴者とニュースを制作する側の間にあった距離がなくなったのではないかと指摘する。記者、やじをとばす人、視聴者はみな同じプラットフォームを共有し、会話し、「より参加型のメディア体系」へと移行している。

ハーミダは2010年に発表した論文の中で、「多対多による非線形のデジタルコミュニケーションにより、メディア制作や情報発信の手段が大衆の手に委ねられるようになり、聴衆とジャーナリストの関係が変わりつつある」と指摘した。

しかし、ツイッターがしているのはニュースの世界の書き換えだけではない。ピュー・リサーチー・センターは、ツイッターを活用して政治家とかかわろうとする動きが米国人の間で広まっていると報告している。2016年の米国大統領選挙予備選の候補者たちによる討論会により、参加型メディアの概念が全く新しいレベルに至った。討論会の最中、#GOPDebateや#DemDebateのようなハッシュタグを使って、討論の内容についてライブツイートしている他方の政党の候補者や政治アナリストからコメントが寄せられる。民主党候補者による第2回討論会では、ツイッターがCBSニュースと組んで視聴者の反応を分析したり、視聴者からの質問を候補者に議論してもらったりした。イベントを見ている多数の視聴者からの反応を即時にフィードバックすることで、ユーザーがあたかも「世界最大のソファ」に寝そべって討論会を見ているような体験をしてもらうことこそ、ツイッターの目的だった。

2015年12月19日、ニューハンプシャー州で開催された民主党大統領候補による討論会の最中にデータを分析するツイッターの社員 (AP Photo/Michael Dwyer)

2015年12月19日、ニューハンプシャー州で開催された民主党大統領候補による討論会の最中にデータを分析するツイッターの社員 (AP Photo/Michael Dwyer)

ツイッターは企業のマーケティングにも影響を及ぼしている。アメリカの衣料メーカー、アメリカンアパレルは、従来の「性別」に堂々と逆らう十代の少年を新しいキャンペーン広告に起用した。彼は元々、ニューヨーク市のアフリカ系・ラテン系のゲイたちが、ヴォーグ誌でモデルが取るポーズをまねてつくり上げた「ヴォーギング」というダンスを踊って口コミで人気になった。アメリカンアパレルのポーラ・シュナイダー最高経営責任者(CEO)がマリー・クレール誌とのインタビューで語ったところによると、今後このような広告はさらに増えると思われる。「弊社の顧客は社会論評を期待している。そして社会論評が自らの生活の一部になることも期待している」。この新しい有名モデルの誕生がソーシャルメディアの力によることは明らかだが、アメリカンアパレルのマーケティング戦略が、ツイッターで起きている一連の社会の動きの余波であることもおそらく間違いない。

ではツイッターがもたらすアメリカ社会への影響はこれからどうなるのだろう? 予測は簡単ではない。メリーランド大学の研究者たちは、2009年に発表したツイッターでのニュース共有に関する報告書で「ツイッター、あるいはその後継版が、人間がある瞬間に経験している全ての事柄をとらえ発信する未来型テクノロジーの先駆けであると気づくことが大切」と指摘した。この予測は曲がりなりにもすでに現実になりつつある。

 

cassie owensキャシー・オーウェンズは、フィラデルフィアを中心に主に都市や文化について執筆するフリーライター。フィラデルフィアのオンライン情報サイト「Next City」、Philadelphia City Paper紙、CNN.com 、Jewish Daily Forward紙など多数の出版物に寄稿している。Twitterアカウントは@cassieowens