デビッド・キンディ

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ぱちんと指で押しつぶさずにはいられない製品が生まれたきっかけは、2人の発明家による失敗――

幼いハワード・フィールディングが父親の発明品を手に取った時、まさか自分の次の行動が新たな流行を生み出すとは想像すらしなかった。彼が手にしたのは、表面に気泡の粒がたくさん並ぶ1枚のプラスチックシート。この奇妙な感触の物体を思わず指で押してみた。するともう止まらない。次々と気泡を押しつぶすのに夢中になったのだ。以来、世界中の人たちが同じことをするようになった。

つまり、当時5歳だったフィールディングは、後に「バブルラップ」と呼ばれる気泡緩衝材をぱちんぱちんと指で押しつぶして遊んだ最初の人物だ。バブルラップの発明は、運送業界に革命をもたらし、eコマース時代の到来を可能とした。世界では毎年、何十億個という荷物が配送されている。バブルラップのおかげで、これらの荷物は壊れることなく輸送されている。

フィールディングは当時を振り返る。「覚えているのは、バブルラップをじっと観察していたことです。そして本能的に『ぎゅっと押してみたい!』と感じました」

ニュージャージー州サドルブルックにあるシールドエア社の建物内で、巨大なバブルラップのロールを運ぶ従業員 (AP Photo/Christopher Barth, File)

ニュージャージー州サドルブルックにあるシールドエア社の建物内で、巨大なバブルラップのロールを運ぶ従業員 (AP Photo/Christopher Barth, File)

「私はバブルラップをぱちんと指で押しつぶした人物第1号と言われていますが、それは違います。父の会社で働いていた大人たちも、品質保証のためにやっていたと思います。でも、自分がバブルラップをつぶす遊びをした『子ども第1号』だったのは間違いないと思います。気泡は今よりもずっと大きく、押すとぱちんぱちんとはじけるあの感覚は、とにかく愉快でした」

バブルラップを発明したのは、フィールディングの父アルフレッド・フィールディングと、彼のビジネスパートナーであるスイス人化学者のマルク・シャバンヌだ。1957年、2人は台頭するビート世代向けに質感のある壁紙を作ろうと、ビニール製のシャワーカーテン2枚を重ね合わせてみた。ヒートシール機で貼り付ける作業をしたが、結果は失敗。フィルム材の間に気泡が入ったのだ。

しかし、この2人、転んでもただでは起きなかった。エンボス加工とラミネート加工の工程と、それに必要な機器の特許7件をまず取得。その後で用途を考え始めた。400以上ものアイデアが浮かんだが、そのうちの一つが温室用の断熱材だった。しかし、最終的には壁紙と同じだった。実際に温室で実験してみたが、効果が得られなかったのだ。

フィールディングとシャバンヌは「バブルラップ」と商標登録したこのユニークな製品の開発を引き続き行い、1960年に「シールドエアーコーポレーション」を設立した。翌年バブルラップを梱包材として使うことを決めると、これが大当たりした。当時IBMはコンピューター業界で空前のヒットとなる「IBM 1401」を発表し、このデリケートな機材を破損することなく輸送できる方法を模索していた。その後どうなったかは、語るまでもないだろう。

シールドエアの製品管理部門で技術開発を担当するチャド・スティーフンス副社長は、バブルラップはIBMへの解決策だったと語る。

「IBMは壊れる心配をせず、コンピューターを出荷できるようになりました。このことから他の企業も追随するようになりました」

小規模の梱包会社にとって、バブルラップは待ち望んでいた技術であり、すぐに採り入れられた。それまでは、丸めた古い新聞紙を梱包材として使用していたが、新聞紙のインクで製品や作業員が汚れるという問題があった。製品保護も決して十分なものではなかった。

バブルラップの人気とともに、シールドエアも成長し始めた。異なる形や大きさ、強度、厚みの製品を展開し、気泡のサイズ、シートの長さ、ロールの大きさを変え、用途を拡大した。その間に、気泡の粒をぱちんぱちんと押しつぶす遊びを楽しむ人も増えていった。スティーフンス副社長も例外ではない。「ストレス解消」のための気泡つぶしを認めている!

Creativity103による“Bubble Wrap”  ライセンスはCC BY 2.0に基づく

だが、シールドエアはまだ利益を上げていなかった。そこで、会社の経営を引き受けたのが、ダーモット・ダンフィだ。1971年に最高経営責任者(CEO)に就任すると、就任1年目に500万ドルだった年間売上高を、退職した2000年には30億ドルにまで押し上げた。

ダンフィは現在86歳。今なお現役で、自らが設立した資産運用会社「キルデアエンタープライズ」で毎日働いている。「マルク・シャバンヌは先見の明があり、アルフレッドは一流のエンジニアでした」。ダンフィは2人をこう評価する。「ところが、2人は会社経営というものに全く興味がなく、発明だけに没頭したいタイプだったのです」

起業家として経験を積んだダンフィは、シールドエアの事業の安定と製品の多様化に力を注いだ。また、ブランド拡大のため、スイミングプール事業にも進出した。バブルラップで作ったプールカバーは、大きな空気ポケットがあり、そこに太陽光を集めることでプールの水を保温する仕組みだ。残念ながら、この空気ポケットをぱちんと指で押しつぶすことはできないが、商品は大ヒットし、数年間人気を博した。この事業は後に売却された。

ハワード・フィールディングの妻で、偶然にも特許情報の専門家であるバーバラ・ハンプトンは、彼女の義父とマルク・シャバンヌがやりたいようにできたのは特許のおかげだと指摘する。2人が申請したバブルラップ関連の特許は合わせて6件で、そのほとんどはプラスチックのエンボス加工とラミネート加工、および関連機材に関するものだった。マルク・シャバンヌはそれよりも前に、熱可塑性フィルムの特許を2件申請していたが、気泡入りの緩衝材のことは頭の片隅にもなかったと思われる。

「特許とは、クリエイティブな人に自らのアイデアで成果を出す機会を与えるものです」(ハンプトン)

シールドエアは現在、フォーチュン500社に選出される企業へと成長した。2017年の売上は45億ドルで、従業員は1万5000人。世界122カ国で事業を展開している。本社は元々ニュージャージー州にあったが、2016年にグローバル事業本部をノースカロライナ州へ移転した。現在は、薄いプラスチック材で食品などを密着包装する「クライオバック (Cryovac®)」などの製品も製造・販売する。

実は気泡の入っていないバブルラップ製品も提供されている。気泡がないため、顧客への運送コストも安価だ。

「これは空気を後で注入するタイプの商品で、従来の気泡入りの大きなロールシートとは異なります。空気が全く入っていないフィルムをロールしているので、必要な時に空気を挿入できる装置がついています。とても効率性の高い商品です」(スティーフンス副社長)

 

*本記事はSmithsonian Institutionの許諾を得て、以下を翻訳したものです。

Kindy, David. “The Accidental Invention of Bubble Wrap.” Smithsonian.com, Smithsonian Institution, 23 Jan. 2019,
www.smithsonianmag.com/innovation/accidental-invention-bubble-wrap-180971325/.

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