シェリル・ペレリン、国務省サイエンス・ライター

官民連携で目指す宇宙旅行の商業化―成長する宇宙関連ビジネス

惑星間旅行などというものは、SFの世界ではありふれた話だが、地球に住む人々がこれを実現するのはまだまだ先のことである。しかし米国では、よ り多くの人々が仕事や遊びで、容易にかつ安価に宇宙に行くことができるようにするために、連邦政府機関と先駆的な企業が、小さいけれども、とても重要な1 歩を踏み出そうとしている。

5月2日にニューメキシコ州アップハムのスペースポート・アメリカの打ち上げ台から打ち上げられるスペースロフトXLロケット(© AP Images)

5月2日にニューメキシコ州アップハムのスペースポート・アメリカの打ち上げ台から打ち上げられるスペースロフトXLロケット(© AP Images)

今日、世界中の民間宇宙基地で活動が活発になっている。商業打ち上げロケットで、通信衛星、リモートセンシング衛星、あるいは科学衛星を軌道に運 んだり、一般の人でも、2000万ドル、あるいはそれ以上の料金を支払って国際宇宙ステーションに10日間滞在したり、5000ドル払って曲技飛行する ボーイング727型の改造機に乗り、無重力状態を体験することができる。

米国で商業宇宙輸送事業の設立支援にかかわる主な連邦政府機関の2つが、米国航空宇宙局(NASA)と連邦航空局(FAA)である。  FAAの商業宇宙輸送局は、商業打ち上げ業者と宇宙基地に免許を付与し、民間宇宙飛行士の認定を行う。

NASAは、選ばれた企業による貨物宇宙船の製造と、国際宇宙ステーションへの飛行を支援するために、何十億ドルも拠出している。NASAが2010年にスペースシャトル全機を退役させると、この能力を持つのは、ロシア連邦宇宙局ロスコスモスと欧州宇宙局のみとなる。

ヒューストンにあるジョンソン宇宙センターで商業乗組員・貨物プログラムのマネージャーを務めるアラン・リンデンモイヤーは、「NASAが持つ資 源は、先端技術に投入しなければならない」と語った。「私たちは、再び人間を宇宙に送り出し、月や火星やそれより遠くにある惑星を探査するという難しい課 題に重点を置く必要がある。いったん技術が実証されれば、産業界にその技術を委ね、彼らがより効果的な方法でそれらのシステムを運用できるようにしなけれ ばならない」

宇宙への輸送

NASAは1958年に国家航空宇宙法に基づいて設立されて以来、商業宇宙活動の促進を義務付けられてきた。2005年に、当時のマイケル・グリ フィン長官の下で、NASAは、ホワイトハウスと連邦議会の承認を得て、商業宇宙運輸業界の発展の支援と宇宙ステーションへの飛行サービスの競争市場の創 出を目的に、5年間(2006~10年)で5億ドルの資金を拠出することを許可した。

商業乗組員・貨物プログラムの下で、NASAは、民間企業と商業軌道輸送サービス(COTS)のパートナーシップを組み、産業界に対して、非加圧 貨物の輸送、加圧貨物の輸送、貨物の輸送と回収、および乗組員の輸送という4つの能力のうち、いずれかを有することを実証するよう求めた。

NASAは21 件の提案書を受け取り、その中から2件を選定した。カリフォルニア州のスペース・エクスポラレーション・テクノロジーズ(スペースX)社(拠出額2億 7800万ドル)と、オクラホマ州のロケットプレイン・キスラー社(拠出額2億800万ドル)で、宇宙ステーションなどの有人施設の支援に必要な輸送機、 システム、および運用の開発と実証を行うことを目的としていた。それぞれの会社には、作業の進行に伴い、一連の財政面および技術面の目標を達成することが 義務付けられていた。

リンデンモイヤー氏によると、キスラー社が目標の一部を達成できなかったため、NASAは2007年10月、同社との「契約を解消」した。そし て、再度行った競争入札で13件の提案書が提出され、NASAはその中から、バージニア州オービタル・サイエンス社をパートナーシップ参加企業として選定 した(拠出額1億7000万ドル)。

オービタル社は、2011年に行う宇宙ステーションへの飛行で、加圧輸送の能力を実証する予定である。また、スペースXは3回の飛行を計画してお り、その1回目として、2009年末までに、2段式ロケット「ファルコン9」と「ドラゴン」カプセルの打ち上げを予定している。ドラゴンは地球を数周し、 大気圏に再突入した後、南カリフォルニア沿岸に着水する予定である。

リンデンモイヤー氏によると、2010年に予定されているスペースX社の2回目の飛行は、宇宙ステーションの近くを通過し、2010年末までに行われる3回目の飛行は、宇宙ステーションへのドッキングが予定されている。

2008年の12月に、NASAはオービタル社およびスペースX社と、宇宙ステーションへの貨物輸送サービスの契約を結び、オービタル社には約 19億ドルで9回の飛行を、スペースX社には約16億ドルで12回の飛行を発注した。契約の有効期間は2009年1月から2016年12月までで、各契約 では、最低でも20トンの貨物を宇宙ステーションに届けることが要求されている。

「宇宙への輸送は、もっと容易に、もっと安価に、そしてもっと日常的にならなければならない。これを実現するために、私たちはこうした試みをしているのだ」とリンデモイヤー氏は言う。

2004年、準軌道飛行後にカリフォルニア州モハービに着陸する民間飛行機「スペースシップ・ワン」 (© AP Images)

2004年、準軌道飛行後にカリフォルニア州モハービに着陸する民間飛行機「スペースシップ・ワン」 (© AP Images)

安全第一

FAAの商業宇宙輸送局(AST)は、2つの任務を担う。ひとつは、ロケットの商業打ち上げ時と大気圏への再突入時における市民の安全確保であり、もうひとつは商業宇宙輸送の奨励、支援、および促進である。

FAAのジョージ・ニールド局長代理(商業宇宙輸送担当)は、市民の安全を守るための最も重要な手段のひとつは打ち上げ許可である、と語った。い かなる米国市民または企業も、ロケットの打ち上げを希望する場合には、打ち上げ場所が世界中どこでも、ASTから免許を受けなければならない。

「これまでに196件の打ち上げ免許を付与したが、市民を巻き込んで死者や重傷者あるいは重大な物的損害を出した事故は1件もない」と、ニールド局長代理は言う。「これは、私たちが大いに誇りとする安全記録であり、今後もこれが続くことを望んでいる」

また、ASTは宇宙基地と呼ばれる打ち上げサイトと再突入サイトについても免許を付与する。免許を受けたサイトには、ケープカナベラルのスペース フロリダ、バージニア州ワロップス島の中部大西洋地域宇宙基地、アラスカ州のコディアック射場、カリフォルニア州のモハーベ宇宙基地、バーンズ・フラット にあるオクラホマ宇宙基地、そして2008年12月に許可が与えられたニューメキシコ州のスペースポート・アメリカなどがある。

各宇宙基地は、他の米国政府機関による政策面での審査や、最大積載量、安全性、環境および財政面についての審査を受けなければならない。

「現在、ほかにも、宇宙基地の運営を行う可能性がある業者数社について審査を進めている。従って、今後数年のうちに、関心がさらに高まり活動が盛んになることが予想される」とニールド局長代理は話している。

ニールド局長代理によると、米国以外にスコットランド、スウェーデン、シンガポール、およびアラブ首長国連邦が国内に宇宙基地を建設する計画を発 表している。これは「主に、ヴァージン・ギャラクティック社などの企業が提案している準軌道の宇宙観光旅行を主催するためのもの」である。

ASTは、マイク・メルビルとブライアン・デニーに商業宇宙飛行士の資格を認定した。彼らは、「スペースシップ・ワン」と呼ばれる、スケールド・コンポジッツ社が開発した宇宙船で、2004年に初の民間資金による有人飛行を成功させた。

ニールド局長代理は、ASTは今後も、未来の商業宇宙飛行士の資格認定を行っていくと話している。