ほとんどの民主国家では、新政権への移行期間は短いものです。しかし、アメリカの移行期間は約3カ月あります。

政権移行に時間がかかるように見えますが、もともと憲法に定められていた現職大統領から新大統領への交代期間である4カ月よりは短くなっています。

早まった就任

新旧大統領の交代期間が11月から3月の間と定められたのは18世紀のことで、これは情報の伝達や人の動きに時間がかかったからです。議会制民主主義を採用している国では、通常、閣僚は議会から選ばれます。しかし、アメリカはこのような国とは異なります。広い国では政治人材は全国に散らばっています。

指導者たちが新大統領の就任を早めたほうがいいと確信したのは、アメリカが世界恐慌で直面した困難からでした。これをきっかけに、「レームダック」と呼ばれる期間が4カ月から3カ月弱に短縮されることになりました。(「レームダック(死に体)」とは、後任の大統領が既に選出されている現職大統領のことを指す言葉。この期間、現職大統領の政治力は弱まる。)

1933年に批准された憲法修正第20条は、新大統領就任式を1月20日と定めました。選挙日が11月初旬であることに変わりはありません。

南メソジスト大学大統領史センターでディレクターを務めるジェフリー・エンゲル氏は、「組閣と政権幹部の選出は時間がかかる作業」と言います。「新政権が誕生すると、ケーキにフロスティングを施さなければなりません。ケーキにあたる部分が官僚組織で、[フロスティングにあたる部分が新たに任命された高官や閣僚です]。「ケーキ職人ならわかりますが、フロスティングは30秒ほどでも可能です。ただ、そうすると見た目がよくありません」

1789年、ニュージャージー州トレントンの町で就任式に向かう初代大統領ジョージ・ワシントンと彼を迎える群衆 (© Alamy)

1789年、ニュージャージー州トレントンの町で就任式に向かう初代大統領ジョージ・ワシントンと彼を迎える群衆 (© Alamy)

独特な民主主義制度を持つアメリカ

新旧大統領の交代に3カ月の期間を設けるには別の理由もあります。アメリカでは、議会選挙で勝利した政党が決定権を持つのではなく、大統領は一般選挙が行われた数週間後に選挙人団によって選ばれます。大統領は選挙後直ちに就任することはできませんが、勝者は政権移行に必要な資金を受け取り、退陣する政権から業務の引き継ぎを受けることができます。

フロリダ州立大学のエリザベス・ゴールドスミス名誉教授は、「選挙が終わると感謝祭、そしてクリスマス、ハヌカといったホリデーシーズンを迎えることから、移行期間は国民にとっても楽しい期間になる」と言います。

アメリカは大統領が行政の長であると同時に国家元首でもあることから特異であると言えます。(イギリスの例でいえば、首相と女王両方の職に就任するようなものです。)

政権移行は楽しい期間に見える一方で、ホワイトハウスでの政権交代は1月20日に素早く行われるため、政府職員の戦術チームが必要となります。通常、ホワイトハウスの明け渡しは、現職大統領が就任式に向かうためホワイトハウスを後にしてから行われます。式典の数時間後には、新大統領がホワイトハウスに入ってきます。ゴールドスミス氏は、数百人もの職員は夜明けとともに新大統領を迎えるため132の部屋と執務室などの準備に取り掛かると説明します。

アメリカの住宅の専門家であるゴールドスミス氏は、「ここから始動するのです。新大統領を迎えるため舞台裏では、ベッドメイキング、歯ブラシの準備など、スタッフたちは準備に追われています」と言います。

バナーイメージ:2017年就任式。夜明けを迎える連邦議会議事堂 (© Patrick Semansky/AP Images)