ジェーン・ブライス・ウォレン博士

ジェーン・ブライス・ウォレン博士

 ジェーン・ブライス・ウォレン博士は英語教育の専門家であり、1991年以降、大学院生から幼稚園児までの幅広い生徒を対象に英語指導を行ってきた。また、ミシガン州のカラマズー大学で、留学生のための英語学校(ESL)プログラムの開設に関わったほか、グアテマラの小・中学校でボランティアの英語教師を務めた経験も持つ。2008年から2009年までは、京都の同志社大学で客員研究員を務めた。この間、第2言語教育、社会言語学、カリキュラム開発、日本の歴史と文化といった分野に関する幅広い知識と経験に基き、日本各地のアメリカンセンターで開催された英語教育法および学習活動に関する数々のワークショップで、研究を発表した。このインタビューは、ウォレン博士が日本滞在中に行ったものである。

 ウォレン博士はこれまで、さまざまな立場で日本で仕事をされていますが、最近はどのような仕事に就いていましたか。また、ご自分の専門分野は何だとお考えですか。

ウォレン博士 今年の7月31日まで、同志社大学の文化情報学部で客員研究員として勤務していました。

私は日本の大学に留学していた時に英語を教えていましたが、正式に教え始めたのはインディアナ州に住んでいた時で、英語の集中講座で教えていました。第2言語としての英語教育の分野で修士号を取得し、さらに博士課程に進む決意をしたのは、その時の経験からです。

私は、言語教育、中でも文化面の教育にオンラインツールを利用することにとても興味があります。同志社大学では、大学生の英会話能力を向上させるためのオンラインポートフォリオ・プロジェクトで、教職員の方々と協力する機会を得ました。

 日本では、英語教育が大きな話題となっていますが、英語教育を効果的に行うために重要な要素にはどのようなものがありますか。また、初めて英語を教える先生たちに何かアドバイスはありますか。

ウォレン博士 もちろん、熱意と刺激的な要素は不可欠ですが、授業や学習活動がクラスの生徒たちのニーズを確実に満たすようにすることも重要です。教師が授業計画を立てる前に、クラスの目的や目標をしっかり把握することをお勧めします。そして、その目的や目標の達成に向けて授業が計画されていることを確認すること。しかし、何よりも、教師自身が授業を楽しむことですね。教師が授業を楽しめば、生徒も授業を楽しみますから。

子供に英語を教える場合、創造力が不可欠です。授業での学習活動が毎回ワンパターンでは、生徒はすぐに飽きてしまいます。語彙(ごい)や文法を覚えさせるために生徒に反復練習させるのですが、その際にさまざまな学習活動を用いることが重要です。子供たちは、動き回ったり、学んだ言葉を使うことのできる活動は何でも好きです。特に、ゲームやロールプレーイング(役割演技)が好きですね。

 大きくなってからでなく、幼いころから外国語を学ぶ利点にはどのようなものがありますか。

ウォレン博士 一般的に、非常に幼いころから第2言語を学べば、ネイティブ・スピーカー(その言語を母語として話す人)並みの発音になります。また、子供は他人の目を気にすることが少ないので、間違えても積極的に話そうとします。これによって、自分の知識を試し、語学力を高めることが可能になります。一方で、年齢を重ねてから語学を学習する場合は、既にほかに学習経験があるため、新しいことを勉強し、学習する方法を知っている、という利点があります。さらに、年齢が上の生徒は第1言語の幅広い知識を持っているので、第2言語を第1言語と関連付けてうまく学ぶことができる、という利点もあります。

 大人と子供では英語の指導方法は異なりますか。

ウォレン博士 はい。中学生ぐらいまでは、文法を系統立てて教える必要はありません。むしろ、授業は楽しく、子供たちにできるだけ多く英語を話させるように工夫しなければなりません。大きくなれば文法の規則や構造を学ぶ機会や理由もあるでしょうが、小さい時に必要なのは、英語を話す練習をすることだけです。一般的に大人の場合は、実際に英語を使う機会をたくさん提供しながら、系統立った文法指導を行うと上達します。

 文化は英語学習にどのような役割を果たしますか。

ウォレン博士 文化は、語学学習に不可欠な要素です。文化を学ばずして外国語を学ぶことはできません。英語は興味深い言語です。なぜなら、英語を第1言語とする文化が世界中に多数存在するからです。英語の授業では、話題にできる文化的側面がいろいろあるので、とても楽しいです。

東京アメリカンセンターで講演するウォレン博士(写真提供 東京アメリカンセンター)

東京アメリカンセンターで講演するウォレン博士(写真提供 東京アメリカンセンター)

 米国の文化を教えるためにどのような活動を取り入れていますか。

ウォレン博士 私は米国の文化的側面を伝える写真をよく使います。例えば、7月4日の独立記念日の写真などです。米国人が独立記念日を祝う写真を見ることで、米国の文化について多くを学ぶことができます。例えば、パレード、バーベキュー、花火、赤・白・青色の飾りつけなどの写真を見せることで、家族や愛国心といった米国人の価値観を教えることができます。生徒たちは写真を見て楽しみながら、独立記念日のお祝いについて学んだことを話し合います。この学習活動は、英語能力が低い生徒にもたいへん効果があります。

 英語を学ぶ上で、日本人の生徒に特有の問題はありますか。どうすればそのような問題を克服することができますか。何か具体的なアドバイスはありますか。

ウォレン博士 多くの日本人の生徒は会話に自信がなく、何と言ったらいいか確信が持てるまで話そうとしません。しかし、調査によると、言おうとしていることが正しいと確信していなくても積極的に話そうとする生徒の方が、語学学習に優れていることが分かっています。ですから、日本人の生徒は、たとえ間違えるのではないかと思っても、コミュニケーションを図ろうとすることが重要です。教師がすべての間違いを訂正するようなことをしなければ、生徒は気楽に英語を話すようになります。

日本人の生徒に対する私のアドバイスは、できるだけ英語を話す練習をしなさい、ということですね。自分の言いたいことをどう言えばよいのか分からなくても話すこと。質問をたくさんすること。時間をかけて英語圏の文化を学ぶこと。英語圏の文化について英語で読んで、英語を使う練習をすること、です。

 英語を学ぶために、生徒は授業以外にどのような活動を行うとよいですか。

ウォレン博士 インターネットを利用すれば、生徒は授業以外にもさまざまな方法で英語を学ぶことができます。音楽を聴いたり、テレビを見たり、映画を見たり、興味のあるいろいろな読み物を読むこともよいでしょう。そして、学んだ英語を使うために読んだことを皆で話し合うことは、素晴らしいことだと思います。

 子供の英語学習で、親にできることはありますか。

インタビュアー: レイバン・L・ムーア シカゴ大学ハリス・スクール(公共政策)の大学院生。2009年夏、在日米国大使館報道室のインターンを務める。以前日本の英語学校で講師を務めた経験を持ち、ジャーナリストとして記事も書いている。

インタビュアー: レイバン・L・ムーア シカゴ大学ハリス・スクール(公共政策)の大学院生。2009年夏、在日米国大使館報道室のインターンを務める。以前日本の英語学校で講師を務めた経験を持ち、ジャーナリストとして記事も書いている。

 

ウォレン博士 親にできる最も重要なことは、語学を学ぶ姿勢の模範を示すことです。例えば、子供と一緒に授業を受けて、一緒に英語の文を声に出して言う練習をすることもよいでしょう。子供と食事をしながら、英語だけで話すのもよいかもしれません。一緒にゲームをしたり、本を読むなど、ほとんど何でも英語で行うとよいでしょう。子供たちを英語を話す気にさせ、話す機会を与えれば、子供たちは気楽に英会話をするようになり、その結果、より優れた語学学習者となるでしょう。子供たちは、親が語学学習の模範を示すことで、英語を学習する気持ちになるのです。

 一般的に、外国語を学ぶことでどのような教育上の利点を得ることができますか。

ウォレン博士 外国語の学習には数々の利点があります。例えば、他人とのコミュニケーション能力の獲得、世界観の広がり、言語への認識が深まることによる母語能力の向上、語彙の増加などがあります。

 生涯にわたり語学学習に関心を持ってもらうには、どうしたらよいですか。

ウォレン博士 文化を教えることで、生徒たちは、文化とその言語をさらに学ぶことに関心を持つようになると思います。ですから、文化の勉強を語学学習の授業に組み入れることはとても大切です。