國重遥希 在日米国大使館 報道室 インターン

ユタ州で行われたCM撮影でメイクを担当するKodoさん

アメリカのユタ州で行われたCM撮影でモデルさんのメイクを担当するKodoさん

Kodo Nishimuraさんはミス・ユニバースやミスUSAの大会でメイクを担当するなど、アメリカや日本の美の最前線で活躍するメイクアップアーティストである。またLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)コミュニティーに向けた「LGBTフレンドリーなメイクアップ教室」などを開催する一方、僧侶としても活動している。今回、アメリカ留学を経て、多面的に活躍するに至った背景についてKodoさんにお話を聞いてきた。

アメリカとの出会い

Kodoさんは中学生のときにアン・ハサウェイとジュリー・アンドリュースが出演した映画「プリティ・プリンセス」を見て、主人公が自分の思っていることを堂々と話していることに感動し、「アメリカなら自分が思ったことを表現しても人々から受け入れられてもらえるんだ」と思ったそうだ。それがアメリカに興味を持ったきっかけだという。当時彼は学校で自分が思っていることを言えず、また自分自身の性に対する歯がゆさも持っており、そのことに息苦しさを感じて、自分を自由に表現できる環境に行きたいと思っていた。さらに、アメリカの音楽やファッションにも強い興味を持っていて、実際に目で見たいと感じていた。

インタビューに答えるKodoさん

映画「プリティ・プリンセス」の主人公が自分の思いを演説するシーンにインスピレーションを受けてアメリカに興味を持ったと語るKodoさん

アメリカに出発~パーソンズ大学へ

渡米したKodoさんはまず、ボストンの2年制私立大学で一般教養を学んだ後、ニューヨークにあるパーソンズ大学に入学してファインアート(美術)を専攻した。パーソンズでは、絵画、彫刻、ビデオなど多くの選択科目の中から自分の学びたいものを幅広く学べる環境が整っていた。重視されていたのは、優れた技術で美しいものを作ることではなく、「どんなメッセージをこのアートで伝えたいのか、どういう意味があってこれを作ったのか」ということ。この姿勢は、後に彼がメイクアップアーティストとして活動する上での原点でもある。人々を美しくするだけではなく、メイクをする理由やメイクで伝えたいメッセージが常に彼の頭の中にある。

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コンプレックスからの脱却~人をハッピーにしたい

アメリカに行った当初、彼はがっしりとした男性や、金髪で青い目の妖精のような女性と比較して、自分の体形や見た目にコンプレックスを感じており、日本人らしい外見を肯定的に受け入れることができなかった。

2007年5月、ミス・ユニバース世界大会で日本代表の森理世さんが優勝した。Kodoさんは、彼女の美しさに感動したという。彼女に施されたメイクは、黒い切れ長の目など、日本人特有の顔立ちを生かしてエキゾチックな魅力を引き出しており、金髪のバービー人形のような人たちと並んでも世界一美しいと思えるものだった。

2007年5月23日にメキシコシティで開催された2007ミス・ユニバース・コンテストで優勝に輝いた日本代表の森理世さん (AP Photo/Gregory Bull)

メキシコシティで開催された2007年ミス・ユニバース世界大会で優勝に輝いた日本代表の森理世さん (AP Photo/Gregory Bull)

彼にとって新しい憧れができた瞬間である。自分なりのメイクを始めていたKodoさんは、森理世さんを担当するメイクアップアーティストの門下に入ることを決心。その熱意を認められ、アシスタントになったところから本格的にメイクの修行が始まった。

メイクを通した応援活動

「意味のある作品作り」をパーソンズで学んだKodoさんは、自分もその一人であるLGBTの人々にもっと輝いてほしいと感じるようになり、メイクアップを通して彼らに自信を持ってもらう活動を行っている。特に日本では多様な性を持つ人たちに向けたメイクの情報が少ないことから、自分の知識を生かせると感じ、無料で「LGBTフレンドリーなメイクアップ教室」を開催している。

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かつて彼は、自らの性を正しく理解したり表現したりすることができなかった。日本にいたころは家族や友達に打ち明けたことはなかった。その状況が変わったのは、渡米してLGBTであることを隠さずに楽しんで生きている人と出会ったこと、道を埋め尽くすほど大勢のLGBT当事者と応援する人々のパレードを見たことなど、多様性を認める風土に初めて触れることができたからである。Kodoさんはどんな人でも、男性や女性という2つの性別にとらわれない多様な魅力を持つことができると言う。

一般に男性は勇ましく、女性はしなやかで細やかだとされているが、Kodoさんはこのようなステレオタイプに疑問を持っている。性別にとらわれず、その人にしかない魅力をメイクで表現することを大切にしているからだ。これはKodoさんのメイクを初めて写真で見たときの印象と重なる部分でもある。日本の多くのファッション誌に載っているような、女性らしい柔らかい印象の「男性受けの良い」メイクとまったくスケールが違い、その鮮やかで奇抜で中性的な美しさに衝撃を受けた。

Photo: Diego Vilarreal / Model: Sherry Q / Stylist: Kuschan Identite and Paolina Leccese / Hair: Leonor Del Castillo

私がKodoさんの作品に衝撃を受けインタビューをしたいと決めた一枚 (Photo: Diego Vilarreal / Model: Sherry Q / Stylist: Kuschan Hojjatian and Paolina Leccese / Hair: Leonor Del Castillo)

彼のメイクのモットーは、LGBTを理解するうえでの彼の考え方に繋がっている。大切なのは、人々を「ゲイ」「レズビアン」などのカテゴリーに分けて区別するよりも、「私はこういう人間で、この人が好き」という個々の感情を尊重することだとKodoさんは言う。彼は元々自分のことをゲイだと思っていたが、多様な人々と出会ったことによって、自分自身が「男性的でも女性的でもある」ことを発見できたと言う。カテゴリーを作ることはレッテル貼りをすることで、そのカテゴリーから外れた感情を持ったときに自分の気持ちを制限してしまうことになるのだ。

僧侶として

2015年12月、Kodoさんは僧侶になる修行を終えた。実家が浄土宗の寺だったことから、僧侶として生きる道は常にあった。メイクアップアーティストと僧侶の類似点を問われ、Kodoさんは「自分がハッピーでいなければ、人をハッピーにできないこと」と答えた。

もちろん葛藤もあった。僧侶は着飾ったり華やかな格好をしたりせず、欲を捨てて生きなければならないとされており、メイクアップアーティストと両立できないのではないかと考えたそうだ。しかし、Kodoさんがメイクをすることで世間が注目する存在となり、僧侶としてのメッセージが伝えやすくなるなら、自分にメイクをしたり、メイクアップアーティストとして活動することは良いのではないかと恩師にアドバイスされたことをきっかけに、自信をもってどちらの活動にも取り組めるようになったそうだ。

僧侶としても活動するKodoさん

僧侶としても活動するKodoさん

そんなKodoさんは、「個々の人々がもっと自分の色を出せるようになり、世界がもっとカラフルになってほしい」と言う。今日もKodoさんはメイクアップアーティストとして、僧侶として、そして日本人として奔走する。

最後に

直接お会いして話を聞き、Kodoさんのメイクを特別なものにしているのは、人をファッショナブルに美しく見せる彼のテクニックだけでなく、「人を幸せにしたい」「もっと個の色を際立たせたい」という目的意識であることがわかった。だからこそ、彼のメイクは、従来のありきたりな「女性らしさ」「男性らしさ」ではなく、メイクをされた人の個性を際立たせている。
彼がLGBTを理解する上で語った「区別しないで個々の気持ちを大事にする」というメッセージも、これからの社会のあり方の指針になると思った。多様な人々の「その人らしさ」を理解するには、細かいカテゴリーを作ってそのカテゴリーに当てはめていくよりも、「人を愛する気持ち」「自分らしくいたい気持ち」といった個々の感情を大切にすることの方が、より本質的であるとあらためて気づかされた。
メイクアップアーティストと僧侶という一見相反する彼のアイデンティティーも、根本をたどれば、人々が自分らしくいられる手助けをすることで、人をハッピーにしたいという思いが共通している。Kodoさんの魅力は、いくつものアイデンティティーを自分らしく染め上げているところにあるのではないだろうか?

西村さんから留学を考える人へのメッセージ