スコット・ハンセン

スコット・ハンセン 在日米国大使館政治部で人身売買、宗教、難民、人権等の問題を担当。前任地はタイの在チェンマイ領事館。2003 年の国務省入省前にJETプログラムに参加し、高知市で英語教員を務めた。ミシガン大学アナーバー校で経済学士号取得。

スコット・ハンセン 在日米国大使館政治部で人身売買、宗教、難民、人権等の問題を担当。前任地はタイの在チェンマイ領事館。2003 年の国務省入省前にJETプログラムに参加し、高知市で英語教員を務めた。ミシガン大学アナーバー校で経済学士号取得。

American View冬号で は、私が人身売買という忌まわしい犯罪と出合った経緯をお話ししました。あるフィリピン人女性から、だまされて日本に連れて来られたことや、日本でひどい 仕打ちを受けたことを聞いて、そのような野蛮な犯罪が身近に起こり得ることを知り、私はショックを受けました。在日米国大使館政治部で人身売買の問題を担 当している今、この犯罪が世界中で増加していると報告しなければならないことは残念です。私たちはこれまで以上に協力して、人間を奴隷のように扱うことを やめさせなければなりません。

前号で人身売買被害者保護法(TVPA)が定義する人身売買撲滅政策の3つの「P」、つまり人身売買の「防止(Prevention)」、被害者 の「保護(Protection)」と更正、および積極的な捜査に続く人身売買業者の「訴追(Prosecution)」について説明しました。また、 TVPAでは、同法が設定した「最低基準」に基づき、各国の防止・保護・訴追政策とその政策の実施状況に「成績」をつけることによって、深刻な人身売買の 根絶に向けた各国政府の取り組みを毎年、評価・報告するよう米国国務省に義務付けていることも説明しました。日本は2005 年に人身売買根絶の取り組みで第2階層国に昇格しましたが、2006 年と2007 年の報告書では、まだTVPA が定める最低基準を完全に満たしていませんでした。以下では、人身売買報告書で日本が第1階層国という評価を受けるために取り組む必要がある分野について お話します。

児童ポルノ

児童ポルノを規制する効果的な政策を持たない政府が、人身売買との戦いで評価されることはありません。児童ポルノの画像には、人身売買の最悪の形 態である子どもに対する残酷な性的暴力が描かれているものが多いのですが、日本では児童ポルノの購入と単純所持が違法でないため、こうした画像に対する世 界的な需要を生む一因となっています。

児童ポルノは、幼い子どもに影響を及ぼす暴力的犯罪です。米国の捜査当局によると、児童ポルノのコレクターはほぼ必ず、思春期前の子どもの画像を 所持しています。捜査当局の調査では、こうしたコレクターの83%は6歳から12歳までの子どもの画像を所持していました。また、3歳から5歳の子どもの 画像が関係した児童ポルノ事件は全体の39%で、3歳未満の幼児や乳児が関係したものは全体の19%でした。米国の研究者によると、児童ポルノ事件の 21%が、緊縛、レイプ、拷問などの暴力を描いた画像に関係するものであり、それらほとんどが、猿ぐつわをはめられたり、縛られたり、目隠しされたりと いった、加虐的な性行為に耐えている子どもの画像であることが分かりました。オーラルセックスを含む子どもとの性交の画像が問題となった事件は、全体の約 80%でした。

児童ポルノの悪夢は、虐待がなくなっても終わることがありません。レイプや性的虐待を受けた子どもたちは、性器損傷や裂傷のようなひどい傷害を 負ったり、性感染症の危険にさらされたりすることが多くなっています。心的外傷も計り知れないものがあり、うつ病、引きこもりなどの精神疾患に一生苦しめ られます。加えて、虐待の様子を撮影した写真やビデオは永久に残り、被害者を絶えず苦しめます。たとえ被害者の子どもが虐待する人間から逃れたとしても、 自分が虐待されている写真やビデオをほかの小児性愛者たちが見て興奮していることを知る恐怖から逃れることはありえません。

さらに、児童ポルノという犯罪が、現実の子どもに対する性的虐待につながることを示すたくさんの証拠があります。2007年の米国政府の調査によ ると、児童ポルノ関連の犯罪で有罪判決を受けた者の85%以上が、子どもを性的に虐待したことを認めています。児童ポルノを売買する者は、彼らの支援グ ループの役目を果たしている同好者のネットワーク(チャットルーム、Fサーブ、ニュースグループ、インターネット掲示板、ウェブサイトなど)に参加してい ます。彼らは簡単に出会い、お互いに親近感を持ち、連絡を取り合って児童ポルノを売買します。そして、自分と同じような人間がいることで安心し、自らの犯 罪行為を正当化します。子どもに対する性的空想は容認できると考える同好の士で構成される巨大ネットワークの一員であると感じます。そのため、空想を実行 に移すことに対する抑制力が低下し、実際に子どもを性的に虐待する可能性が高まります。連邦捜査局(FBI)の行動分析課を含め、世界中の多数の心理学専 門家が、子どもへの性犯罪者に関する研究でこの関連性を立証しています。犯罪者から得た情報を分析すると、児童ポルノ愛好家の中には、児童ポルノに刺激さ れて、自分たちの空想の世界を現実の子どもで実現しようとする者もいることは間違いありません。

子どもに性的虐待を行う人間は、児童ポルノを使って子どもたちを誘惑します。子どもを装うおとり捜査官によると、性犯罪者は、子どもと性的関係を 持つ可能性を高めるために子どもたちを「教育」するプロセスの一環として、児童ポルノの画像を日常的に送りつけてくるそうです。性犯罪者たちは、大人との 性行為が楽しく容認されているものだと納得すれば、子どもは性的関係を結ぶようになると期待して、ほかの子どもが大人との性行為を楽しんでいるように見え る画像を子どもに送って彼らの感覚をまひさせ、抵抗感を弱めようとします。

児童ポルノに関連するリスクは、画像が実際のものであろうと、漫画であろうと変わらないように思われます。自国の法廷で児童ポルノの問題に取り組 んできた米国は、絵と現実の子どもの画像とは違うということは認識していますが、児童ポルノを描いた漫画やアニメの売買は犯罪とすべきであるという立場を 取っています。子どもに性的虐待を行う人間は、現実の子どもの画像と同じように、子どもに対する性的虐待を描いた漫画やアニメなどの虚構の画像を使って自 分たちの空想をあおり、現実の子どもに対する欲望をかき立て、子どもたちの性行為に対する抵抗感を弱め、感覚をまひさせ、性行為は楽しくて受け入れられて いることだと納得させることで、傷つきやすい子どもたちを教育して性的関係を持とうとします。これは、特に現実の子どもの画像と区別しがたい合成写真やコ ンピューター・グラフィックス(CG)画像に言えることです。子どもに性的関心を抱きがちな人間が見れば、子どもに対する性的虐待を描いた漫画やアニメさ えも、このような関心が正しいものであることを証明し、子どもに対する性的空想を促し、こうした行為を正当化する手立てになりえます。そして、彼らが子ど もを性的に虐待して自分の空想を実行に移す危険が高まります。子どもが性行為を行う露骨な画像は、それがすでに被害者となった現実の子どもを写した画像 か、無邪気で傷つきやすい子どもを誘惑して実際の被害者とする目的で使われる、作られた画像であるかにかかわらず、すべて危険です。控えめにいっても、こ のような画像を簡単に入手できることは、私たちの社会で子どもに対する性的搾取や小児性愛的関心を促進する一因になります。

法律でCGや漫画・アニメによる児童ポルノを禁止しないことが問題なのは、性的虐待につながるからだけではありません。ほかの種類の児童ポルノを 取り締まる法律の執行能力を損なう結果にもなっているからです。さらに、このような画像の単純所持を違法とする適切な法律がない場合には、子どもたちに対 する性的搾取が増加し、子どもたちが小児性愛者向けの商品として、私たちの社会で永遠に受け入れられるものになってしまうリスクに直面します。

日本の児童ポルノは世界のほかの国々にも影響します。インターネット利用の増加により、国境による制約を受けることなく、児童ポルノを入手、売 買、配信する人の数が激増しました。加えて、今日の巨大な児童ポルノ市場は、規模がさらに拡大し、内容もずっと過激になっています。そして、この市場が大 きくなっている要因は、児童ポルノの所有者がどん欲にこれを求めるからです。さらに悪いことに、この欲求を満たすには、より多くの子どもたちに対し、さら に過激なやり方で、実際に性的虐待を加えるしかありません。この犯罪から影響を受けない国はありません。そして、世界中の子どもたちを確実に保護するに は、政府、法執行機関、市民社会が協調して取り組む必要があります。

米国政府から資金援助を受け、人身売買の危険から子どもたちを守っている学校で遊ぶタイの少女たち(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

米国政府から資金援助を受け、人身売買の危険から子どもたちを守っている学校で遊ぶタイの少女たち(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

米国にも深刻な児童ポルノの問題がありますが、わが国の法的枠組みは、法執行当局に、児童ポルノ関連の犯罪者を効果的に捜査・訴追するために必要 な手段を与えています。日本では、児童ポルノの単純所持を犯罪とする法律がないため、警察が児童ポルノ関連の犯罪を積極的に捜査することができない場合が 多くあります。日本のインターネット・サービスプロバイダーは、法執行当局が、児童ポルノを取引し広めるためにつくられた日本のeグループ、ニュースグ ループ、インターネット掲示板の大幅な増加に追いつくことができないと認識しています。警察庁によると、児童ポルノの単純所持が違法でないため、捜査員が 容疑者のコンピューターを押収したり、捜索するために捜査令状を取ることはほとんど不可能です。今日の児童ポルノ関連の刑事訴追は、多くの場合、コン ピューターのハードドライブに保存された画像がらみか、もしくは児童ポルノの画像にアクセスしたことが判明しているインターネット・プロトコール(IP) アドレスに端を発します。日本の裁判所は、IPアドレス情報に基づいて捜査令状を発付することができないため、日本の警察は児童ポルノの取引と効果的に戦 うことができません。

また、単純所持を犯罪とする法律がないため、日本は多くの場合、児童ポルノ関連の国際的な捜査に参加することができません。日本の警察庁は世界の 法執行当局の間で高い評価を得ており、さまざまな国際捜査で広く協力しています。しかし残念ながら、日本では児童ポルノの所持が違法でないため、警察庁 は、最も頻繁に実施される児童ポルノ関連の国際捜査に参加することができないのです。その捜査とは、児童ポルノを取引する商業ウェブサイトやその他のイン ターネット・コミュニティーから得た膨大な顧客リストを捜査対象にしたものです。これらの事件では、法執行機関が法的手続きを取るために使うことができる 証拠は、捜査対象がパソコン上で児童ポルノを所有している、という事実だけです。こうした国際捜査では、ある国がほかの国に証拠を渡し、児童ポルノを所有 していると信じるに足る根拠がある場合に捜査令状を取ってパソコンを押収します。押収したパソコンの証拠に基づき、通常はまず児童ポルノの所有の罪でこの 捜査対象を逮捕しますが、多くの事件では、捜査員は、これらの画像を所有しているだけでなく、子どもを虐待してこうした画像を製造している、最も罪が重い 犯罪者を見つけ出します。

警察の捜査権限が強くなりすぎることを理由に単純所持を違法とすることに異議を唱える人がいますが、私はそれに強く反対します。児童ポルノの所有 を違法とする法律は、子どもに対する大きな脅威に対処することを目的としており、それ自体で警察に新たな権限を付与するものではありません。個人のコン ピューターを捜索して単純所持を違法とする法律を執行するには、警察はまず裁判所に捜査令状を申請しなければなりません。そのコンピューターに犯罪の証拠 があると信じるに足るほぼ確実な根拠があると判断しなければ、判事は令状を出しません。裁判所命令なしに違法な捜査または押収を行いたいと思っている腐敗 した警察官の場合には、児童ポルノの所有を違法とする法律がなくてもこのような不正を行います。こうした行為には直接対処すべきであり、子どもの保護とい う極めて重要な問題に取り組むことを目的とした刑事法の成立を拒絶することによって対処すべきではありません。最も重要なことは、今、子どもの権利が侵害 されていることを認識することです。子どもが日常的に犠牲となっている現状を食い止めるために行動することが、私たちの最優先課題です。

「少女と地域の開発・教育プログラムセンター(DEPDC)」は、教師や地域の指導者と協力して、子どもたちが人身売買の犠牲者にならないよう活動している(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

「少女と地域の開発・教育プログラムセンター(DEPDC)」は、教師や地域の指導者と協力して、子どもたちが人身売買の犠牲者にならないよう活動している(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

民主的な市民社会の法律には、子どもたちが成人市民へと健全に成長することを保障する規定があります。プライバシーや言論の自由は重要な権利です が、無制限に認められるものではありません。例えば、米国の裁判所は長年にわたり、わいせつと児童ポルノに保護を受ける権利は与えられていない、という判 断を下してきました。この点と、子どもに性的虐待を加える画像がもたらす深刻なリスクにかんがみ、連邦議会は、子どもを守ることの本質的な利益はプライバ シーや言論の自由の権利の侵害よりも重要であると判断し、児童ポルノを取り締まる厳しい法律を成立させました。各国政府は、子どもを性的に虐待する人間や 児童ポルノ愛好家など、子どもを性的に搾取する者から子どもを守ることに強い関心を持っています。その関心は、単純所持による児童ポルノの使用を含む流通 網のあらゆるレベルで、児童ポルノの取引を撲滅することにまで及んでいます。

今、世界規模での子どもの保護に貢献するまたとない機会が日本に巡ってきました。「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関 する法律(児童買春法)」の3年間の見直しが、今年期限を迎えます。主要8カ国の中で児童ポルノの所持を非合法化していないのは日本とロシアの2カ国だけ です。米国は、福田首相と鳩山法務大臣が先ごろ国会で、単純所持を違法とすることを求める発言をしたことに加え、複数の政党に法律を見直す動きがあること を歓迎しています。また、日本の国会が児童買春法を改正して、児童ポルノの広告、入手、購入、所持を犯罪とし、処罰することを期待しています。この改正が 行われれば、児童ポルノという忌まわしい犯罪との国際的な戦いに、日本の法執行官の専門知識や技術を役立てることが可能になるので、世界中で子どもの保護 を著しく強化することができます。

また、児童失踪・児童虐待国際センターは、世界のベストプラクティス(最優良事例)としては存在するにもかかわらず、日本にはない法律がもうひと つある、としています。それは、児童ポルノに関連する活動を法執行当局に通報することをインターネット・サービスプロバイダーに義務付ける法律です。米国 は、日本の国会がこの有用な法律の採択を検討することも期待しています。

被害者の認知

米国政府は、人身売買の被害者として分類が可能な女性が、日本の当局によって強制送還されたという報告を何件か受けました。日本には、正式な被害者認知手続きがないため、日本政府は人身売買被害者が犯罪者として強制送還されることはないと保証することができません。

人身売買被害者が自ら名乗り出ることはほとんどありません。被害者たちは、自分の身に起きたことを話したがりません。特に最初の面接ではそうで す。それには多くの理由があります。ほとんどの被害者は、当局に話したら暴力を振るうと言って売買業者から脅されていますし、警察に通報したら家族に危害 を加えると警告されている場合もあります。さらに、被害者が知らない人を信用することは考えにくく、ことに国籍や話す言葉が違う人は信用しません。面接官 が警察官である場合は特にそうです。被害者が生まれた社会では、当局が腐敗している場合が多々あります。人身売買から逃れた人々は通常、母国の警察に不信 感を抱いているため、自分が搾取されている国の法執行機関にも同様に恐怖心を抱きます。また、被害者は、売買業者から、警察の残忍な行為と強制送還につい てうそを聞かされているので、当局に犯罪者として扱われ、拘禁され、強制送還されると信じるようになります。被害者が売買業者と個人的な関係を結んでいる 場合もあります。例えば、女性を売買するために配偶者ビザを使う事例は世界中で増加しています。たとえ「配偶者」から虐待を受けていたとしても、配偶者を 警察に引き渡すことに抵抗を感じる被害者もいます。

人身売買の被害者を見分けるには、法執行官は特別な訓練を受けていなければなりません。どの国でも、警察官の最も重要な任務は、犯罪行為を特定し た上で犯罪者を逮捕し、公共の安全を確保することです。被害者の可能性がある人を面接する際に警察官が最優先することは、犯罪の立件です。そのため警察官 は、人身売買の被害者を正しく認知する上で適切でない質問をすることになります。人身売買の被害者を認知するための所定の手続きがなければ、ある人物が人 身売買の被害者であることを示す兆候に警察官や入国審査官が気づく可能性は低くなります。米国では被害者の認知手続きが整備される以前、売春禁止法違反の 女性を逮捕するよう訓練されてきた警察官は、人身売買の被害者と売春禁止法違反者の違いを見分けることは困難だと思っていました。また、特定の人物の米国 滞在が合法かどうかを判断する訓練を受けてきた出入国審査官は、人身売買の被害者を不法移民、不法就労者、あるいは売春婦と見なしていました。このように 人身売買の被害者を犯罪者として認知すれば、罪のない被害者を拘禁したり強制送還したりすることになります。

警官と入国審査官、特に風俗店従業員(および労働者)と接する機会の多い担当官は、加害者による監禁、強制労働、性行為の強要、虐待などに関する 情報を引き出すための正式な尋問方法について訓練を受けなければなりません。警察庁は、警官を対象に、被害者の認知に関する情報を提供する会議を定期的に 開催していますが、これは正式な訓練の代わりとして十分ではありません。正確に被害者を選別するには、まず、実際に面接を行う前に評価できる指標を審査し ます。以下に示す指標は、被害者の可能性がある者を見分ける際に役立ちます。

  • 被害者の可能性がある者の年齢
  • 被害者が従事する仕事の性質(ホステス、デートサービス、工場労働者など)
  • 誰かに管理されている証拠がある
  • あざやその他の身体的虐待の痕跡がある
  • 恐怖心やうつの症状が見られる
  • 自分のことを話さない、あるいは現地の言葉を話さない
  • パスポートやその他の身分証明書や渡航書類がない

これらの指標がひとつでも当てはまる場合には、面接官は人身売買であることを示す重要な要素があるかどうかを判断するために、次のような質問をすべきです。

  • どのような仕事をしていますか。
  • その仕事を知った経緯を教えてください。どのように応募しましたか。
  • 仕事の仲介料を支払いましたか。誰が渡航費用を負担したのですか。
  • どのように日本へ入国したのですか。
  • 身分証明書や渡航書類は取り上げられましたか。
  • パスポートはどこにありますか。
  • 現在の仕事は最初に予想していたような仕事ですか。
  • 日本到着から働き始めるまでどれくらいの期間がありましたか。
  • 報酬を受け取っていますか。金額はいくらですか。もらったお金は自分の手元に残すことができますか。
  • 返済しなければならない借金がありますか。
  • 自分が望めば、仕事を辞めることができますか。
  • 自分の思い通りに行動できますか。
  • 今までに自分や家族が脅されたことがありますか。
  • 職場や生活の環境はどうですか。
  • どこで寝泊りしていますか。
  • 食べたり寝たりトイレに行くのに許可が必要ですか。
  • 外に出ることができないように部屋のドアや窓に鍵がかかっていますか。

捜査と訴追を効果的に行うためには、早期に被害者を認知することが重要です。人身売買の捜査は最初が肝心です。起訴された人身売買事件に関する国 際調査では、被害者の早期の認知とその後の捜査官の対応によって、人身売買業者に対する訴追のスピード、容易さ、および成否が決まることが分かっていま す。結局のところ、最初に対応した捜査官が被害者認知手続きの正式な訓練を受けていた場合に、最大の成果が上がっています。そのような捜査官は被害者の ニーズにより敏感で、彼らの最適な扱い方を知っており、証拠を裏付ける優れた情報源を持っています。日本では、各地の所轄警察署が、人身売買の疑いがあれ ば警察庁の生活環境課に通報するよう指示されています。これは大きな前進です。私たちは日本政府が、被害者の認知手続きの導入に加え、この重要な手続きの 促進を続けるよう願っています。

被害者の保護

日本政府の人身売買政策に関する最大の懸念のひとつは、被害者の保護です。現在、各地の婦人相談所では、母国語による被害者へのカウンセリングは 行われておらず、被害者に証言を促すための公式の政策やプログラムもなく、婦人相談所のスタッフは、人身売買被害者の特定のニーズを満たすための十分な訓 練を受けていません。また、本国への送還の影響について評価を行うのが遅すぎるため、被害者が本国でつらい目にあったり報復を受けるような場合でも、代替 策を提案することができません。

社会復帰を促す安全な環境が保護の基盤であり、捜査と訴追での被害者の協力を促すための前提条件でもあります。被害者に母国語でカウンセリングを 行うことは、安全な環境づくりに重要であり、また被害者の中には暴力によるトラウマを経験している人もいるため、彼らが社会復帰を果たす上でも欠かせませ ん。婦人相談所には通訳サービス(通常は、警察官による尋問に利用されます)を雇う資金が提供されていますが、婦人相談所のスタッフによると、これらの通 訳者は被害者に対するカウンセリングの訓練を受けていません。通訳者が被害者に対し、犯罪者に対するのと同じような尋問型の面接手法を使い、被害者の精神 的トラウマをさらに悪化させるという報告があります。

日本の関係省庁が策定した「人身取引対策行動計画」は、人身売買被害者の捜査と訴追への協力を促すことには触れていません。政府が被害者の協力を 重視しなければ、警察や婦人相談所のスタッフが被害者に協力を促す可能性はさらに低くなります。婦人相談所のスタッフは、被害者が捜査に協力することを思 いとどまらせるようにしており、自らそれを認めています。その理由は、被害者が協力すれば、彼らの滞在が長期化し、婦人相談所の限られた資源を使うことに なるからです。婦人相談所のスタッフによると、ある事例で婦人相談所は、政府の指示がないため、被害者に代わって弁護士に連絡することはできないと被害者 に言ったそうです。加えて、精神的に安全と感じられる環境は、被害者に捜査と訴追への協力を促すための前提条件です。母国語でカウンセリングを受けること ができないと、被害者は精神的な安全を感じることができないため、多くの場合、裁判手続きが始まる前に本国送還を選択すると報告されています。

厚生労働省の「婦人相談所における人身取引被害者支援の手引き」は、警察その他の機関と連携するよう婦人相談所に指示していますが、被害者が人身 売買容疑者を刑事または民事告発する際の明確な支援手続きは定めていません。このガイドラインは「被害者が告訴を希望する場合」のみに適用され、被害者に 告訴を促すための指示は全くありません。

人身売買の被害者は、配偶者からの暴力の被害者とは異なる支援や配慮を必要とします。カウンセリングは、人身売買の被害者が経験する特異なトラウ マに応じたものでなければなりません。また、カウンセラーは、語学力を備え、文化面で細かな神経が行き届いていなければいけません。政府は各地の婦人相談 所を集めて年次会議を開催し、また前出の手引きを全国の婦人相談所に配布していますが、これらの対策は正式な訓練の代用とするには不十分です。婦人相談所 のスタッフは、政府が提供する、人身売買の被害者を適切に扱うための訓練、人員、資金、指導などは十分でないと明言しています。人身売買の被害者の特定の ニーズに応えるための訓練を婦人相談所のスタッフに行っていないことから、政府は被害者を十分に保護することができません。

ベストプラクティスの政策は、人身売買の被害者が報復やつらい状況に直面する可能性がある国への移動以外の合法的な代替案を政府が被害者に提示す ることです。日本政府は人身売買の被害者を認知すると自動的に婦人相談所に送りますが、婦人相談所は現在、本国送還前の居所としてしか利用されていませ ん。日本の法律により人身売買の被害者に認められる在留資格では、事業の運営や、給与の支払いを受けるような活動に従事することが禁じられているので、彼 らはこうしたシェルターにとどまるほかありません。被害者は経済的に自立することができず、社会福祉を受ける資格もないので、本国送還以外の合法的な選択 肢はありません。

さらに、本国に送還されると被害者がつらい目にあったり報復を受けるとの判断が下された後には、もはや政府が送還に替わる合法的な手立てを示すこ とはできません。現在、本国送還の影響を日本で評価しているのは国際移住機関(IOM)だけです。IOMが事件に関与すれば、当然、被害者が本国に送還さ れることを意味するため、この評価は、被害者が苦難や報復に遭うと予見される場合に、本国送還に替わる手立てを提供するという枠組みの中で行われるわけで はありません。

西ヨーロッパで働くこの売春婦の女性は、脅されて全収入を人身売買業者に渡している。豊かなヨーロッパ諸国では性的目的の人身売買が多く見られる(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

西ヨーロッパで働くこの売春婦の女性は、脅されて全収入を人身売買業者に渡している。豊かなヨーロッパ諸国では性的目的の人身売買が多く見られる(写真 Kay Chernush for the U.S. State Department)

結論

人身売買の問題と戦っているのは日本だけではありません。世界の多くの国々が、日本の経験から多くを学ぼうとしています。そして、日本政府がこの 犯罪との戦いに、国際社会を積極的に関与させていることは、極めて有効なことです。米国は、今よりも希望に満ちた世界を築くために、日本と引き続き協力し ていきたいと考えています。

その中で、私たちには次のようなことができると思います。

  • 日本に人身売買が存在することを周りの人々に知らせましょう。この忌まわしい犯罪が国際的に認識されたのは比較的最近のことです。情報を流しま しょう。被害者が自由意志で日本に来たとしても、また、被害者がいくらかのお金を持って本国に帰る可能性があるとしても、彼らがだまされてきたのであり、 自由がなく、犯罪の被害者であることを人々に伝えましょう。
  • 売春と人身売買との間に強い関連性があることを忘れないでいましょう。風俗街の繁栄を許せば、被害者の搾取に適した環境が作り出されます。性的サービスを受ける客は、風俗産業の需要を生み出し、人身売買業者にとっての機会をつくり出します。
  • 人身売買と児童ポルノに関する記事や論文を書いて発表しましょう。
  • 搾取的な環境で営業する業者を知っている場合には警察に通報しましょう。
  • 被害者を支援する非政府組織(NGO)やその他の組織でボランティアをしたり、寄付をしましょう。

最後に、コリン・パウエル前国務長官の言葉を引用します。

「私たちが人身売買と戦うのは、この犯罪の被害者と被害者となり得る人々のためだけではない。私たちは、私たち自身のために戦っているのだ。それは、他人の尊厳を守らなければ、人間として自らの尊厳を十分に守ることはできないからである」